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仮面のくすぐりセラピー:第二幕 ― 翻弄の舞
しおりを挟む静寂の部屋。
仮面をつけた彩華は、薄明かりのなか、絹のガウンをまとい、ゆっくりと長椅子に誘導される。
セラピストたちは、声を発さず、ただ所作だけで心を導いていく。
この沈黙こそが、感覚を研ぎ澄ませる。目を覆われていないのに、見えないという安心。
佐伯が、そっと手を取る。池尾が、足首を固定する。
拘束ではない、**「預ける」**ような安定感。
彩華は静かに息を吐き、深く身体を沈めた。
そこに――始まる。
くすぐりの 交響曲 が。
まず、佐伯の指先が、彩華の耳の裏に触れる。
羽根のように、けれど生きた皮膚でしか感じられない緻密なくすぐり。
同時に池尾が、片足の裏を両手で包み込み、
中指で足指の間を、しゅるり……と這わせていく。
「ふ……くふっ……あ、ぁ……」
仮面の奥から、こぼれた甘い声。
それは、彩華自身が驚くほど、本能に近い。
「気持ちよく笑ってください」
佐伯がそうささやいたとき、指はすでに彩華の脇腹に降りていた。
肋骨に沿って、指が左右交互に動くたびに、身体が細かく跳ねる。
「ふはっ、ふふ、やっ……ああ、そんな、っ……」
足元では池尾が、足の裏全体を滑るようにくすぐりながら、
親指で土踏まずを、くるくると、小さな渦のように愛撫している。
仮面の奥の彩華は、もう目を閉じている――
自分が誰かも、どこにいるかも忘れかけていた。
そのとき――
指先が重なった。
佐伯が首筋から肩を、池尾が膝裏から太ももへ。
ふたりのセラピストの指が、くすぐりの波を交互に重ね、ずらし、重奏に変える。
「だ、だめぇっ、あっ、あはははっ、ふふっ、ふぁっ……!」
笑いがこみ上げて止まらない。
仮面がなければ、彩華はきっと「恥ずかしい」と思っただろう。
でも今は違う。
誰にも見られていない。けれど、心だけは見つめられている。
そんな逆説の快感に、心がほどけていく。
セラピストの指は、決して乱暴ではない。
だが、容赦もない。
笑いと、身悶えと、甘い悲鳴が幾重にも重なり、
彩華の身体はまるで楽器のように震えていた。
「……くすぐったくて、気持ちいい……っ、もっと……」
仮面の奥で、ついにそうつぶやいたとき、
ふたりのセラピストは、そっと手を止めた。
そして、彩華の耳元に――
「次のセッションでは、仮面を脱いでみたいと思いますか?」
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