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くすぐりセラピー:最終セッション ― 本当のあなたに触れる
しおりを挟む仮面をそっと外した瞬間、
セラピストたちの手が止まる。
仮面の下にあったのは、何も飾らない、
微かな羞じらいと、揺れる決意を宿した瞳。
「……彩華さん」
呼び名が、変わった。
敬意と親しみ、そして深い愛情を込めて。
ふたりのセラピスト――池尾と佐伯は、
彩華の目を見てから、同時に膝をつき、
その手を、そっと取る。
くすぐりは、もう始まっている。
触れる前から、心が、甘く震えているのだから。
「本当のあなたに触れさせてください」
佐伯が、耳元に息を吹きかける。
「すべてを、笑いでほどいていきます」
池尾の指が、ゆっくりと足元をなぞる。
彩華の身体は、最初の震えにすでに応えていた。
「……くすぐったい……ふふっ……」
指の動きは、まるで相手の呼吸を読むように、
急がず、けれど確かに、彩華の感覚をほどいていく。
脇腹に沿って、佐伯の指がそっと滑る。
背筋に電流が走り、彩華の口から笑いが漏れる。
「あはっ……ふ、んん……ふふっ……」
そして同時に池尾が、足の裏を両手で包み込み、
親指で土踏まずを、時間をかけて、ゆっくり円を描くようにくすぐる。
「彩華さん、もっと力を抜いて」
佐伯がそう囁くと同時に、くすぐりのテンポが変わる。
指と指の間、脇の奥、膝の内側――
笑いをこらえる間もないほど、くすぐったい場所を、確かに、愛情深くくすぐられる。
「くすぐったい……っ! でも……なんか……あぁっ、だめ……っ、ふふっ、やぁっ、あはは……!」
彩華の笑い声は、心の蓋が外れるたびに大きく、自由になっていく。
くすぐったさと、愛される安堵とが混ざりあい、
涙さえにじむほど、深い解放の感覚が訪れる。
佐伯が、胸の前で手を重ねて言う。
「彩華さん、いま、すべてが美しいんですよ」
池尾も、そっと耳元で囁く。
「この笑いが、あなたの本質です。大切に、愛します」
くすぐりはなお続く。
でももう、抵抗ではなく、
受け入れたいという願いが、彩華の中に確かに灯っていた。
「……ありがとう……くすぐったくて……幸せです……」
その声を聞いて、ふたりのセラピストは、微笑んだ。
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