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くすぐりセラピー ― 深淵のセッション
しおりを挟むシーツの上で、彩華は静かに横たわっていた。
笑い疲れて少し汗ばんだ肌を、佐伯がそっと撫でる。
「まだ終わりじゃありませんよ。ここからが、本当のセラピーです」
池尾は、彩華の足元に座り、
やわらかなブラシを手に取りながら、優しく言った。
「さっきまでは、表層。
今度は、深層。あなたがまだ気づいていない、奥の奥を呼び覚ましていきますね」
佐伯は絹の手袋をはめ、
彩華の首筋に、まるで羽毛のようなタッチで指先を滑らせる。
「……ぁ……ふ、ふふっ……」
くすぐったさはあるのに、どこか夢の中のような感覚。
身体が、現実から少しずつ浮いていく。
池尾が、彩華の足指一本一本を、丁寧に、まるで撫でるように刺激していく。
「指の間って、甘い記憶が詰まってるんです。
笑いだけじゃなく、泣きたくなるようなやさしさも、ここにあるんですよ」
「やだ……なにこれ……あっ……ふふ、くすぐったい、けど……すごく、気持ちいい……」
佐伯の指が、脇腹のくぼみをなぞる。
池尾のブラシが、膝裏からふくらはぎへと這い、同時にくすぐりが広がっていく。
彩華の身体は波打つように震え、笑いながら、心の奥にあった感情が溢れてくる。
「ふふ……ふ、ふふふっ……もう、だめ……でも……もっと……ふふ……」
呼吸が深くなり、笑い声は、ときに裏返る。
それでも、ふたりのくすぐりは止まらない。
まるで愛という音楽を、彩華という楽器に奏でているように。
佐伯が囁く。
「いま、あなたのすべてが響いています。心も、感覚も、過去さえも」
池尾が続ける。
「このくすぐりは、あなたの深さに触れるための祈りです。愛しています、彩華さん」
彩華の身体は、くすぐったさと安心に包まれながら、
これまで味わったことのない静けさに沈み込んでいく。
笑いの奥にある、無音の幸福。
――それが、「深淵のセッション」。
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