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ノーラのノート
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畑の整備をして、ささやかな食事をとり、根城を清潔に保つ。
特に刺激のない、判子を押したかのような、代わり映えのない日々。
根城は平和そのものだが、結界の外では魔物が騒がしくしている気配が増している。
時折、結界を破ろうと突進してくる大型の魔物もいるが、憂さ晴らしも込めて雷で焼き焦がしている。
どれだけ畑の手入れをしても徐々に実りが悪くなっている。
そろそろ誰か一人くらいは魔王の情報を持ち帰っているだろうか。
天気の悪い日も多くなってきた。
今日はバケツをひっくり返したかのような大雨である。
畑がいじれず、何をするでもない無為な時間を過ごすことになる。
ぼうっと窓を眺めていると、ふとあの少女のことを思い出した。
突然現れ、突然消えた少女、ノーラ。
呪いについて調べているといい、図書館では黙々と本を読み調べていた。
ノーラの遺留品であるノートは今、手元にある。
あの日何とはなしに持ち帰ってから棚にしまったままだ。
棚から取り出してぱらりと中身を見る。
かつて私が師匠から教わったのは、身体強化や天候操作、
治癒などの魔法だ。
呪いについてはかけられても術者を殺してしまえばいいと言われていたし、そもそも呪いをかける人間などいないに等しかった。
魔力量も魔法技術も私は高位のものだと自負しているが、呪いについてはさっぱりだ。
図書館で熱中して調べていた少女の様子を思い出す。
ノーラの実年齢が幾つなのかは知らないが、見た目はただの小さな女の子だ。
加えて、中身の年齢も私より上だということはないだろう。
その少女がしていたことを私が同じようにできなかった事実に悔しい思いがする。
この私が誰かよりも劣っているなんて認め難い。
剣術や体力で負けるならいざ知らず、頭脳や魔法に関することで負けたくない。
椅子に深く座り直して、ノートを1ページめに戻した。
ノーラの書いたノートから呪いについての知識を頭に入れていく。
呪いは術者を殺せばそれでいい、という力業での解決策だけでなく、満遍なく基本的な知識を吸収する。
呪いのかけ方や仕組み、呪いをかけることによって起こる自分と相手への影響などだ。
呪いは術者の魔力を相手の血液に流すことでかけることができる。
どういう形であれ、相手と接触する必要があるのだ。
それは直接でもよいし、魔具や陣などを介して間接的にでもよい。
そうしてかけられた呪いは、術者が魔力を流し続けることで効果を持続させる。
生半可な魔力で呪いをかければ、逆に自分の寿命を削るはめになる。
不思議なのが、身体強化や攻撃魔法などは限界まで使ったところで精々が息切れする程度なのに、呪いで魔力を消耗すると死に至る点だ。
通常の魔法と呪いとでは、魔力消費の仕組みが違うのだろうか。
余程魔力に自信のある者か、刺し違える覚悟で呪いをかけようとする者でないと呪いはかけない。
そのため、人間が呪いをかけることはほぼない。
呪いは知能の高い魔物が用いることが多く、実際に私もかけられた経験がある。
そのときは指先から痺れが全身に蔓延して、やがて心臓が動かなくなるという呪いだった。
呪いにかかった瞬間に、即効で魔力弾で魔物を撃ち抜いたから、特に被害はなかったが。
術者を殺せば呪いが解けるというのは、人間相手でも魔物相手でも共通している。
しかし。
「…魔物にかけられた呪い、か」
魔物と魔王に、明確な違いはない。
魔物の集団の中から、恐らくは魔力量が多く知能の高い個が魔王に選ばれている。
魔王討伐に向かった者の中には、対戦途中で引き返そうとする者もいる。
実力差に逃げ帰る者、治療薬がなくなり体制を整え直そうとする者、情報を持ち帰ることが主目的の者。
それらの者たちの帰りを阻むのが、魔王による呪い。
接触をしていないはずの者も呪いによって死んでいくことがある。
魔力ではなく魔物の血液を使用する呪いもあるのだ、他にも何か呪いのかけ方があるのかもしれない。
これまでの長い人生で、魔法技術の研鑽は頻繁に行っていたが、知識を吸収し吟味し思考するということはあまりしてこなかった。
というか、無意識に避けていた気がする。
ノーラの本やノートを数ページ数行読み進めては、不明点の確認に読み返す作業を繰り返す。
今までろくに書物に触れてこなかったつけがまわってきた気分だ。
辛うじて文字はきちんと覚えていてよかった。
たまに結界の外で手頃な魔物を引っ捕らえては、呪いをかけて実践してみる。
文字を追っかけ慣れない思考をし、薄く積もっていた鬱憤を容赦なく魔物にぶつけていく。
実践はいい。小難しいことを考えずに高みを目指せる。
思う存分実践を重ねて、呪いに関する知識を吸収し終えたら、それ以外についても範囲を広げて細かく読みといていく。
魔王が倒され魔物が少なくなるまでは学びに費やすつもりだが、呪いに関することだけでは時間が有り余ってしまう。
かつて私に魔法を教えてくれた師匠は、感覚的に教える人だった。
私も感覚派だったためすごく理解しやすかったが、反面、理論については触れてこなかった。
魔法の発動時に体内で起こる魔力の流れ。
人によって違う、使える魔法タイプの相性の良し悪し。
魔力の練り方によって変わる魔法の威力や回数。
同じ魔法でも、効率的に魔力を練れば、魔力量が多い人よりも回数を重ねて使用することも可能らしい。
確かに、私よりも確実に魔力量が低い人間が、わたしと競えるくらいに魔法を連発していたのを思い出す。
ふむ。まだ向上の余地があるということか。
感覚的に覚え修練し会得した魔法も、理論をおさえて研鑽し直せば、まだ磨くことができる。
理論的に学ぶというのも悪くはないな。
特に刺激のない、判子を押したかのような、代わり映えのない日々。
根城は平和そのものだが、結界の外では魔物が騒がしくしている気配が増している。
時折、結界を破ろうと突進してくる大型の魔物もいるが、憂さ晴らしも込めて雷で焼き焦がしている。
どれだけ畑の手入れをしても徐々に実りが悪くなっている。
そろそろ誰か一人くらいは魔王の情報を持ち帰っているだろうか。
天気の悪い日も多くなってきた。
今日はバケツをひっくり返したかのような大雨である。
畑がいじれず、何をするでもない無為な時間を過ごすことになる。
ぼうっと窓を眺めていると、ふとあの少女のことを思い出した。
突然現れ、突然消えた少女、ノーラ。
呪いについて調べているといい、図書館では黙々と本を読み調べていた。
ノーラの遺留品であるノートは今、手元にある。
あの日何とはなしに持ち帰ってから棚にしまったままだ。
棚から取り出してぱらりと中身を見る。
かつて私が師匠から教わったのは、身体強化や天候操作、
治癒などの魔法だ。
呪いについてはかけられても術者を殺してしまえばいいと言われていたし、そもそも呪いをかける人間などいないに等しかった。
魔力量も魔法技術も私は高位のものだと自負しているが、呪いについてはさっぱりだ。
図書館で熱中して調べていた少女の様子を思い出す。
ノーラの実年齢が幾つなのかは知らないが、見た目はただの小さな女の子だ。
加えて、中身の年齢も私より上だということはないだろう。
その少女がしていたことを私が同じようにできなかった事実に悔しい思いがする。
この私が誰かよりも劣っているなんて認め難い。
剣術や体力で負けるならいざ知らず、頭脳や魔法に関することで負けたくない。
椅子に深く座り直して、ノートを1ページめに戻した。
ノーラの書いたノートから呪いについての知識を頭に入れていく。
呪いは術者を殺せばそれでいい、という力業での解決策だけでなく、満遍なく基本的な知識を吸収する。
呪いのかけ方や仕組み、呪いをかけることによって起こる自分と相手への影響などだ。
呪いは術者の魔力を相手の血液に流すことでかけることができる。
どういう形であれ、相手と接触する必要があるのだ。
それは直接でもよいし、魔具や陣などを介して間接的にでもよい。
そうしてかけられた呪いは、術者が魔力を流し続けることで効果を持続させる。
生半可な魔力で呪いをかければ、逆に自分の寿命を削るはめになる。
不思議なのが、身体強化や攻撃魔法などは限界まで使ったところで精々が息切れする程度なのに、呪いで魔力を消耗すると死に至る点だ。
通常の魔法と呪いとでは、魔力消費の仕組みが違うのだろうか。
余程魔力に自信のある者か、刺し違える覚悟で呪いをかけようとする者でないと呪いはかけない。
そのため、人間が呪いをかけることはほぼない。
呪いは知能の高い魔物が用いることが多く、実際に私もかけられた経験がある。
そのときは指先から痺れが全身に蔓延して、やがて心臓が動かなくなるという呪いだった。
呪いにかかった瞬間に、即効で魔力弾で魔物を撃ち抜いたから、特に被害はなかったが。
術者を殺せば呪いが解けるというのは、人間相手でも魔物相手でも共通している。
しかし。
「…魔物にかけられた呪い、か」
魔物と魔王に、明確な違いはない。
魔物の集団の中から、恐らくは魔力量が多く知能の高い個が魔王に選ばれている。
魔王討伐に向かった者の中には、対戦途中で引き返そうとする者もいる。
実力差に逃げ帰る者、治療薬がなくなり体制を整え直そうとする者、情報を持ち帰ることが主目的の者。
それらの者たちの帰りを阻むのが、魔王による呪い。
接触をしていないはずの者も呪いによって死んでいくことがある。
魔力ではなく魔物の血液を使用する呪いもあるのだ、他にも何か呪いのかけ方があるのかもしれない。
これまでの長い人生で、魔法技術の研鑽は頻繁に行っていたが、知識を吸収し吟味し思考するということはあまりしてこなかった。
というか、無意識に避けていた気がする。
ノーラの本やノートを数ページ数行読み進めては、不明点の確認に読み返す作業を繰り返す。
今までろくに書物に触れてこなかったつけがまわってきた気分だ。
辛うじて文字はきちんと覚えていてよかった。
たまに結界の外で手頃な魔物を引っ捕らえては、呪いをかけて実践してみる。
文字を追っかけ慣れない思考をし、薄く積もっていた鬱憤を容赦なく魔物にぶつけていく。
実践はいい。小難しいことを考えずに高みを目指せる。
思う存分実践を重ねて、呪いに関する知識を吸収し終えたら、それ以外についても範囲を広げて細かく読みといていく。
魔王が倒され魔物が少なくなるまでは学びに費やすつもりだが、呪いに関することだけでは時間が有り余ってしまう。
かつて私に魔法を教えてくれた師匠は、感覚的に教える人だった。
私も感覚派だったためすごく理解しやすかったが、反面、理論については触れてこなかった。
魔法の発動時に体内で起こる魔力の流れ。
人によって違う、使える魔法タイプの相性の良し悪し。
魔力の練り方によって変わる魔法の威力や回数。
同じ魔法でも、効率的に魔力を練れば、魔力量が多い人よりも回数を重ねて使用することも可能らしい。
確かに、私よりも確実に魔力量が低い人間が、わたしと競えるくらいに魔法を連発していたのを思い出す。
ふむ。まだ向上の余地があるということか。
感覚的に覚え修練し会得した魔法も、理論をおさえて研鑽し直せば、まだ磨くことができる。
理論的に学ぶというのも悪くはないな。
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