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旅立ちの準備
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メットリア王国でロンッテウゥ・ゥイーガルッドニィグがイメルデ・ニールクメールの治療を行うと知られると同時に、侯爵家出入り医師の専属契約が解除された。
ノルザードが憂慮したように、医師は治療は自分の考えでやると、専属医師の自分にはその権利があると主張したからだ。
医師にしてみたら、他国から来た名も知らぬ医師に自分が治せなかった患者を回復させられては困る。
侯爵家の専属医師という地位と誇りと権威を傷つけられるわけにはいかないと、契約を盾に盛大に抗議し、エルスレードの怒りを買ってすべてを失うことになった。
ただそのお陰でロンッテウゥはスムーズに治療を開始することができたのだ。
「何だこの薬は!毒の性質を確認もしないで、本当に手当たり次第に試したんだな」
共通語で書かれた治療記録に目を通しながら、ロンッテウゥは顔を顰める。ふと、文字を追っていた指先が止まった。
「これが偶々効果をあげたから、辛うじて命を取り留めた?」
専属医師は最高とは言えないが、そこそこの運には恵まれていたようだ。
「しかし当てずっぽうの運も尽きたか」
今までの治療の軌跡を確認し、ロンッテウゥは新たな治療計画を立て始めた。
解毒が最優先だが、体力をもたせるため、栄養摂取の見直しも急務だ。
ロンッテウゥはイメルデが目を覚ますこと、そして精神面はともかく、その後の生活を恙無く送れるよう考え、つきっきりで治療を開始した。
諸国へ走らせた手勢とロンッテウゥからそれぞれの知らせが、シューリンヒ侯爵ユードリンの元に届いたのはそれから一月後。
まずロンッテウゥからは、イメルデの意識が戻ったこと。ただそれ以降が思わしいとは言えず、寝ついたままだがニールクメール侯爵夫妻はまた娘と話ができたとたいそう喜んでくれ、このまま専属契約を結んでほしいと頼まれたと書かれていた。
それについてのロンッテウゥの希望は書かれていないが、ユードリンは彼が根っからの研究者だと知っている。
一人、または一家門の医師となることは選ぶことはないだろうと思いながら、その手紙は折りたたんで引き出しにしまった。
次のものはシューリンヒ暗部に所属するドレッソンからの知らせだ。
メットリアかはわからぬが北国訛の良い身なりの男に、ロンッテウゥから聞いた名の毒物を売ったという薬商人を見つけたというもの。
商人はいくつかの国を南北に移動しながら行商しており、シューリンヒ侯爵家の出入りを許す代わりにルートを変えてもらうよう依頼したとあった。
ユードリンは己が手勢の優秀さに満足げである。
運もあるだろうが、いくつもの国の何千、何万といるだろう薬商人からただ一人を見つけたのだ。しかも思っていたよりかなり早い。
戻ったら全員に褒賞をやろうと決めた。
「まずはこの商人に詳しい話を聞き、メットリアで犯人を捜させよう」
ドレッソンが薬商人ニニガを連れ帰ると、ユードリンはすぐに似顔絵を作らせ、次にソンドールとメイガーを呼んだ。
「まずメイガー殿。ソンドールにパートルム公爵家の紋章を持たせてやってもらえないでしょうか」
「ええ、勿論構いませんが。急ぐようなら私の指輪を一つ持たせますか?」
「いえ。こちらの支度もあるので、明日取りに寄らせましょう」
必要なことを確かめたあと、ソンドールに向き合う。
「ソンドールにはニニガを連れ、メットリアに行ってもらいたい」
「はいっ!お任せください」
「道中は話が漏れさえしていなければ、心配なのは山賊くらいだろう。しかしメットリアについてからは間違いなく危険が伴うぞ」
ニニガから毒物を買った者が知れば、必ず命を狙われる。
「護衛任務も経験ありますから大丈夫です」
「うむ。今回ソンドールはパートルム公爵家三男ソンドールとして次期公爵メイガー殿から証人の同行の役を仰せつかったということにしよう。騎士団にはパートルム家から知らせてもらえるかな」
「はい勿論、ソンドールの休む分手が足りなくなるならうちから騎士を出すと言いましょう」
ふたりは頷きあって、連携を確認した。
「当然うちから護衛も出すが、十分に注意してくれよ。何かあったらリーリルハもコイント子爵夫妻も、メイガー殿も勿論私も悲しむからな。」
それを聞いたメイガーは、自分がアリスと結婚したら、シューリンヒ家のような家族になりたいと思った。ユードリンが他者に向ける思いやりや、気遣いの含まれた言葉を忘れないよう胸に刻んだ。
ノルザードが憂慮したように、医師は治療は自分の考えでやると、専属医師の自分にはその権利があると主張したからだ。
医師にしてみたら、他国から来た名も知らぬ医師に自分が治せなかった患者を回復させられては困る。
侯爵家の専属医師という地位と誇りと権威を傷つけられるわけにはいかないと、契約を盾に盛大に抗議し、エルスレードの怒りを買ってすべてを失うことになった。
ただそのお陰でロンッテウゥはスムーズに治療を開始することができたのだ。
「何だこの薬は!毒の性質を確認もしないで、本当に手当たり次第に試したんだな」
共通語で書かれた治療記録に目を通しながら、ロンッテウゥは顔を顰める。ふと、文字を追っていた指先が止まった。
「これが偶々効果をあげたから、辛うじて命を取り留めた?」
専属医師は最高とは言えないが、そこそこの運には恵まれていたようだ。
「しかし当てずっぽうの運も尽きたか」
今までの治療の軌跡を確認し、ロンッテウゥは新たな治療計画を立て始めた。
解毒が最優先だが、体力をもたせるため、栄養摂取の見直しも急務だ。
ロンッテウゥはイメルデが目を覚ますこと、そして精神面はともかく、その後の生活を恙無く送れるよう考え、つきっきりで治療を開始した。
諸国へ走らせた手勢とロンッテウゥからそれぞれの知らせが、シューリンヒ侯爵ユードリンの元に届いたのはそれから一月後。
まずロンッテウゥからは、イメルデの意識が戻ったこと。ただそれ以降が思わしいとは言えず、寝ついたままだがニールクメール侯爵夫妻はまた娘と話ができたとたいそう喜んでくれ、このまま専属契約を結んでほしいと頼まれたと書かれていた。
それについてのロンッテウゥの希望は書かれていないが、ユードリンは彼が根っからの研究者だと知っている。
一人、または一家門の医師となることは選ぶことはないだろうと思いながら、その手紙は折りたたんで引き出しにしまった。
次のものはシューリンヒ暗部に所属するドレッソンからの知らせだ。
メットリアかはわからぬが北国訛の良い身なりの男に、ロンッテウゥから聞いた名の毒物を売ったという薬商人を見つけたというもの。
商人はいくつかの国を南北に移動しながら行商しており、シューリンヒ侯爵家の出入りを許す代わりにルートを変えてもらうよう依頼したとあった。
ユードリンは己が手勢の優秀さに満足げである。
運もあるだろうが、いくつもの国の何千、何万といるだろう薬商人からただ一人を見つけたのだ。しかも思っていたよりかなり早い。
戻ったら全員に褒賞をやろうと決めた。
「まずはこの商人に詳しい話を聞き、メットリアで犯人を捜させよう」
ドレッソンが薬商人ニニガを連れ帰ると、ユードリンはすぐに似顔絵を作らせ、次にソンドールとメイガーを呼んだ。
「まずメイガー殿。ソンドールにパートルム公爵家の紋章を持たせてやってもらえないでしょうか」
「ええ、勿論構いませんが。急ぐようなら私の指輪を一つ持たせますか?」
「いえ。こちらの支度もあるので、明日取りに寄らせましょう」
必要なことを確かめたあと、ソンドールに向き合う。
「ソンドールにはニニガを連れ、メットリアに行ってもらいたい」
「はいっ!お任せください」
「道中は話が漏れさえしていなければ、心配なのは山賊くらいだろう。しかしメットリアについてからは間違いなく危険が伴うぞ」
ニニガから毒物を買った者が知れば、必ず命を狙われる。
「護衛任務も経験ありますから大丈夫です」
「うむ。今回ソンドールはパートルム公爵家三男ソンドールとして次期公爵メイガー殿から証人の同行の役を仰せつかったということにしよう。騎士団にはパートルム家から知らせてもらえるかな」
「はい勿論、ソンドールの休む分手が足りなくなるならうちから騎士を出すと言いましょう」
ふたりは頷きあって、連携を確認した。
「当然うちから護衛も出すが、十分に注意してくれよ。何かあったらリーリルハもコイント子爵夫妻も、メイガー殿も勿論私も悲しむからな。」
それを聞いたメイガーは、自分がアリスと結婚したら、シューリンヒ家のような家族になりたいと思った。ユードリンが他者に向ける思いやりや、気遣いの含まれた言葉を忘れないよう胸に刻んだ。
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