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メットリア王国にて 4
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ユードリンが言うように、ソンドールとニニガの道中は穏やかなもので、メットリアにつくまでは観光にでも来ているかのようだった。
しかしムイード公爵家に着いてからは一転する。
さすがに公爵家に賊が押し入ることはないが、ノルザードの毒見役が死にかける事件があり、公爵家内で使用人たちの洗い出しが行われ、犯人は意外に簡単に見つけられた。賭け事にはまって、金欲しさに簡単に唆されたという。
「毒見役がいることを知らなかったんですか?まったくなんと愚かな奴なんだ!そもそも公爵家の使用人なんて、なりたくてもなれるものではないというのに、何故それを大切にしないのか」
ソンドールの言葉にノルザードが頷いた。
「ああまったく。しかしどれほど気をつけていても、獅子身中の虫というのは現れるものなのだ。ひとのことをいえたぎりではないが、ソンドールも気をつけるがいい」
「我が邸にニニガが滞在していることは既に知られている。このままうちで保護しているのも殿下に匿ってもらうのも対して変わらんが、さてどうしたものだろうな」
「殿下?カジューン王子ですか?」
「ああ。イメルデ嬢とは仲睦まじくされていたからな。大変に心を痛めておられ、犯人に必ずや罰を下すと意気込んでおられる」
「え?では婚約がなくなってもリュスティリア王女様は見込みないんじゃ」
「そういうのではない。幼馴染で長く婚約していたから、すでに家族のような存在だったのだ」
「家族・・・?俺とリルハも家族のように思い合っています。もしリルハと結婚できなくなったら俺は」
「他の女とは結婚しないか?」
ソンドールは考え込んだ。
リーリルハを心から大切に思っている。姉や妹ではなく、恋人そのものだ。
「もし彼女を失ったら、少なくとも暫くは何かを考えることさえできなくなると思います」
「うむ。正直な答えだ。身内としては好意的に受け取れる。もしここで、否、絶対に誰とも結婚しないと言われたら、私は貴殿を嘘つきだと思ったことだろうからな」
「はあ」
「ひとの心は傷つくこともあるが、いつかは癒え、幸せを求めるようにもなるものなのだ。それを否定する権利はだれにもない。カジューン殿下は今傷心だが、イメルデ嬢がある程度回復すれば、いずれ遠くないうちに自身のお立場を思い出す」
「そしてじきに政略結婚を受け入れる?」
「ああそうだ。王族とは、貴族とはそういうものだよ」
ため息混じりにノルザードが漏らした。
「悲しいものだがな」
傾いた夕陽が弱々しく部屋の奥まで差し込んでくる。
「もうこんな時間か。今日旧邸から使用人たちを連れてきたから、今いる料理人や配膳人は間違いなくムイードに忠実な者たちだ。言っていて空しくなるなハハハ。しかし腹が減っては戦はできぬ!せっかくだからうまい飯を楽しもうではないか」
翌日、ノルザードは極秘裏にカジューン王子とエルスレードに連絡を取り、ニニガについて相談した。
「うむ、ではその薬商人は私の離宮にて匿うか?」
「商人の護衛がてら、パートルム公爵家のソンドール殿が帯同しておりまして」
「公爵家の?若いのか?」
「はい、殿下より少々年下でございます」
「ではそちらを私の客人として迎え、商人は付き人として共に離宮に招くのはどうだ?」
「なるほど。そのほうが自然ですね」
「犯人を捕まえるまでは絶対に死なせるわけにはいかんからな」
漸く見えてきた犯人の糸口である。
メットリア国内でばかり探していたため、他国で買って持ち込まれたと気づくのが遅れてしまった。何が何でも挽回したかった。
「それが毒を買った者の似顔絵か?」
「はい、見覚えはございますか?」
「ないと思う。だが私の記憶になくとも、これがあればあとは捜し出すだけだ。それは暗い闇の中で光を見つけたようなものだぞ!」
「まことに!」
男たちはギラリと目を輝かせた。
しかしムイード公爵家に着いてからは一転する。
さすがに公爵家に賊が押し入ることはないが、ノルザードの毒見役が死にかける事件があり、公爵家内で使用人たちの洗い出しが行われ、犯人は意外に簡単に見つけられた。賭け事にはまって、金欲しさに簡単に唆されたという。
「毒見役がいることを知らなかったんですか?まったくなんと愚かな奴なんだ!そもそも公爵家の使用人なんて、なりたくてもなれるものではないというのに、何故それを大切にしないのか」
ソンドールの言葉にノルザードが頷いた。
「ああまったく。しかしどれほど気をつけていても、獅子身中の虫というのは現れるものなのだ。ひとのことをいえたぎりではないが、ソンドールも気をつけるがいい」
「我が邸にニニガが滞在していることは既に知られている。このままうちで保護しているのも殿下に匿ってもらうのも対して変わらんが、さてどうしたものだろうな」
「殿下?カジューン王子ですか?」
「ああ。イメルデ嬢とは仲睦まじくされていたからな。大変に心を痛めておられ、犯人に必ずや罰を下すと意気込んでおられる」
「え?では婚約がなくなってもリュスティリア王女様は見込みないんじゃ」
「そういうのではない。幼馴染で長く婚約していたから、すでに家族のような存在だったのだ」
「家族・・・?俺とリルハも家族のように思い合っています。もしリルハと結婚できなくなったら俺は」
「他の女とは結婚しないか?」
ソンドールは考え込んだ。
リーリルハを心から大切に思っている。姉や妹ではなく、恋人そのものだ。
「もし彼女を失ったら、少なくとも暫くは何かを考えることさえできなくなると思います」
「うむ。正直な答えだ。身内としては好意的に受け取れる。もしここで、否、絶対に誰とも結婚しないと言われたら、私は貴殿を嘘つきだと思ったことだろうからな」
「はあ」
「ひとの心は傷つくこともあるが、いつかは癒え、幸せを求めるようにもなるものなのだ。それを否定する権利はだれにもない。カジューン殿下は今傷心だが、イメルデ嬢がある程度回復すれば、いずれ遠くないうちに自身のお立場を思い出す」
「そしてじきに政略結婚を受け入れる?」
「ああそうだ。王族とは、貴族とはそういうものだよ」
ため息混じりにノルザードが漏らした。
「悲しいものだがな」
傾いた夕陽が弱々しく部屋の奥まで差し込んでくる。
「もうこんな時間か。今日旧邸から使用人たちを連れてきたから、今いる料理人や配膳人は間違いなくムイードに忠実な者たちだ。言っていて空しくなるなハハハ。しかし腹が減っては戦はできぬ!せっかくだからうまい飯を楽しもうではないか」
翌日、ノルザードは極秘裏にカジューン王子とエルスレードに連絡を取り、ニニガについて相談した。
「うむ、ではその薬商人は私の離宮にて匿うか?」
「商人の護衛がてら、パートルム公爵家のソンドール殿が帯同しておりまして」
「公爵家の?若いのか?」
「はい、殿下より少々年下でございます」
「ではそちらを私の客人として迎え、商人は付き人として共に離宮に招くのはどうだ?」
「なるほど。そのほうが自然ですね」
「犯人を捕まえるまでは絶対に死なせるわけにはいかんからな」
漸く見えてきた犯人の糸口である。
メットリア国内でばかり探していたため、他国で買って持ち込まれたと気づくのが遅れてしまった。何が何でも挽回したかった。
「それが毒を買った者の似顔絵か?」
「はい、見覚えはございますか?」
「ないと思う。だが私の記憶になくとも、これがあればあとは捜し出すだけだ。それは暗い闇の中で光を見つけたようなものだぞ!」
「まことに!」
男たちはギラリと目を輝かせた。
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