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呪われたエザリア

ナレスと味方

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「じゃあ、ブラス様はシュマーがいる限りいつまでも王都に戻れないということですか?」

 コルクスが眉を寄せた。

 そう、今の時点でシュマーからブラスを守るには、どうやらそれしか方法がなさそうなのだ。
 だから偽の発注があったように見せかけ、ナレスはブラスを引きずるように町から離れた。

「実は似たような乗っ取りが他の貴族でもあったらしくてな、今騎士団が調べ始めたところだ。いずれは解明されるはずだが、それまでブラス様をシュマーから離さなければならん」
「ブラス様はこのことを?」

 ハアとため息まじりのナレスは首を横に振る。
それを見た三人はナレスの胸中を慮った。

「お伝えしたいのは山々だがな。おまえたちも見ただろう?手の平を返したようなブラス様を」

 困惑したのはナレスだけではない。
皆で目配せしあい、共有する。

 ツィカがまた、思いついたように口を開いた。

「今ならブラス様はまともなんですよね?では今真実をお伝えし、屋敷や本店で対策が打てるまで戻らないようにしてもらっては如何でしょうか」

 その提案はナレスの盲点だった。
最初エザリアが姿を消したと報告した際と今とでは、知っている情報も、また、対策に動いている人々もまったく変わっている。
 しかし、それをジョルからの手紙で知ったのはブラスが変化したあとだったから当然最新の情報は話していないのだ。

「シュマーのことをどこまで話すべきか、果たして信じてくださるだろうか」

 結婚には不可解な点があったが、既に夫婦となって数ヶ月。
 ナレスは、ブラスが最後にシュマーを信じてしまうのではないかと密かに恐れを感じて踏み出せずにいた。

「心配ならもっと屋敷から離れたところにブラス様をお連れして、様子を見ては?状態が良さそうなら、そこで話してみてはどうでしょう?」

 ツィカが進言する。

 人気になりそうな商品を見つけたとか理由をつけ、シュマーから更に遠くに引き離し、ブラスを冷静にさせるのだ。

「ちょうど良いものを知っているんです」

 クールな容姿のツィカが、珍しくいたずらっ子のようにぺろりと舌を出して笑う。

「美味いんですよ、安いけど。馬で一人で走れば往復二日ってとこです。ちよっと買ってきますから、それまでブラス様を足留めしてください。気に入ってもらえたらみんなで買い付けに行くというのはどうです?」
「それは日保ちするのか?」
「はい。瓶詰めにされた貝のオイル漬けなんですけどね。前に一度食べてから忘れられなくて」

 アッ!と声を上げたワリューンが、あれか!と頷いている。
 商材として期待できるものなら、より自然にブラスを連れて行けるだろう。


「じゃあツィカに頼む。ワリューンとふたりでいけよ。あと道中無理をして急いで帰ろうとはしなくていい。ちゃんと帰還するまで待っているから安心して行ってこい!」

 ツィカとワリューンは旅支度を整えると、それぞれ馬に飛び乗り、2日前に来た道を戻って行った。
 見送るコルクスの肩をぽんぽん叩いたナレスは頼むように頭を下げて。

「戻るまで、ブラス様を私と見張ってくれるな」

 勿論コルクスに異論はない。
 ブラスと商会、エザリアを守るのは自分たちだと、体のうちから何か熱いものが湧き上がり、力強く頷き返していた。
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