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9話
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─コンコン!
メリエラ家の執事ドラエドが、マードルの手が空いたと呼びに来たので、ルムリも一緒に執務室へ向かう。
ドラエドの後ろを歩きながら、ナナリーは見えないように瞼を擦り続けて、見事に泣きはらしたかのような顔を作り上げてみせた。
「ナナ!どうしたんだ、そんな顔をして」
仕事ができる男は細部まで気配り目配りができるものだ。だが、娘の巧妙な嘘泣きは見抜けなかったらしい。
「おと・・さ・・ま」
ルムリは吹き出すのをなんとか堪えるために俯いて小さく震えていたが、その姿を見たマードルは、ナナリーと双子の姉妹のようなルムリが!震えるほどの何かが娘の身に起きた!と解釈した。
執務机から娘に駆け寄り、怪我などしていないかと確認して、座り心地のよいソファに二人を座らせると。
「さあ、何があったか私に話してみなさい」
ナナリーは、このところタケリードが子爵令嬢と噂になっていたこと、子爵令嬢と委員会で顔を合わせたくらいしか接点がないのに、彼女を階段で突き落として怪我をさせたとか、苛めたと濡れ衣をかけられ、挙げ句の果にクラスメイトの前で「性悪な女」と罵られたと、そこまで言うとまた嗚咽を漏らして哀れを誘ってみせた。
「なんという・・・信じがたいことだが」
マードルが意見を求めるようにルムリの顔を見てくる。
「私も、あんな濡れ衣を着せて人前で罵るような方だとは思いませんでしたわ」
ナナリーがタケリードをどう思っているかはともかくだ。
向こうが仕掛けてきたことや、大切ないとこを貶めようとしたことは許せないと、叔父に伝えた。
「ルミイ、よかったら今夜はナナと一緒にいてやってくれないだろうか?」
「はい、もちろんですわ。私もナナが心配ですもの」
娘たちはお互いを支え合おうとしているかのように身を寄せあい、ナナリーの部屋へと戻っていった。
部屋で娘ふたりになると。
「やった!今日お泊まりね、ルミイ!」
「もう、ナナってば、あの叔父様を騙しちゃうなんて」
「お父様、私には激甘だもの。ちょっと涙をこぼせばちょろいのでございますわ」
額がくっつくほど顔を寄せ、小さな囁き声で楽しそうに密談を続ける。
「それで、どうなると思う?」
「叔父様、青筋がこのへんに出ていらしたわ」
ルムリがこめかみの上に触れてみせる。
「ふふ、相当お怒りになったわよね。きゃー、こわぁい」
ナナリーがくつくつと笑って肩を揺らす。
(本当に怖いのはナナリーだけどね)
けっして言葉にはしないが。
例えとんでもない腹黒でも、ルムリの大切ないとこに変わりはないが。
「あー、とにかくタケリード様との婚約がなくなれば、私はそれでいいわ。
罵られたのはとっても腹立たしいけど、だからといってタケリード様が勘当されろとまでは思わないわ」
「そうなの?」
「ええ。だってどうせあのいけ好かない子爵令嬢に乗せられたに違いないもの。なに?その意外そうな顔は」
「だってタケリード様が大嫌いで、酷い目にあったらいいくらいに思ってるんだとばかり」
そう言われたナナリーは、ぷうっと頬を膨らませた。
「酷い云われようね、いとこ殿。
別に好きでも嫌いでもないけど、彼と結婚したくないだけ。でもただの知り合いなら存在してても構わない。そこまで腹黒くはないわよ」
「ごめんなさい、ナナ!」
「うん、許す!
実際のところ、あの単純馬鹿のタケリード様が策を弄するなんてできるわけないと思うわ。彼は正直すぎて芝居も無理よ。あの令嬢の話を信じこんでいるんでしょ」
幼少から長く婚約していただけある、と肩をすくめたナナリーを見た。
ふと、さみしそうな顔をしたように見えて。
「ねえ、本当にタケリード様と婚約解消とかしてもいいの?」
キョトンとした顔で振り向くと
「え?なんでいまさらそんなこと聞くの?いいに決まってるわ。大歓迎よ!次はもっと思慮深くて素敵な方がいいわね」
そう言って、うっとりと空を見た。
何か空に浮かんでもいるかのようだったのでルムリも空を見たが、雲一つなくルビーのように真っ赤に焼けた空が遠くまで広がっているだけだった。
メリエラ家の執事ドラエドが、マードルの手が空いたと呼びに来たので、ルムリも一緒に執務室へ向かう。
ドラエドの後ろを歩きながら、ナナリーは見えないように瞼を擦り続けて、見事に泣きはらしたかのような顔を作り上げてみせた。
「ナナ!どうしたんだ、そんな顔をして」
仕事ができる男は細部まで気配り目配りができるものだ。だが、娘の巧妙な嘘泣きは見抜けなかったらしい。
「おと・・さ・・ま」
ルムリは吹き出すのをなんとか堪えるために俯いて小さく震えていたが、その姿を見たマードルは、ナナリーと双子の姉妹のようなルムリが!震えるほどの何かが娘の身に起きた!と解釈した。
執務机から娘に駆け寄り、怪我などしていないかと確認して、座り心地のよいソファに二人を座らせると。
「さあ、何があったか私に話してみなさい」
ナナリーは、このところタケリードが子爵令嬢と噂になっていたこと、子爵令嬢と委員会で顔を合わせたくらいしか接点がないのに、彼女を階段で突き落として怪我をさせたとか、苛めたと濡れ衣をかけられ、挙げ句の果にクラスメイトの前で「性悪な女」と罵られたと、そこまで言うとまた嗚咽を漏らして哀れを誘ってみせた。
「なんという・・・信じがたいことだが」
マードルが意見を求めるようにルムリの顔を見てくる。
「私も、あんな濡れ衣を着せて人前で罵るような方だとは思いませんでしたわ」
ナナリーがタケリードをどう思っているかはともかくだ。
向こうが仕掛けてきたことや、大切ないとこを貶めようとしたことは許せないと、叔父に伝えた。
「ルミイ、よかったら今夜はナナと一緒にいてやってくれないだろうか?」
「はい、もちろんですわ。私もナナが心配ですもの」
娘たちはお互いを支え合おうとしているかのように身を寄せあい、ナナリーの部屋へと戻っていった。
部屋で娘ふたりになると。
「やった!今日お泊まりね、ルミイ!」
「もう、ナナってば、あの叔父様を騙しちゃうなんて」
「お父様、私には激甘だもの。ちょっと涙をこぼせばちょろいのでございますわ」
額がくっつくほど顔を寄せ、小さな囁き声で楽しそうに密談を続ける。
「それで、どうなると思う?」
「叔父様、青筋がこのへんに出ていらしたわ」
ルムリがこめかみの上に触れてみせる。
「ふふ、相当お怒りになったわよね。きゃー、こわぁい」
ナナリーがくつくつと笑って肩を揺らす。
(本当に怖いのはナナリーだけどね)
けっして言葉にはしないが。
例えとんでもない腹黒でも、ルムリの大切ないとこに変わりはないが。
「あー、とにかくタケリード様との婚約がなくなれば、私はそれでいいわ。
罵られたのはとっても腹立たしいけど、だからといってタケリード様が勘当されろとまでは思わないわ」
「そうなの?」
「ええ。だってどうせあのいけ好かない子爵令嬢に乗せられたに違いないもの。なに?その意外そうな顔は」
「だってタケリード様が大嫌いで、酷い目にあったらいいくらいに思ってるんだとばかり」
そう言われたナナリーは、ぷうっと頬を膨らませた。
「酷い云われようね、いとこ殿。
別に好きでも嫌いでもないけど、彼と結婚したくないだけ。でもただの知り合いなら存在してても構わない。そこまで腹黒くはないわよ」
「ごめんなさい、ナナ!」
「うん、許す!
実際のところ、あの単純馬鹿のタケリード様が策を弄するなんてできるわけないと思うわ。彼は正直すぎて芝居も無理よ。あの令嬢の話を信じこんでいるんでしょ」
幼少から長く婚約していただけある、と肩をすくめたナナリーを見た。
ふと、さみしそうな顔をしたように見えて。
「ねえ、本当にタケリード様と婚約解消とかしてもいいの?」
キョトンとした顔で振り向くと
「え?なんでいまさらそんなこと聞くの?いいに決まってるわ。大歓迎よ!次はもっと思慮深くて素敵な方がいいわね」
そう言って、うっとりと空を見た。
何か空に浮かんでもいるかのようだったのでルムリも空を見たが、雲一つなくルビーのように真っ赤に焼けた空が遠くまで広がっているだけだった。
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