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10話
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マードル・メリエラ伯爵は即ザンバト伯爵と、アルメ子爵を呼び出した。
もちろんタケリードとティミリも共に。
「タケリードさまあっ」
場所も弁えず、甘えた小さな声で名を呼んで手を振るティミリだが、さすがにタケリードは反応しない。いや、できない。
メリエラ家に来るまでの数時間で、父と兄に何度も張り倒され、立っているのがやっとなのだ。
「おまえっ!この婚姻の意味をあれだけ教え込んだのになぜだっ!」
そう言って、父は自分を殴った。
兄は蔑んだ目を向け、弟は父の剣幕に怯えていた。
「おまえがメリエラ家に婿に入る約束で、我が家だけではない、傘下貴族が幾つもメリエラのゼネラルコントラクターに参加を許されているんだぞ。あの事業には一体どれほどの貴族が参加を希望し断られているか。
それを姻戚になるというだけのつながりで得ていたんだよ、我が一族は。
タケリード、まさか本当にわかっていなかったのか?」
「・・・・・」
「話しただろう、何度も?」
嫌々な婚約だった。
説得されるように何度も同じ話をされたが、不貞腐れてよく聞いていなかったのだ。
「もういい。とにかく今は誠心誠意謝るだけだが、婚約の継続は・・・もうむずかしいだろうな・・・。おまえの処遇はあとで言い渡す。メリエラ家に謝罪に行くときは連れて行くが、それ以外は部屋で謹慎。学院も行かなくていい」
「そん・・な」
タケリードが言い訳をしようと父を見ると、見たことがないような冷たい顔で、それ以上なにも言うことはできなかった。
自分がそんな大きな問題を引き起こした実感はなかったが、部屋に閉じ込められ、殴られた頬の痛みが強くなるにつれ、恐ろしくなって震えが止まらない。
どこから間違えた?
同じ伯爵位ではあったが、家力や家格はメリエラ伯爵家とは比べものにならないとさえわかっていなかった。
婿に行ってやるくらいに思っていたが、それも父が頼み込んでいたとは。
自分の肩に、ザンバト伯爵家と傘下の貴族の利益がかかっていたのに、それらを失うかもしれない。
想い合う結婚ではなくても、普通の政略結婚はできたはず・・・。
そうだ、最初の頃ナナリーは読んだ本の感想などを話してくれた。それを面倒くさがったのは自分だ。
ナナリーがランチに誘いに来ないのが悪いと、婚約者がいるくせに当てつけるようにティミリと楽しんだ。自分が誘えばよかったのに。
考えたら、タケリードは自分からナナリーに働きかけたことは一度もないと気がついた。そのくせにナナリーのやることなすことを、つまらんだのなんのと文句をつけたのだ。
誘われなくなっても仕方がなかった。
誠実でなかったのは自分のほうだった。
「俺は・・・」
父の自分を見る目を思い出し、タケリードは床に崩れ落ちた。
「此度、愚息がしでかしましたこと、誠に申し訳ございません」
マードルが悩んだ末に自分と護衛、執事のみで対応すると決め、応接室に入ると同時にユード・ザンバト伯爵が床に額を擦り付けんばかりに謝罪を述べた。
それを見たタケリードは、這いつくばって本当に額を床に押し付けると
「申し訳ございません、どうかどうかお許しくださいお許しください、ごめんなさい」
最初は大きな声だったが、どんどん小さくなり、最後は嗚咽しか聞こえなくなった。
ちらりと目をやったマードルは、そのあとアルメ子爵を見やる。
子爵はなぜ呼び出されたのか、まだよく把握できていない。ただザンバト伯爵と令息の謝り方から、なにか大変なことにティミリが関わったのでは?と考え始めていた。
「お許しくださいとは厚かましくてとても申し上げられませんが、せめて傘下の貴族の共同事業はそのままご継続をお願いできないでしょうか」
ユード・ザンバトが謝罪とともに、派閥の筆頭貴族として頭を下げ続けている。
「タケリード」
マードルが呼ぶと、腫れ上がって真っ赤になった顔をあげる。涙と鼻水も相まって酷い顔で、実家で相当扱かれたことがわかる。
「私のかわいいナナを性悪と言ったとか」
「あ・・・申し訳ありませんっ!」
平伏すタケリードは床と同化している。
(蛙・・・)マードルの脳裡をかすめた。
「反省して謝ったからと言って、いままでのおまえの言動が許されるわけではない。ナナリーをどれほど傷つけたか。あろうことか浮気の上、濡れ衣を着せ罵倒するだと?」
謝り続けるしかない。自分のためではなく、家とザンバト伯爵家に集う貴族たちのために。
ようやく本当の貴族の自覚を持ってひたすら頭を下げ続けるタケリードに、とんでもないことが起きた。
もちろんタケリードとティミリも共に。
「タケリードさまあっ」
場所も弁えず、甘えた小さな声で名を呼んで手を振るティミリだが、さすがにタケリードは反応しない。いや、できない。
メリエラ家に来るまでの数時間で、父と兄に何度も張り倒され、立っているのがやっとなのだ。
「おまえっ!この婚姻の意味をあれだけ教え込んだのになぜだっ!」
そう言って、父は自分を殴った。
兄は蔑んだ目を向け、弟は父の剣幕に怯えていた。
「おまえがメリエラ家に婿に入る約束で、我が家だけではない、傘下貴族が幾つもメリエラのゼネラルコントラクターに参加を許されているんだぞ。あの事業には一体どれほどの貴族が参加を希望し断られているか。
それを姻戚になるというだけのつながりで得ていたんだよ、我が一族は。
タケリード、まさか本当にわかっていなかったのか?」
「・・・・・」
「話しただろう、何度も?」
嫌々な婚約だった。
説得されるように何度も同じ話をされたが、不貞腐れてよく聞いていなかったのだ。
「もういい。とにかく今は誠心誠意謝るだけだが、婚約の継続は・・・もうむずかしいだろうな・・・。おまえの処遇はあとで言い渡す。メリエラ家に謝罪に行くときは連れて行くが、それ以外は部屋で謹慎。学院も行かなくていい」
「そん・・な」
タケリードが言い訳をしようと父を見ると、見たことがないような冷たい顔で、それ以上なにも言うことはできなかった。
自分がそんな大きな問題を引き起こした実感はなかったが、部屋に閉じ込められ、殴られた頬の痛みが強くなるにつれ、恐ろしくなって震えが止まらない。
どこから間違えた?
同じ伯爵位ではあったが、家力や家格はメリエラ伯爵家とは比べものにならないとさえわかっていなかった。
婿に行ってやるくらいに思っていたが、それも父が頼み込んでいたとは。
自分の肩に、ザンバト伯爵家と傘下の貴族の利益がかかっていたのに、それらを失うかもしれない。
想い合う結婚ではなくても、普通の政略結婚はできたはず・・・。
そうだ、最初の頃ナナリーは読んだ本の感想などを話してくれた。それを面倒くさがったのは自分だ。
ナナリーがランチに誘いに来ないのが悪いと、婚約者がいるくせに当てつけるようにティミリと楽しんだ。自分が誘えばよかったのに。
考えたら、タケリードは自分からナナリーに働きかけたことは一度もないと気がついた。そのくせにナナリーのやることなすことを、つまらんだのなんのと文句をつけたのだ。
誘われなくなっても仕方がなかった。
誠実でなかったのは自分のほうだった。
「俺は・・・」
父の自分を見る目を思い出し、タケリードは床に崩れ落ちた。
「此度、愚息がしでかしましたこと、誠に申し訳ございません」
マードルが悩んだ末に自分と護衛、執事のみで対応すると決め、応接室に入ると同時にユード・ザンバト伯爵が床に額を擦り付けんばかりに謝罪を述べた。
それを見たタケリードは、這いつくばって本当に額を床に押し付けると
「申し訳ございません、どうかどうかお許しくださいお許しください、ごめんなさい」
最初は大きな声だったが、どんどん小さくなり、最後は嗚咽しか聞こえなくなった。
ちらりと目をやったマードルは、そのあとアルメ子爵を見やる。
子爵はなぜ呼び出されたのか、まだよく把握できていない。ただザンバト伯爵と令息の謝り方から、なにか大変なことにティミリが関わったのでは?と考え始めていた。
「お許しくださいとは厚かましくてとても申し上げられませんが、せめて傘下の貴族の共同事業はそのままご継続をお願いできないでしょうか」
ユード・ザンバトが謝罪とともに、派閥の筆頭貴族として頭を下げ続けている。
「タケリード」
マードルが呼ぶと、腫れ上がって真っ赤になった顔をあげる。涙と鼻水も相まって酷い顔で、実家で相当扱かれたことがわかる。
「私のかわいいナナを性悪と言ったとか」
「あ・・・申し訳ありませんっ!」
平伏すタケリードは床と同化している。
(蛙・・・)マードルの脳裡をかすめた。
「反省して謝ったからと言って、いままでのおまえの言動が許されるわけではない。ナナリーをどれほど傷つけたか。あろうことか浮気の上、濡れ衣を着せ罵倒するだと?」
謝り続けるしかない。自分のためではなく、家とザンバト伯爵家に集う貴族たちのために。
ようやく本当の貴族の自覚を持ってひたすら頭を下げ続けるタケリードに、とんでもないことが起きた。
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