【完結】許さないってどういうことですか?それは私の台詞です。

やまぐちこはる

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辺境のタケリード編

4話

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 マードル・メリエラ伯爵の元にタケリードからの報告書が届いたのは、その五日後。
 遠い僻地からの便りをマードルが開くと、いままで誰からも報告がなかった工事の遅れの原因を相談するものだった。

 辺境の地まで、自分の足でまめに視察できるわけではないので

「順調に進んでいます」

という報告を信じていたが。



『その道路予定地には硬い岩盤が高く張り出しており、自分でもツルハシを振ってみたがほんの少しも欠けることがないほど。慣れた作業員たちも大変に苦戦しております。いままでの現場監督にも道路を少しずらしてはどうかと進言したそうですが、国の予定だからと却下されたとのこと。所有者のいない土地のため、岩盤分を西に移動してもよければ格段に進捗を早めることができるが、ずらしてはならない理由があるならそれを知りたい、ないなら検討をお願いしたいです』

 マードルはすぐ調査員を呼び、その岩盤が今後も工事の大幅な遅れを発生させるほどの堅さであれば、ルートの変更のための測量を行うこと、回答が出るまではそのチームは疲れ休みを与えることを指示して送り出した。



 ベイトたちは、タケリードが何かをしたとしても現状が変わるとまでは思っていない。ただ、この苦労をわかってもらえたということに満足して、今日もほとんど進まない仕事に取り組んでいた。
 だからタケリードがメリエラからやって来た調査員カーツを伴い、現場に来たときは驚いたのなんの。

「メリエラゼネラルコントラクションから参りました、カーツ・トレルと申します。これから岩盤の硬度の調査を行い、結果によってはルートをずらすことを検討します」

 それを聞いたベイトと作業員たちは歓声をあげた!

「おお、ザンバト監督よ、ありがとう!」

 タケリードに握手を求めてくる作業員すらいたが、

「まだ結果が出るまでは、気が早いですよ」

冷静に押しとどめた。

 カーツの調査の結果、道路の広さや高さまで削るとなると、このエリアだけ相当な遅れが見込まれるとわかり、やはりずらすことになったが、どのようにずらすかは測量と岩盤調査をしてから決められることになった。
 方針が決まるまではベイトのチームは仕事が休み!日当は全額は流石に無理だが、一定金額は払われると聞き、みんな明らかにホッとした顔を浮かべて。
 今度こそ本当に、みんながタケリードに握手を求めた。

 その日は、タケリードが作業員たちの一部に初めて受け入れられた記念の日になった。

 以来、タケリードは事務所で半日事務仕事をすると、午後からはツルハシを肩にかけて様々な現場をまわり、ある時はともに岩を削り、ある時は問題を解決して、どんどんと作業員たちに溶け込んでいった。

 月に三~四回はナナリーに感謝と謝罪と近況報告を兼ねた便りを出して。
ナナリーからは返事はめったに来ないのだが、辺境で二年目を終える頃。

『国の許可も取った通信学校を設立する。タケリードも受講して卒業資格くらい取っておけ』

 そう書かれたナナリーの書簡を受けとった。
 手紙とともに送られた入学願書と案内状を見ると、通信学校は学費が驚くほど安い!
 テキストや試験は送られてくるので、自宅で学習してそれを送り返し、すべての単位が取れると卒業資格を国から与えてもらえるというものだ。

─ありがたいことだ、この恩を忘れてはならないな私は─

 忙しい毎日で、自宅に戻るとベッドにまっしぐらだが、取り上げられてからというもの勉強をしたいという欲求はむしろ高まっていた。
 自分では学院でしっかり学んでいたと思っていたが、ここに来てみたら知らないことばかり。
 平民の土木作業員のほうがよほど物知りで、恥ずかしい思いをすることもしばしばである。
 ナナリーの申し出に飛びつき、すぐ勉強を始めた。

 自宅でも、事務所の空き時間でもドリルで学ぶタケリードを見た作業員が、覗き込んだドリルをチラリと見て「字は読めねえんだ」と呟いたのを聞き、またマードルに報告書を送った。

 識字率が上がれば、工程表を皆で共有でき、皆が進捗記録を残すことができるようになる。同じ人間が一人で書き続ければ、以前の岩盤のように偏ってしまうことも起きるが、皆で書けばそれも防げるだろう。
そのために、いまでも十分に安いが、作業員は通信学校を優待してもらえないだろうかと。
 学長はナナリーなので、その相談はナナリーにすべきだったが、マードルはゼネコン事業に関わるすべての作業員が通信学校を受講するなら、卒業することを条件にメリエラで授業料を負担すると通達を出した。
ナナリーの事業の後押しのためでもあるが、一番はタケリードの着眼に賛同したから。
 マードルは現場作業員と接触する機会はないから、お粗末ながら字が読めない者がそんなにいることも知らなかったし、それが現場にいることで滞ることがあるとも気づいていなかった。注意を促す看板の意味すらも理解できないものが、そんなにいたとは。

「タケリードもやりおるな」

 あのときタケリードに与えたチャンスを、彼が十二分に活かし、それを自分に還元してくることに満足して口角をあげた。
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