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第3話

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「さあ、これを召し上がれ!」

 芝生にぺたりと座り込んだビュワードの前に、たくさん詰め込まれた紙袋を置いてやる。

「あの、でもこんなことしてもらうわけには、それにわた・・にかかわると、ごめいわ・・かか」

 ビクビクと吃りながら遠慮する姿に、苛ついたゴールディアが低い声を出した。

「わたくしは国内有数の富豪一族ミリタス侯爵家のゴールディアよ。このくらい貴方にごちそうしたって痛くも痒くもないし、迷惑かけるなんてつまらないこと心配する時間があるなら、さっさと食べなさい。残ったら無駄にしないように持ち帰りなさいよっ!」

 ビシッと人さし指を立てて、ビュワードの注意を引きながら言い聞かせた。

 鐘が聞こえる。

「そ、そろそろ戻らないと」
「袋ごと持っていきなさい、ほら。貴方何年何組なの?」
「4年B組です」
「同じ学年なのね!では明日ランチの時間に迎えに行くから、お腹を空かせて待っていなさいよ!わかった?」

 それだけ言うと、嵐のようなゴールディアは早足で行ってしまった。たくさんの食料とビュワードを残して。



 その夜。
 ビュワードはゴールディアがくれたサンドイッチを隠して持ち帰り、薄暗い部屋で食べていた。
夕飯があるのは久しぶりだ。

「明日も待っていろって言っていたけど・・・」

 きっとその場の思いつきで、明日には忘れているに違いない。諦めることに慣れたビュワードは、明日のことを考えるのは止めた。




 ビュワードの父ドレド・スミール伯爵は、王国の中でも気象条件が厳しい最北部の山裾に領地を構えている。
 寒さの厳しい所ではあるが、北部の中でもスミール領でしか育たない、国民食とも言える大人気の大変美味な芋が採れる。収穫量に限りがあるので芋にしては高いものだが、作ればいくらでも売れるため、貴族ながら商才に恵まれたドレドは、領地を回って民から芋を買い上げては国隅々まで売り捌いた。
 そのため屋敷には滅多に帰らず、たまに帰ると妻アニタが、そして長男トリードが、ビュワードがいかに嘘をつき、酷い行いをしているかを吹き込むのだ。

「ビュワードは戒めのために部屋で謹慎させている」

 帰宅しても姿を見せることのない次男について、毎度その言葉を聞くうちに、ドレドは本当にビュワードはろくでなしの出来損ないだと思いこんでしまっていた。
 一目でも会ってその姿を確認すれば、ビュワードが置かれた立場がわかっただろうに。

 アニタやトリードは気に入らないことがあれば、ビュワードを憂さ晴らしの的に暴力を振るった。そのせいで青痣もあちらこちらにあったのだから。
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