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第59話
「ユワ、そう言えばおまえの兄上な、とうとう勘当されたらしいぞ」
耳の早いアクシミリオが、打ち合わせの後にビュワードに囁いた。
「そう・・ですか」
ビュワードに特に感慨はない。
とても小さな頃は遊んでくれた兄だが、あまりにも長く虐められたため、自分の世界からいなくなってくれてホッとしている。
「大丈夫か?」
「はい」
「小耳に挟んだところでは、どうもまだスミール伯爵の後継を諦めていなかったようでな。仕事も真面目にやっていないらしく、ドレド殿の堪忍袋の緒が切れたようだ」
ビュワードとスミール伯爵家を守るためにドレドが決断したことを、教えてやったほうが後の親子関係に良い影響を与えるかもしれないと、敢えてアクシミリオは口にした。
ビュワードの視線がほんの少し揺れたが。
「そうですか・・・」
それだけ言って黙り込む。
重い空気に耐えきれなくなったアクシミリオは、少し歪んだ机の引き出しをカタカタと開けると、パチッとウインクし、小さな紙片を取り出してビュワードに手渡してやった。
「今日は早く仕事を切り上げて、たまにはゴールディアを芝居にでも誘ってやれ。そのチケットは我が家専用の桟敷だから、いつ行っても使えるものだ。
ユワは私たちの期待以上に頑張ってくれているが、頑張りすぎは疲れてしまうぞ。気分転換も大事だから、ほら、ユワの大事なディアのところに行ってデートに誘ってこい」
ビュワードだけが呼ぶ愛娘の愛称を、からかうように言って、アクシミリオはその背中を押し出してやる。
「楽しんで!芝居のあとは美味いものでも食べてくるといいぞ」
ビジネスライクにスミール伯爵家への圧力的な支援策を提案したりするが、家族のことになると神経質になってしまうビュワード。
しかし、どんどんと距離を縮めているゴールディアなら、ビュワードの頑なな気持ちを解すことができるのだ。
アクシミリオの気遣いに頭を下げたビュワードは、ゴールディアの執務室へ足を向けた。
「お父様が?」
「仕事を切り上げて、観劇でも行って来いと」
小さな声だが、はっきりそう言ったビュワードに、ゴールディアは蕩けたようにへらりと笑うと、その腕に掴まって頬を腕に押し付ける。
「うふふ、ユワ様すぐ支度して出かけましょっ!」
その夜ゴールディアとビュワードは、喜劇を楽しんだあと、アクシミリオが予約してくれていた丘の上のレストランで素晴らしい晩餐を堪能。
夜空を映す窓から家々の灯火が見えて、幻想的な景色すらもごちそうだ。
ふとビュワードは思った。
─兄上は貴族でもなくなったのか。もうこうした贅沢を経験することもないのだろうな─
だからかわいそうだとか、手を差し伸べてやろうという気持ちがあるわけではない。
ビュワードにとって何より大切なのは、テーブルの向こう側で微笑むゴールディア。
そして義父母とミリタス侯爵家である。
いずれスミール伯爵となる日も来るが、ミリタス侯爵家の利益のためにスミール領地を富ませようと考えるほど、徹底してミリタス家の一員となっていた。
耳の早いアクシミリオが、打ち合わせの後にビュワードに囁いた。
「そう・・ですか」
ビュワードに特に感慨はない。
とても小さな頃は遊んでくれた兄だが、あまりにも長く虐められたため、自分の世界からいなくなってくれてホッとしている。
「大丈夫か?」
「はい」
「小耳に挟んだところでは、どうもまだスミール伯爵の後継を諦めていなかったようでな。仕事も真面目にやっていないらしく、ドレド殿の堪忍袋の緒が切れたようだ」
ビュワードとスミール伯爵家を守るためにドレドが決断したことを、教えてやったほうが後の親子関係に良い影響を与えるかもしれないと、敢えてアクシミリオは口にした。
ビュワードの視線がほんの少し揺れたが。
「そうですか・・・」
それだけ言って黙り込む。
重い空気に耐えきれなくなったアクシミリオは、少し歪んだ机の引き出しをカタカタと開けると、パチッとウインクし、小さな紙片を取り出してビュワードに手渡してやった。
「今日は早く仕事を切り上げて、たまにはゴールディアを芝居にでも誘ってやれ。そのチケットは我が家専用の桟敷だから、いつ行っても使えるものだ。
ユワは私たちの期待以上に頑張ってくれているが、頑張りすぎは疲れてしまうぞ。気分転換も大事だから、ほら、ユワの大事なディアのところに行ってデートに誘ってこい」
ビュワードだけが呼ぶ愛娘の愛称を、からかうように言って、アクシミリオはその背中を押し出してやる。
「楽しんで!芝居のあとは美味いものでも食べてくるといいぞ」
ビジネスライクにスミール伯爵家への圧力的な支援策を提案したりするが、家族のことになると神経質になってしまうビュワード。
しかし、どんどんと距離を縮めているゴールディアなら、ビュワードの頑なな気持ちを解すことができるのだ。
アクシミリオの気遣いに頭を下げたビュワードは、ゴールディアの執務室へ足を向けた。
「お父様が?」
「仕事を切り上げて、観劇でも行って来いと」
小さな声だが、はっきりそう言ったビュワードに、ゴールディアは蕩けたようにへらりと笑うと、その腕に掴まって頬を腕に押し付ける。
「うふふ、ユワ様すぐ支度して出かけましょっ!」
その夜ゴールディアとビュワードは、喜劇を楽しんだあと、アクシミリオが予約してくれていた丘の上のレストランで素晴らしい晩餐を堪能。
夜空を映す窓から家々の灯火が見えて、幻想的な景色すらもごちそうだ。
ふとビュワードは思った。
─兄上は貴族でもなくなったのか。もうこうした贅沢を経験することもないのだろうな─
だからかわいそうだとか、手を差し伸べてやろうという気持ちがあるわけではない。
ビュワードにとって何より大切なのは、テーブルの向こう側で微笑むゴールディア。
そして義父母とミリタス侯爵家である。
いずれスミール伯爵となる日も来るが、ミリタス侯爵家の利益のためにスミール領地を富ませようと考えるほど、徹底してミリタス家の一員となっていた。
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