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第62話

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 ぼんやりした義父の様子に気づいたゴールディアが、ビュワードを肘でつつく。

「ねえユワ様!スミールのお義父様のこと、よろしいの?」
「うん」
「でもおひとりで寂しそうよ」

 ゴールディアに勧められ、仕方なさそうに声をかけに行くビュワードの背中を見て、このままでは「どうも」くらいしか言わないのではないかと心配になったゴールディアも後を追った。

「父上、本日はありがとうございました」
「お、おお、素晴らしい宴であったな」
「ありがとうございます。ミリタス侯爵ご夫妻の、いえ、お義父上ちちうえ、お義母上ははうえのお心配りにより身に余る祝宴をさせていただきました」

 ゴールディアの予想よりは言葉数が多かったが、話しが弾む気配はない。


「お義父様!本日はありがとうございます」

 ぶっきらぼうにため息を吐き出したビュワードに被せるように、ゴールディアが愛想を振りまきながら割り込むと、硬い表情だったビュワードの口元がほんのり緩む。

「また定期的にスミール領に参りますので、今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願いいたしますわ!お義父さま」

 明らかにほっとしたような笑みを浮かべたドレドは、まるで感謝の気持ちを伝えるように、張り詰めた空気から助け出したゴールディアに小さく会釈をしたが、父子の会話はそれっきり。
  ゴールディアの予想通り、まあ過去を思えば当然である。

 しかし、ドレドは深い後悔と反省のもと、ビュワードに誠実に対応しようとしている、そうゴールディアは感じ取っていた。


 ─いつか、ユワ様の心がほんの少しでもお義父様を許せる日が来るといい。ユワ様を想う家族がたくさんいて、ユワ様が誰とでも屈託なく笑いあえる日が─





 因みにゴールディアの思う家族の中には、勿論、勘当されたトリードは入っていない。

 そういえば、結婚式でビュワードの華々しい幸せな姿を見せつけ、落ちぶれたトリードをさらに落ち込ませてやろうと手ぐすねを引いて
いたゴールディアだが、流石に勘当された平民トリードを侯爵家の華燭の宴に呼ぶことはできなかった。


 後々まで何度も、結婚式で幸せの絶頂を見せつけ、もっとこてんぱんにやっつけてやりたかったとゴールディアは愚痴ったが、覚悟もなく平民に落とされたのは十分過ぎる罰だと考えていたビュワードは、それ以上トリードを追い詰めることを良しとはせず、ゴールディアからその話が出るたびに宥めすかしては、義兄をその記憶から遠ざけることに成功したのだった。


‡ ‡ ‡ ‡ ‡ ‡ ‡ ‡ ‡ ‡ ‡


いつもご愛読ありがとうございます。

次回最終話となります。

そして明日から新作「君を傷つけるつもりはなかったと、浮気者の婚約者が叫んでいます。」を公開します。
最終話まで予約投稿済の2万文字くらいの短い作品なので、サクサクっとお読みいただけるかと思います。
こちらも是非、よろしくお願い致します。
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