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第63話 その後
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さて。
結婚式の翌年、ゴールディアは第一子を授かった。
ビュワードにそっくりの顔立ちとビュワードが愛してやまない大きな緑の瞳の男子で、ラファイエードと名付けられた。
さらに翌年。年子で、今度はどう見てもアクシミリオのコピーという容姿の次男サジュランドが生まれる。一年置いてこれまたビュワードによく似た三男テリオリスが。
どの出産も、産後の肥立ちは大切だ!と、出産についてよく勉強したビュワードがゴールディアの執務の殆どを引き受け、妻を甘やかした。
大層忙しく過ごしていても、ビュワードは毎日必ず予定をこじ開けてゴールディアと茶を飲み、自らこどもたちと遊び、世話を焼く。
「忙しいのだから、こどもたちは乳母に任せれば?」
孫と遊びたいメリダとアクシミリオが言っても、ビュワードは笑って返すのだ。
「いえ、ディアとラフィ、サージュ、テリーと過ごす時間こそが、私にとって最高の幸せで癒やし、そして活力です。彼らの顔を見なければ働く力が湧きませんから」
国で数本の指に数えられる富豪一族だったミリタス侯爵家は、その後スミール伯爵となった婿ビュワードの活躍で、いつしか国で一番の大富豪となった。
結局のところ、前スミール伯爵ドレドとビュワードの仲はゴールディアが期待するほど改善しなかったが、アニタのあと二度と妻を娶ることのなかったドレドは、スミールの田舎暮らしを気に入った孫のテリオリスを迎えて賑やかさを取り戻した屋敷で、のんびりと余生を過ごしている。
アクシミリオはため息をついた。
「テリーも変わっているな、芋しかないスミールに住みたいだなんて」
「そうねえ、でもあの子は虫や動物が好きだし、自然豊かな所が性分にあうのかもしれなくてよ」
メリダは孫を理解している。
「それにサージュがガーリングのご令嬢の婚約者となったらスミールには行けないのだし、あの子が伯爵を継ぐなら良かったのじゃないかしら」
ゴールディアとビュワードの長男ラファイエードがミリタスを継ぐが、スミールを継がせる予定だった次男サジュランドは、ガーリング公爵家の一人娘、イルメリアとの婿入り婚約を打診されている。
「まあそうだな。サージュは田舎より王都のほうが向いてそうだし」
落ち着くところに皆が収まって行く中。
ビュワードだけがまだ足りないと焦燥感を抱えていた。
「ユワ様どうなさいましたの?」
「うん・・・いや、何でもない」
「ユワ様。それはあなたの悪い癖ですわ」
威厳ある伯爵となったビュワードだが、相変わらず美しい顔を傾け、きょとりとすると、
「もうっ!そのお顔反則ですっ」
「反則?私は何をしたのかな?」
「そうやって可愛らしいお顔で誤魔化そうとして!でもダメ!そうやって誤魔化さないで」
「誤魔化す?何をだい?」
夫をジーっと見つめたゴールディアは言った。
「貴方の心を隠さないで!何をしたいか、したくないのか。何が不安なのかを言葉にして!そうしたら私が手助けできると思うの。一人ですべて抱え込まないで、平気なフリをしないで」
ぎゅぅっと腕をまわしてビュワードを抱きしめる。
「うん、ありがとうディア」
結婚の際のゴールディアの望み、ビュワードが本当に屈託なく笑うことはできないままだが、しかし、何年もかけて何度もゴールディアが語りかけることで以前よりはマシになったと思う。
ゴールディアはけっして焦ることはない。
愛する夫ビュワードに、いつかその日がやって来ることを、心から願っているから。
完
∈∈∈∈∈∈∈∈
いつもご愛読くださいまして、ありがとうございました。
これにて完結となります。
新作「君を傷つける気はなかったと、浮気者の婚約者が叫んでいます」も公開しております。
こちらは短めのサクッと読める作品です。どうぞよろしくお願い致します。
結婚式の翌年、ゴールディアは第一子を授かった。
ビュワードにそっくりの顔立ちとビュワードが愛してやまない大きな緑の瞳の男子で、ラファイエードと名付けられた。
さらに翌年。年子で、今度はどう見てもアクシミリオのコピーという容姿の次男サジュランドが生まれる。一年置いてこれまたビュワードによく似た三男テリオリスが。
どの出産も、産後の肥立ちは大切だ!と、出産についてよく勉強したビュワードがゴールディアの執務の殆どを引き受け、妻を甘やかした。
大層忙しく過ごしていても、ビュワードは毎日必ず予定をこじ開けてゴールディアと茶を飲み、自らこどもたちと遊び、世話を焼く。
「忙しいのだから、こどもたちは乳母に任せれば?」
孫と遊びたいメリダとアクシミリオが言っても、ビュワードは笑って返すのだ。
「いえ、ディアとラフィ、サージュ、テリーと過ごす時間こそが、私にとって最高の幸せで癒やし、そして活力です。彼らの顔を見なければ働く力が湧きませんから」
国で数本の指に数えられる富豪一族だったミリタス侯爵家は、その後スミール伯爵となった婿ビュワードの活躍で、いつしか国で一番の大富豪となった。
結局のところ、前スミール伯爵ドレドとビュワードの仲はゴールディアが期待するほど改善しなかったが、アニタのあと二度と妻を娶ることのなかったドレドは、スミールの田舎暮らしを気に入った孫のテリオリスを迎えて賑やかさを取り戻した屋敷で、のんびりと余生を過ごしている。
アクシミリオはため息をついた。
「テリーも変わっているな、芋しかないスミールに住みたいだなんて」
「そうねえ、でもあの子は虫や動物が好きだし、自然豊かな所が性分にあうのかもしれなくてよ」
メリダは孫を理解している。
「それにサージュがガーリングのご令嬢の婚約者となったらスミールには行けないのだし、あの子が伯爵を継ぐなら良かったのじゃないかしら」
ゴールディアとビュワードの長男ラファイエードがミリタスを継ぐが、スミールを継がせる予定だった次男サジュランドは、ガーリング公爵家の一人娘、イルメリアとの婿入り婚約を打診されている。
「まあそうだな。サージュは田舎より王都のほうが向いてそうだし」
落ち着くところに皆が収まって行く中。
ビュワードだけがまだ足りないと焦燥感を抱えていた。
「ユワ様どうなさいましたの?」
「うん・・・いや、何でもない」
「ユワ様。それはあなたの悪い癖ですわ」
威厳ある伯爵となったビュワードだが、相変わらず美しい顔を傾け、きょとりとすると、
「もうっ!そのお顔反則ですっ」
「反則?私は何をしたのかな?」
「そうやって可愛らしいお顔で誤魔化そうとして!でもダメ!そうやって誤魔化さないで」
「誤魔化す?何をだい?」
夫をジーっと見つめたゴールディアは言った。
「貴方の心を隠さないで!何をしたいか、したくないのか。何が不安なのかを言葉にして!そうしたら私が手助けできると思うの。一人ですべて抱え込まないで、平気なフリをしないで」
ぎゅぅっと腕をまわしてビュワードを抱きしめる。
「うん、ありがとうディア」
結婚の際のゴールディアの望み、ビュワードが本当に屈託なく笑うことはできないままだが、しかし、何年もかけて何度もゴールディアが語りかけることで以前よりはマシになったと思う。
ゴールディアはけっして焦ることはない。
愛する夫ビュワードに、いつかその日がやって来ることを、心から願っているから。
完
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いつもご愛読くださいまして、ありがとうございました。
これにて完結となります。
新作「君を傷つける気はなかったと、浮気者の婚約者が叫んでいます」も公開しております。
こちらは短めのサクッと読める作品です。どうぞよろしくお願い致します。
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