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恋と仕事と
第23話
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気負って告白したが、終始財産の話となり、気が抜けてしまったノアランに気づかないカーラ。
呑気に「お腹が空きましたわね」と言ってノアランを引っ張り、食堂に向かった。
するとあれほど言ったのにブラスが座っている。
「まあお父さまったら!おひとりでとお願いしましたわよ」
「本当に風邪ではない。大丈夫だから仲間はずれにするな」
フンっと鼻を鳴らすなんて公爵としていかがなものかとは、さすがにカーラも言わなかったが。
「それよりお父さま。キャメイリア様はまだかしら」
「ああ。昨夜が遅かったからな。ゆっくりされれているのではないか?」
「キャメイリア様は、ノアラン様がお話になられたことをご存知ないでしょう?私達が知ってしまったことをどう思われるかしら」
「大丈夫です。母は早く話せと言っていたので、むしろ良くやったと言うでしょう」
「そうなのですか?」
「はい。・・・どう思われるかと臆病風に吹かれてしまった私が、話せなかっただけなのです」
ノアランが俯く。
初めて会った時は颯爽としていたが、最近のノアランは子犬のようだと、しょんぼりした姿を見てカーラは思う。
人によってはそれを女々しいと言うかもしれないが、強さだけでなく素直に脆さも見せてしまう、貴族にしては感情豊かで、ちょっと隙もあるノアランが人間味があって好ましいと。
ノアランと過ごす時間はカーラにとって得難いものになっていた。
あるときは自分が手綱を握り、あるときはノアランが軌道を修正する。助け合い、譲り合える関係がこんなに自然に構築できるとは、考えたこともなかったから。
このままずっとノアランとパートナーでいたいと自分が思っていることに気がついて、カーラは突然真っ赤になった。
(し、仕事のパートナーだからっ)
心の中で一人勝手に動揺し、ふるふると首を振って、自分を誤魔化そうとするが。
「おいカーラ。お前顔が赤いぞ!人のこと言えたものじゃないな、自分こそ風邪だろう!部屋に行って少し休め」
「違いますわ!いろいろ考えすぎて頭がいっぱいになっただけですもの。それよりお父さま!陛下に謁見のお申し込みをしてくださいませ。ノアラン様が頂くべき財産を受け取りに行かなくてはなりませんわ」
「おお、そうだ!言っていたなそんなことを」
「ええ、先代辺境伯夫人たちの財産と男爵位が頂けるのですもの。貰わなくては絶対に損ですわ!」
息急き切るような勢いで、前のめりに話すカーラをとどめたのはノアランだ。
「あの、正直なところ、他国の貴族である私では、爵位を頂いてもその役目を果たすのが難しいと思います。お返ししたほうがよいのではないかと。だから財産だけというのもちょっと」
「いやいや。領地も大した広さではなかったと思うし、何かの役に立つこともあるだろうからもらっておけばいい」
ブラスの脳内では今、高速で様々なシュミレーションが行われていた。
ノアランがコーテズの男爵位を持てば、他国貴族を迎えるよりずっと、シーズン公爵家の保有爵位を継がせることが容易になる。
シルベスの貴族を婿に迎えるより、遥かにずっとやりやすい。
公爵家というのは王家に近い分、何かと面倒も多いのだ。
マトウに唯の一つも似たところのないノアランなら、ローリスの醜聞もそのうちに跳ね返せるだろう。
・・・本人にその強さがあるかはわからないが、カーラや自分がついていれば問題ない。
考え込んだ父は、目の前で手を振る娘に呼び戻された。
「ほらお父さま!早く陛下に書状をお出しくださらなくては」
「え?今か?朝食のあとでよかろう?」
「いえ今ですわ!キャメイリア様をお待ちする時間が勿体ないではありませんか!」
ビルスは亡くなった妻によく似た顔立ちの娘が、おっとりしたところをまったく継ぐことなくテキパキと自分を追い立てる姿に、ほんの少しだけ悲しみを覚えながら執務室に押し返されて行った。
呑気に「お腹が空きましたわね」と言ってノアランを引っ張り、食堂に向かった。
するとあれほど言ったのにブラスが座っている。
「まあお父さまったら!おひとりでとお願いしましたわよ」
「本当に風邪ではない。大丈夫だから仲間はずれにするな」
フンっと鼻を鳴らすなんて公爵としていかがなものかとは、さすがにカーラも言わなかったが。
「それよりお父さま。キャメイリア様はまだかしら」
「ああ。昨夜が遅かったからな。ゆっくりされれているのではないか?」
「キャメイリア様は、ノアラン様がお話になられたことをご存知ないでしょう?私達が知ってしまったことをどう思われるかしら」
「大丈夫です。母は早く話せと言っていたので、むしろ良くやったと言うでしょう」
「そうなのですか?」
「はい。・・・どう思われるかと臆病風に吹かれてしまった私が、話せなかっただけなのです」
ノアランが俯く。
初めて会った時は颯爽としていたが、最近のノアランは子犬のようだと、しょんぼりした姿を見てカーラは思う。
人によってはそれを女々しいと言うかもしれないが、強さだけでなく素直に脆さも見せてしまう、貴族にしては感情豊かで、ちょっと隙もあるノアランが人間味があって好ましいと。
ノアランと過ごす時間はカーラにとって得難いものになっていた。
あるときは自分が手綱を握り、あるときはノアランが軌道を修正する。助け合い、譲り合える関係がこんなに自然に構築できるとは、考えたこともなかったから。
このままずっとノアランとパートナーでいたいと自分が思っていることに気がついて、カーラは突然真っ赤になった。
(し、仕事のパートナーだからっ)
心の中で一人勝手に動揺し、ふるふると首を振って、自分を誤魔化そうとするが。
「おいカーラ。お前顔が赤いぞ!人のこと言えたものじゃないな、自分こそ風邪だろう!部屋に行って少し休め」
「違いますわ!いろいろ考えすぎて頭がいっぱいになっただけですもの。それよりお父さま!陛下に謁見のお申し込みをしてくださいませ。ノアラン様が頂くべき財産を受け取りに行かなくてはなりませんわ」
「おお、そうだ!言っていたなそんなことを」
「ええ、先代辺境伯夫人たちの財産と男爵位が頂けるのですもの。貰わなくては絶対に損ですわ!」
息急き切るような勢いで、前のめりに話すカーラをとどめたのはノアランだ。
「あの、正直なところ、他国の貴族である私では、爵位を頂いてもその役目を果たすのが難しいと思います。お返ししたほうがよいのではないかと。だから財産だけというのもちょっと」
「いやいや。領地も大した広さではなかったと思うし、何かの役に立つこともあるだろうからもらっておけばいい」
ブラスの脳内では今、高速で様々なシュミレーションが行われていた。
ノアランがコーテズの男爵位を持てば、他国貴族を迎えるよりずっと、シーズン公爵家の保有爵位を継がせることが容易になる。
シルベスの貴族を婿に迎えるより、遥かにずっとやりやすい。
公爵家というのは王家に近い分、何かと面倒も多いのだ。
マトウに唯の一つも似たところのないノアランなら、ローリスの醜聞もそのうちに跳ね返せるだろう。
・・・本人にその強さがあるかはわからないが、カーラや自分がついていれば問題ない。
考え込んだ父は、目の前で手を振る娘に呼び戻された。
「ほらお父さま!早く陛下に書状をお出しくださらなくては」
「え?今か?朝食のあとでよかろう?」
「いえ今ですわ!キャメイリア様をお待ちする時間が勿体ないではありませんか!」
ビルスは亡くなった妻によく似た顔立ちの娘が、おっとりしたところをまったく継ぐことなくテキパキと自分を追い立てる姿に、ほんの少しだけ悲しみを覚えながら執務室に押し返されて行った。
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