猫が私に

みちづきシモン

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さよならとありがとうと、はじめまして

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「いってきまーす」
 いつものように、玄関を出て学校へ向かう。私は高校を家の近くに選び進学した。早く家に帰って猫達と戯れたいためだ。やっぱり私は猫が好きだ。タロ達が好きだ。
それでも学校では、普通に当然友達がいる。バカ騒ぎして遊んだりして、私は高校生を楽しんだ。
「ただいまー!」
 家に帰る、だが……。
「ん?」
 タロ達は皆眠っていた。起こすのも悪いし、そっと自分の部屋に戻った。
 それからタロ達はよく寝るようになった。ご飯もあまり食べない。私は病気なんじゃないかと心配になった。
「ねぇ、ママ。タロ達大丈夫かな? 動物病院に連れていく?」
「うーん」
 ママはしばらく考えて、少し寂しげに言った。
「タロ達ももうおじいちゃんおばあちゃんだからねぇ……そっと見守るのが大切よ。勿論何かあれば病院に連れていくけどね」
 ま、まさか……寿命? そんな……そんなことって!
「嘘だよ! タロ達、前まで元気だったじゃん!」
「鮎香は気づかなかったのかもしれないけど、ちょっとずつ元気なくなってたのよ? きっと、タロ達が心配かけないように強気に振舞ってたのね」
 気づかなかった……そんな、嘘だ!
「大丈夫だよね? ねぇ大丈夫だよね?」
「こればっかりはなんとも言えないわ」
「そんな……」
 私はとにかく、タロ達のいるリビングに居続けた。勉強もリビングでした。
 時々擦り寄ってくるタマと、トラ。尻尾を振って答えてくれるタロとクロ。
 でも明らかに元気がなかった。私は胸が苦しくなったが堪えた。無理に構うと逆に寿命を縮めてしまうかもしれない。いつも通り学校での話をゆっくりしながら、寄ってくると撫でてあげた。
 そうして、ある日運命の日が来てしまった。
 私は学校から家に帰っていた。公園を通りかかった時である。
「とうとうトラさんも最期の時か」
「窓際でいつも挨拶してくれたのに、寂しくなるな」
 そこに誰もいない。猫が二匹いるだけである。
 私は胸騒ぎがして走った。まだ家まで距離があったけど、全力疾走した。
 家の鍵を開け、扉を開いてリビングに駆け込んだ。そこにはお母さんがタロ達と一緒にいて、トラをブランケットで包んで休ませていた。
「ママ!」
「鮎香、おかえりなさい」
「トラ……」
「トラ、鮎ちゃんが帰ってきたよ」
 お母さんが優しくトラに話しかける。トラは呼吸をゆっくりしていて、眠そうにニャアと鳴いた。
「お母さん、トラ大丈夫だよね?」
「獣医の先生が言うにはね。もう……」
「う、嘘だ!」
「鮎香、騒がない。トラも頑張ったよ」
「嘘だ……」
 ニャアと、トラが鳴いた。タロとタマとクロも寄ってくる。
「ううううう……トラ……」
 その晩パパも帰ってきて晩御飯にしたが私は食欲もなく、私はただただトラのそばに居た。
 そして、最期に……。
「鮎ちゃん、今までありがとな」
 トラがそう言った。パパとママには聞こえていない。私の妄想かもしれない。
 パパとママと私が見守る中、トラは虹の橋を渡った。
「トラぁぁぁぁぁ! 私の方こそありがとうだよ!」
 私は脇目も振らず泣き叫んでしまった。パパとママは、私の頭を撫でて涙を拭っていた。

 その年の冬の事。今度はタロが、ご飯を食べなくなった。
「ほら、何か食べて……」
 日に日に弱ってくタロの事が心配で、勉強が手につかなくなった。
「勉強はしなさいよ? 心配なのはわかるけど」
 ママにはそう咎められてしまった。年末年始、部屋で勉強しているとママが部屋に入ってきた。
 温かいコーヒーを渡してくれて、それを飲んだらちょっと降りてきなさいと言われた。
 コーヒーを飲んで、涙を堪えて覚悟を持ってリビングに向かう。
 パパとママが、タロを介抱していた。
「タロ、大丈夫?」
 私は優しくタロを撫でた。微かにニャアと鳴いてくれた。
 夜中の一時。
「鮎ちゃん、元気でな」
「……! タロっ!」
 私は静かに泣いて言った。
「タロ! 天国で元気でね……!」
 そうしてタロは息を引き取った。

 受験勉強を終え大学に入学した私は、実家から離れて一人暮らしをすることになった。タマとクロの事が気にかかっていたが、夢のための一歩だ。学費と生活費のために仕送りだけではなくバイトしながら生活することになる。勿論勉強はしっかりしながら。
 大学二年生の頃、お母さんから写真とメッセージが送られてきた。
 クロが虹の橋を渡ったと。私の中で込み上げてくるものがあった。
 そして大学に六年通い、卒業した。私は一度家に帰った。帰ることは連絡していたが、お父さんとお母さんはまだ仕事で、家に帰ると誰もいなかった。
「おかえり、鮎ちゃん」
「え?」
 リビングに入るとタマが迎えてくれた。
「タマ?」
「クロから伝言だよ。鮎ちゃん立派なお医者さんになるんだよって」
「うっ……うわあああん!」
「ふふ、鮎ちゃんは泣き虫だねぇ」
 タマは敷かれたブランケットの上で寛ぐ。
「あたしもそろそろかねぇ」
「タマ! やだよ、タマ!」
「きっと、鮎ちゃんとは今日で最後だから、今のうちに言っとくよ」
「タマ! 私また今日からここに……!」
「いないんだろう?お医者さんになるんだろう?」
「ううう……ごめんねぇ……」
「いいんだよ、立派なお医者さんになって、沢山のあたしらを助けてあげとくれ」
「うん……うん!」
 私は泣きながらゆっくり優しくタマを抱いた。タマは嫌がらなかった。
「大好きだよ、鮎ちゃん」
「私もだよ、タマ」
 私はタマを離し、休ませてあげた。暫くしてお母さんが帰ってきて、ご飯の支度を始めた。お父さんが帰ってきてから豪華な卒業祝いをしてくれ、タマも一度ニャアと鳴いて祝ってくれた。
 私は卒業前に受けた国家資格をもって、獣医になる道を選んだ。
 そして、動物病院で獣医として働くことになった。まだまだ学ぶべきことも多いけど頑張って行こうと思ってる。
 タマは私が動物病院に勤めて一年目で天国へと向かったと聞いた。

 タロ達と沢山触れ合ったのは幼少の頃だと思う。
 学校に通うにつれて、触れ合う時間は減っていく。でもそれが悪いとは思わない。
 猫を飼う人は四六時中、猫といるわけではない。猫も自由気ままに生きてる。
 でも互いに触れ合う時間があるからこそ、優しくなれる。幸せになれる。
 この世にはペットを飼っても捨ててしまったり、劣悪な環境から保護された犬や猫がいる。それらを救っていきたいと思ってる人はたくさんいる。
 難しい問題だけど、私も少しでも力になれたらと思ってる。
「さて」
 目の前に居るのは、保護された子猫。私はこの子を飼う事にした。
「この子にはなんて名前をつけてあげようか」
 きっと幸せにしてあげる。きっと幸せにしてもらえる。
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