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子猫の名前
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私はこの子猫にソラという名をつけた。
お目めが空色をしていたからだ。ソラは私の部屋に来てキャリーバッグから出た時、キョロキョロと辺りを見回していた。やがて床をペタペタと歩き、ニャアと鳴いた。
「お気に召したかな?」
ソラは女の子だ。女子力高いといえるかどうかわからない私の家の可愛いものを手に持っていってやると必死に掴んでいた。サメのぬいぐるみを揉んだり噛んだり。
暫く遊ぶと疲れたのか寝てしまった。子猫用のケージに入れて寝かせる。しばらく家事をしていると、音に目が覚めたのかニャアニャアと鳴き声がする。
私は家事を一旦中断し、ミルクの用意をした。子ネコ用ミルクを丁度いい温度にする。
飲ませてあげると、ごくごくと飲んだ。瓶を掴む姿がなんとも可愛らしい。
飲み干すと、また眠くなったのかうつらうつらしている。私は軽く撫でてあげた。ソラは気持ちよさそうに寝た。
なるべく音を立てないように料理を作り、私もご飯にする。
今日は休日だが、明日からは仕事もある。この子一人で大丈夫だろうかという不安に駆られる。
といって、病院から徒歩十分くらいのところの部屋なので、心配なら昼休みにでも抜け出せば問題ないかもしれない。部屋には見守りカメラも置いてある。
「ソラー、寂しくないかい?」
私は語りかけてみた。返事はない。
起きてる時に撫でてやると、やっぱり気持ちよさそうにニャアと鳴く。
今思えば、タロ達との日々は大切な日々だった。
今はもう天国へと旅立った四匹の保護猫たち。
リーダーのタロに嫉妬したタマ達が喧嘩になった事もあったっけ。
「タロや、タロはいつも鮎ちゃんの一番席にいる」
タマが言ってた。それに対してタロは、
「クロだって一番席にいる時はあるだろ? 俺に当たるんじゃない」
するとクロが反論する。
「僕よりトラの方が二番目に鮎ちゃんの一番席にいる」
するとトラは言った。
「結局タロが一番に、鮎ちゃんの一番席にいる」
「ほらほら、喧嘩しないの。皆おいで」
私は皆を撫でてあげて、タロを膝の上両隣にクロとトラ、腰の辺りにタマに囲まれて言った。
「皆一番。ね?」
そう言うと、皆ゴロゴロと喉を鳴らしくっついた。
またある時は、予防注射にバタバタした時もあったな。
病院だと思うとクロとトラが、不安になるのか暴れる。
「ほら、クロ、トラ、キャリーバッグに入って」
お父さんとお母さんが、宥めるも逃げる逃げる。
「病院だってわかってるんだろうな。困ったな」
お父さんが困った様子で私に声をかけた。
私なら何とかできるんじゃないかと思ったのだろう。
私はソファに座った。タロとタマはもう猫用キャリーバッグに入っている。
クロとトラが私の元へと寄ってくる。
私の膝の上で、スリスリしてくるクロと、足の横でニャアと鳴くトラ。
「大丈夫、怖くないよ」
私は優しく撫でてあげた。手に頭を擦りつけてくる二匹。
よしよし、怖いね、でも大丈夫だよ、と優しく頬ずりしてあげる。
やがて落ち着いたのか、大人しくキャリーバッグに入る。
「やれやれ、やっとかい。困ったもんだね」
タマが言う。
「俺だって怖いんだぞ? 早く済ませようよ」
タロはやや震え声に聞こえた。
無事注射を終えた四匹に、飛びっきり甘えさせてあげたのを覚えてる。
「鮎ちゃん! 僕頑張ったよ」
「もっと撫でて!」
甘えてくるクロとトラ。仕方がないんだからーと、ふふふと笑った私。
この頃は猫達の声も私だけしか聞こえなくても気にならなかった。
いつも聞こえるわけじゃない。幻聴かもしれない。私は病気なのかもしれない。でもタロ達の声が、猫たちの声がわかる時があった。犬とかは聞こえなかった。猫達だけだった。でも嬉しかった。普通の人と同じ、それもいいが、何か特別なものがあるというのは気分のいいものだ。
彼らと話せただけで嬉しかった。だからこそ、動物病院で猫を特別扱いしていたのかもしれない。
動物病院には色んな動物が連れてこられる。当然だ。その中でも猫ばかりに声をかけて労る私に注意が入った。
「仙道先生は猫に強く想いを寄せているようですが、他の動物と差別してはなりません」
仙道鮎香。それがわたしの名前。院長先生から注意を受けた私は謝罪し、他の動物も平等に診た。もしかしたら、他の動物でも声が聞こえるかもしれない。私は動物と接する時ちゃんと声をかけながら接するようにした。でもやっぱり、声は聞こえない。勿論猫の声も基本聞こえないのだが。
私はいつも通り家に帰った。あれから随分と猫と会話していない気がする。喋りかけても応えてくれない。そんな寂しさの中にいた。
「ソラー、鮎が帰ったよー」
「おかえり鮎ちゃん」
「うん……うん?」
「どうしたの?」
「ソ、ソラ?」
「ねぇ遊ぼうよ」
「うん……うん! 遊ぼうソラ!」
わたしは猫じゃらしを持ってきて遊んであげた。ひたすら遊んだあとは疲れたのかぐっすり眠るソラを優しく撫でて、ケージに戻してあげた。
お目めが空色をしていたからだ。ソラは私の部屋に来てキャリーバッグから出た時、キョロキョロと辺りを見回していた。やがて床をペタペタと歩き、ニャアと鳴いた。
「お気に召したかな?」
ソラは女の子だ。女子力高いといえるかどうかわからない私の家の可愛いものを手に持っていってやると必死に掴んでいた。サメのぬいぐるみを揉んだり噛んだり。
暫く遊ぶと疲れたのか寝てしまった。子猫用のケージに入れて寝かせる。しばらく家事をしていると、音に目が覚めたのかニャアニャアと鳴き声がする。
私は家事を一旦中断し、ミルクの用意をした。子ネコ用ミルクを丁度いい温度にする。
飲ませてあげると、ごくごくと飲んだ。瓶を掴む姿がなんとも可愛らしい。
飲み干すと、また眠くなったのかうつらうつらしている。私は軽く撫でてあげた。ソラは気持ちよさそうに寝た。
なるべく音を立てないように料理を作り、私もご飯にする。
今日は休日だが、明日からは仕事もある。この子一人で大丈夫だろうかという不安に駆られる。
といって、病院から徒歩十分くらいのところの部屋なので、心配なら昼休みにでも抜け出せば問題ないかもしれない。部屋には見守りカメラも置いてある。
「ソラー、寂しくないかい?」
私は語りかけてみた。返事はない。
起きてる時に撫でてやると、やっぱり気持ちよさそうにニャアと鳴く。
今思えば、タロ達との日々は大切な日々だった。
今はもう天国へと旅立った四匹の保護猫たち。
リーダーのタロに嫉妬したタマ達が喧嘩になった事もあったっけ。
「タロや、タロはいつも鮎ちゃんの一番席にいる」
タマが言ってた。それに対してタロは、
「クロだって一番席にいる時はあるだろ? 俺に当たるんじゃない」
するとクロが反論する。
「僕よりトラの方が二番目に鮎ちゃんの一番席にいる」
するとトラは言った。
「結局タロが一番に、鮎ちゃんの一番席にいる」
「ほらほら、喧嘩しないの。皆おいで」
私は皆を撫でてあげて、タロを膝の上両隣にクロとトラ、腰の辺りにタマに囲まれて言った。
「皆一番。ね?」
そう言うと、皆ゴロゴロと喉を鳴らしくっついた。
またある時は、予防注射にバタバタした時もあったな。
病院だと思うとクロとトラが、不安になるのか暴れる。
「ほら、クロ、トラ、キャリーバッグに入って」
お父さんとお母さんが、宥めるも逃げる逃げる。
「病院だってわかってるんだろうな。困ったな」
お父さんが困った様子で私に声をかけた。
私なら何とかできるんじゃないかと思ったのだろう。
私はソファに座った。タロとタマはもう猫用キャリーバッグに入っている。
クロとトラが私の元へと寄ってくる。
私の膝の上で、スリスリしてくるクロと、足の横でニャアと鳴くトラ。
「大丈夫、怖くないよ」
私は優しく撫でてあげた。手に頭を擦りつけてくる二匹。
よしよし、怖いね、でも大丈夫だよ、と優しく頬ずりしてあげる。
やがて落ち着いたのか、大人しくキャリーバッグに入る。
「やれやれ、やっとかい。困ったもんだね」
タマが言う。
「俺だって怖いんだぞ? 早く済ませようよ」
タロはやや震え声に聞こえた。
無事注射を終えた四匹に、飛びっきり甘えさせてあげたのを覚えてる。
「鮎ちゃん! 僕頑張ったよ」
「もっと撫でて!」
甘えてくるクロとトラ。仕方がないんだからーと、ふふふと笑った私。
この頃は猫達の声も私だけしか聞こえなくても気にならなかった。
いつも聞こえるわけじゃない。幻聴かもしれない。私は病気なのかもしれない。でもタロ達の声が、猫たちの声がわかる時があった。犬とかは聞こえなかった。猫達だけだった。でも嬉しかった。普通の人と同じ、それもいいが、何か特別なものがあるというのは気分のいいものだ。
彼らと話せただけで嬉しかった。だからこそ、動物病院で猫を特別扱いしていたのかもしれない。
動物病院には色んな動物が連れてこられる。当然だ。その中でも猫ばかりに声をかけて労る私に注意が入った。
「仙道先生は猫に強く想いを寄せているようですが、他の動物と差別してはなりません」
仙道鮎香。それがわたしの名前。院長先生から注意を受けた私は謝罪し、他の動物も平等に診た。もしかしたら、他の動物でも声が聞こえるかもしれない。私は動物と接する時ちゃんと声をかけながら接するようにした。でもやっぱり、声は聞こえない。勿論猫の声も基本聞こえないのだが。
私はいつも通り家に帰った。あれから随分と猫と会話していない気がする。喋りかけても応えてくれない。そんな寂しさの中にいた。
「ソラー、鮎が帰ったよー」
「おかえり鮎ちゃん」
「うん……うん?」
「どうしたの?」
「ソ、ソラ?」
「ねぇ遊ぼうよ」
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わたしは猫じゃらしを持ってきて遊んであげた。ひたすら遊んだあとは疲れたのかぐっすり眠るソラを優しく撫でて、ケージに戻してあげた。
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