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5巻
5-1
しおりを挟む王女の夢
……さて、最初に状況と情報を整理しておこう。
まず、俺の立場について。現在、俺という人間──☆1のアストル──は、何故か『賢人』という特別な肩書を持っている。これは、学者を志す妹のために『西の国』が誇る学園都市ウェルスを訪れた際に、なし崩し的に『賢人』の地位を得てしまったからだ。
俺にとっては実にありがたいことではある。
何せ、真理探究の徒である賢人には、ある種特別な権利が与えられていて、☆1という最低の『アルカナ』を持つ俺でも、学園都市では人並以上の生活が送れるようになるという。
とはいえ、そんな賢人の肩書きをもってしても、一般的に無能と認知される☆1に対する差別や偏見が、そうそう綺麗さっぱりと消えるわけではない。アルカナの☆の数は、この世界――レムシリア──における人の価値の絶対的な尺度なのだ。
ともかく、本格的にウェルスでの生活をはじめるにあたって、名簿上の移住手続きをするために、俺達は今まで拠点にしていたエルメリア王国へと戻った。
しかし、そこで予想外のトラブルが待っていた。
そう、俺が王城にいる理由……王国からの出頭命令だ。
なんでも、現在開催されている『王会議』に提出された〝ある議題〟の参考人として呼ばれたのである。それだけではない。原因不明の奇病で瀕死の状態に陥ったナーシェリア王女の治療にまで関わる羽目になり、しかも、そのご本人様の別人格からも救援を要請されてしまった。
こんな状況では、俺が少しばかり落ち着かない気持ちになるのも仕方ないだろう。
──そんなわけで、今俺はエルメリア王城の一画にある待合室でそわそわとしていた。
いくら呼び出されたといっても、実際に☆1の俺が王の御前に上がることはまずないだろう。そうならないように、いくつか手を回してもらっている。
「ふう……」
小さなため息をついて、なんとか緊張を和らげようとする。
室内には、氷の入った水差しと磨かれたグラス、それに果物が盛られた銀の皿があるが……果たしてこれに手を伸ばしていいものか。
何せ、俺は☆1である。迂闊に身じろぎ一つしただけで罪に問われるかもしれない立場だ。そもそも、王城に足を踏み入れた☆1なんて、いまだかつて存在しないだろう。
「父上は遅いな」
よそ行きの言葉で喋るエインズワース──俺の入っているパーティのリーダー──が、視線を扉にやる。貴族出身の彼でも、さすがに王城は落ち着かないらしい。
しばらくして、小さな音とともに待合室の扉が開いた。
姿を現したのは、エインズによく似た壮年の男性。エインズの父であるジェンキンス・オズ・ラクウェイン侯爵だ。
その顔には、喜色が浮かんでいる。この様子なら、首尾は上々のようだ。
今回王国側が問題にしたのは俺に関する報告の内容について。俺の能力を高く買ってくれているエインズや、彼と同じくパーティメンバーで賢人としての顔も持つ狼人の侍、レンジュウロウが上げたものが、お偉方の目に留まってしまったらしい。大した能力を持たないと考えられている☆1の範疇を逸脱したその報告内容に、嫌疑がかかったのだ。
たとえ内容に偽りがないとしても、それを証明したことで不必要に注目が集まれば、西の国への移住に支障が出かねない。そこで、ラクウェイン侯爵に頼んで、うやむやにしてもらったのである。
「アストル君、成功だ。我ながら上手く誤魔化しておいたぞ」
待合室に入ってきたラクウェイン侯爵は、いかにも上機嫌だった。しかし、憔悴した様子の息子を見て、何かを察したようだ。
「……また、何かトラブルかね?」
「また、だ。その誤魔化した報告に伝説がもう一ページ加わるぞ」
エインズの言葉に、ラクウェイン侯爵が首をゆっくり振って俺を見る。
「それで、今度はどんな虚偽報告が私の耳に入ることになるのかな?」
「えぇと、ナーシェリア王女ご本人より、治療の要請がありました」
先ほど〝ネーシェリア〟と名乗るナーシェリア王女の別人格がこの場に訪ねてきて、彼女の〝病状〟について、自らの口から語ったのだ。
とはいえ、あまりにも重大な事案なので、この場で軽々しく説明するのは憚られる。
「詳しくは言えませんが、とにかく急がないとまずそうです」
俺の言葉を聞いたラクウェイン侯爵が、手で顔を覆って天を仰ぐ。ふと見ると、エインズも同じポーズで天を仰いでいる。さすが親子だな。仕草がそっくりだ。
「よし、その件は屋敷に戻ってから話してもらおう。至急対応を考えねばなるまい。少し急いで移動するぞ」
「ええ、こんな所はご免です。急いで帰りましょう」
そう言って立ち上がった瞬間、扉からこちらを覗き込む影があった。
……見た顔だ。昨日、離宮の門番をしていた近衛騎士である。
「やはりお前か!」
そいつは怒声を発しながら、半開きにしていた扉を勢い良く開けて入ってきた。
手には抜き身の騎士剣。真銀製だろうか、刃がギラリと光を放つ。
いくら近衛であろうとも、城内で抜剣とは穏やかな状況ではない。
「ラクウェイン侯爵、これは由々しき事態ですよ!」
「何がだ?」
「☆1をこの王城へと招き入れるなんて、王族に対する冒涜行為……まさに反逆です」
呼ばれたから来ただけだというのに、ひどい言いがかりだ。
まぁ、王都では☆1であるだけで罪だという考えが当たり前なのだろうけど、さすがにこれは理屈がおかしすぎる。
「王命によることだ。貴殿の関知するべき部分ではないと思うが?」
「戯言を! 王城守護の任を賜る私が、このような蛮行を許しはしません! 薄汚い☆1が! この聖なるエルメリアの城を穢れた足で踏み荒らしたことを懺悔せよ!」
次からは〈浮遊歩行〉で入るよ。もう来ないと思うけど。
……それよりも、この違和感はなんだ?
先だって顔を合わせたこの近衛騎士は、王都人らしく☆1の俺を疎んじてはいたが、ここまで強硬的ではなかった。しかし今は、言動に落ち着きがなく、なんだか不穏な空気を纏っている。
「落ち着きたまえ、卿。彼は正式な召喚に応じたに過ぎない。不服があるなら王に上申せよ」
「黙れ! 国賊が!」
激昂した近衛騎士は、ラクウェイン侯爵を振り払うかのように剣を振るう。
王城内で大貴族に向かって問答無用でか!?
「ぐッ!」
「親父!」
ラクウェイン侯爵の呻き声とエインズの叫びが同時に響く。
侯爵はすんでのところで身をよじって致命傷を避けはしたが、剣がかすった肩から血が溢れ出していた。
「城内で侯爵相手に剣を振るうなど……血迷ったか!?」
「黙れ、逆賊め! お前もそいつも、正義のもとに処断してくれる! ☆1に死を! あまねく世界に祝福を!」
先日、王女を診察した際に面目を潰された彼が俺達に恨みを抱いたっておかしくはないが……城内でこうもやすやすと凶行に及ぶなど、正気の沙汰とは思えない。
しかし、今考えても仕方がないことだ。
最優先でラクウェイン侯爵の身の安全を確保しなければ。
「エインズ! カバー!」
俺が言うよりも早く、エインズはラクウェイン侯爵のもとへと駆けだしていた。
あの場所だと〈転倒〉は使えない。下手をすれば、駆け付けたエインズや動こうとするラクウェイン侯爵がそれにはまる可能性もあるからだ。
どちらにせよ、一旦あの近衛騎士を侯爵から引き剥がす必要がある。
エインズがディフェンスに入るなら、俺はオフェンスとして動くべきだろう。
俺は無詠唱で〈筋力強化Ⅱ〉〈敏捷強化Ⅱ〉〈迅速Ⅰ〉を発動して近衛騎士へと接近し、体当たりを加える。
鍛えられた体躯の近衛騎士も、魔法で強化された俺の突進には虚をつかれたらしく、部屋の外へと転がった。
「……なんだ、と?」
突然の衝撃に驚いている近衛騎士に、〈麻痺Ⅱ〉と〈拘束Ⅱ〉を放つ。
近衛騎士といえば☆4以上が当たり前のハイランクな相手なので、効果があるか不安だったが、きちんと通用したようだ。
むしろ効きすぎてちょっと白目を剥いているが、暴れられるよりはいい。
すぐさま、騒ぎを聞きつけたらしい兵士が数人、こちらへと駆けてくる。
「ラクウェイン侯爵閣下……そのお怪我は!? 一体何があったのです?」
「そこの近衛騎士が侯爵閣下に斬りかかったんです。気を付けてください、何かしらの精神支配を受けている可能性がある!」
俺の言葉に、兵士達がわかりやすく顔色を変える。
それはそうだろう……王族を警護する近衛騎士が精神支配を受けている可能性など、あってはならない失態だ。
白目を剥いた近衛騎士はそのまま捕縛され、兵士達に連行されていった。
俺はそれを確認してから待合室のソファに座るラクウェイン侯爵に駆け寄る。
「侯爵閣下、無事ですか?」
「ああ、軽い傷だ。私も鈍ったものだよ」
「傷、治さないんですか? 治しましょうか?」
確か、ラクウェイン侯爵は回復魔法も使えると酒の席で自慢していたはずなのだが、何故か流れる血をそのままに傷口を押さえている。
「……すまないが、治療してくれないか」
「……? はい。お任せください」
即座に〈治癒Ⅱ〉を詠唱して、肩の傷を癒す。
裂けた服をめくって確認すると、それほど大きな怪我ではなかったようで、傷は完全に塞がっていた。その傷跡を見て、ラクウェイン侯爵は眉間に皺を寄せる。
「あー……これはどうしたものだ。エインズワース」
「どうもこうもねぇよ。バレたら大事だぞ」
確かに、近衛騎士が侯爵を襲うなんてあってはならないことだ。公になれば大事件となるだろう。
ところが、二人は何やら小声で話しながら、俺に呆れ顔を向ける。
「親父、コイツ、多分理解してない」
「それくらい、顔を見ればわかる」
「え?」
話の流れについていけずに首を傾げる俺に、エインズが盛大にため息を吐き出す。
「え、じゃねぇよ。なんでお前……魔法使えるんだ」
「魔法使いだから?」
「違う、そうじゃない!」
何が違うというのか。魔法使いが魔法を使うことのどこに不思議があるんだ。
きょとんとする俺を見て、ラクウェイン侯爵が困ったような表情を浮かべた。
「アストル君。このエルメリア城はな、レベル制限とスキル制限の結界が張られている。冒険者風に言うとだな……内部は全部『呪縛』空間だ」
「……え」
「王族と王族を守護する近衛、そして宮廷魔術師のみが、それを受けないように設定されているのだよ」
「……ええ!?」
「君、王族の血が流れていたりしないだろうな」
ラクウェイン侯爵の疑いの眼差しを受け、俺は首を横に振る。
「まさか! 俺は正真正銘、ド田舎出身の平民ですよ」
王家の血だなんて、恐れ多すぎて背筋が冷たくなる。思わず一人称が〝俺〟になってしまった。
「それとも、母親が特殊だからか……?」
〝業火の魔女〟と異名を取る冒険者の母が何者であるかは、俺だって詳しくは知らないが、王族である可能性は低いだろう。
「まぁ、君のイレギュラーは昨日今日に始まったことじゃない。今は考えないでおこう」
「親父殿、ついに考えるのをやめたな?」
「いいか、エインズワース。考えても仕方がない問題を考察するのは時間の無駄だ」
なんだかひどい言われようだが、この城と俺に関して考えている場合ではないのは確かではある。
「……失礼します! こちらに怪我人がいると聞いてまいりました」
ベルベットを思わせる滑らかな生地のローブを着こなした年若い青年が、扉の前に立っていた。
「わざわざすまないな。だが、傷ならもう治してしまったよ」
「ラクウェイン侯爵でしたか。これは失礼を……」
「よい。それよりも、近衛騎士隊長に連絡を。事の次第を説明しなくては帰るに帰れんからな……。城に慣れぬ愚息と客人がいるので、手早く頼む」
「ハッ! 失礼いたします」
走り去っていく青年を見送って、ラクウェイン侯爵がちらりと俺を見る。
「さて、作戦会議だ。アレをどう鎮圧したか説明せねばならん」
「エインズワース様が撃退したという体ではいけないのですか?」
「エインズワースは城の制限の影響を受けている。さすがに近衛騎士に競り勝ったことにするのは難しいだろう」
それほどまでにこの城の制限とやらは強いのかと、俺は驚いた。何しろ、俺は全くの普段通りでなんの影響も受けていないのだ。
……と、ここまで考えてラクウェイン侯爵の懸念を察した。
エインズですらまともに動けない結界の中で、俺は許可もなく魔法という〝武器〟を駆使し、王を守る近衛騎士と戦ってみせた。
つまり、もし俺が暗殺者やテロリストだったら……『王会議』中の王をはじめとするトップメンバーを強力な範囲魔法で攻撃することだって可能だったという話になる。それこそ、近衛騎士を制圧できる力をもって。
「私は怪我をしているし、叩きのめしたというにはいささか説得力が足りない」
「侯爵閣下。城内では魔法道具も制限されるのでしょうか? たとえば、護符や身代わり人形のような防御系の物も」
「いや、受動発動系の物は制限されないはずだ。ただ、通例として持ち込まないことがマナーとなっているがね」
そりゃ、ここで何者かに襲われると想定してそういった魔法道具を身につけていたら、王城の安全を疑っていると取られても仕方がない。警備の任に当たる者に対して失礼だろう。
だが、俺は今回外様のゲストとして来ているのだから、通例のマナーを知らなかったことにすればいいだろう。実際、本当に知らなかったんだし。
「ここに……護符があります。〈反応装甲〉の魔法が詰まったものですが、これで弾き返したことにしたらどうでしょうか? 私は若輩者で世間知らずな☆1の田舎冒険者です。上流の通例を知らないと言っても、まかり通るでしょう?」
☆1の身だ。どんな理不尽な理由で命を狙われるかわかったものではないと、念のために仕込んでおいたものだが、こんなことなら本当にこれをラクウェイン侯爵に渡しておけばよかった。
侯爵は〝ふむ〟と顎に手を当てて、俺の提案について考える。
「よし、それでいこう。賢人殿は悪知恵も働くようだ」
「賢人といえば、レンジュウロウはどうしたんだよ? あいつがいればこんな面倒なことにならなかっただろうに」
「レンジュウロウはまだ会議室で他のシンパの根回しに回っておるよ。私は先にお前達を屋敷へと戻すために戻ってきたんだが……とんだ邪魔が入ってしまったな」
姿が見えないと思ったら、どうやら俺の噂のもみ消しに回ってくれているようだ。
その苦労を考えると、ここで魔法を使ったことなど絶対に知られてはいけない。
俺は☆1相応に非力で無力であると、徹底的にアピールしなくては。
あれこれ考えていると、大きな足音が近づいてくるのが扉越しにわかった。よもやないとは思うが、再襲撃の可能性も考慮して、防御魔法を無詠唱で配っておく。
付与の力を感じたのか、ラクウェイン侯爵が俺を少し驚いた顔で振り返った。
俺の無詠唱など今更だと思ったのだが、そうでもなかったようだ。
ノックの後、野太い声が聞こえた。
「失礼いたします。ラクウェイン侯爵はご在室か?」
「在る。入室されよ」
カチャリと扉が開き、熊のように大きな体の男が扉すれすれで入ってくる。
服の上からでも盛り上がった筋肉の凹凸が窺える大男で、一目で剛の者とわかる雰囲気を醸し出している。
「モノジゴ卿。わざわざご足労いただいてすまんな」
「何をおっしゃられます……昨日に引き続き、近衛の失態……なんとお詫びすればよいか。此度の一件、許されざることであります。件の者は明日にでも裁判にかけられ、処分が決定されます。だから許されよ……と言うつもりはありませぬが、何卒今はご容赦いただきたく」
モノジゴと呼ばれた大男は土下座せんばかりの勢いで膝を折り、頭を下げる。
「近衛騎士団長ともあろう男が、そう頭を低くすることはない。直られよ」
王城を守護する近衛騎士が高位貴族に剣を向けたのだ、例の騎士は明日の朝にでも処刑されるだろう。そればかりか、このような失態を引き起こしたとなれば、上役の首も一緒に並べられかねない。
「しかし、普段よりお世話になっておる侯爵閣下によもや剣を振るうなど……許されざる所業! あの者の首はもとより、事の次第がわかりますればこの首も差し出します故……」
平伏する彼の額が、いよいよ床につきそうだ。
「おいおい、モノジゴ卿。滅多なことを言うものでない! お主なくして誰が王を守れる? 此度の件も、昨日私が彼に強く当たりすぎた故かもしれんのだ。誰もお主の首など欲さぬ。この通り、大事なかったのだ」
やり取りを見るに、どうやら近衛騎士団長は誠実な人物のようだ。
「侯爵閣下、発言を許していただけますでしょうか?」
ラクウェイン侯爵が俺に頷く。
「是い」
「私が見るに、例の騎士は尋常な様子ではありませんでした。おそらく精神操作を受けています。彼を処断する前に彼の治療と原因の究明を推奨いたします」
「ふむ……」
あのスラスラと出る、実に狂言じみた言葉。☆1廃滅を掲げる過激思想集団『カーツ』の言い草にそっくりだ。確認はしなかったが、『カーツ』の刺客として俺を襲った少女――フェリシア同様、めくれば腕に呪いの印である蛇の刺青が巻き付いているのは間違いない。
……で、あれば。例によって、呪いを引き剥がして術者に送り返してやれば、今回の件はもっとスマートに解決するはずだ。
結局、フェリシアに呪いを放ったヤツはわからなかったが、王都は呪いが蔓延しているようだし、呪い返しで誰かしら呪われても問題なかろう。
「可能か?」
「一度は経験があります。いずれにせよ、本人の意思ではないところで罪を犯し、それによって裁かれるなど、あってはならないことです」
俺の言葉にラクウェイン侯爵は頷き、近衛騎士団長は涙を流して頭を下げた。
『カーツ』め……どこまでも俺をバカにしてくれるらしい。報いは絶対に受けさせてやる。
◆
近衛騎士団長モノジゴに案内され、俺達は侯爵とともに王宮外殻部にある地下牢へと向かった。
成り行き次第では俺が投獄される可能性があるので、きちんと道順を覚えておかなくてはな。
顔パスで詰め所を通り抜けて牢獄のエリアへと進む。
さすが王宮の牢獄だけあって、想像していた鉄格子の薄汚い牢獄ではなく、まるで宿の部屋のようにきちんとプライバシーが保たれている。
俺がバーグナー領都で泊まっていた、隙間だらけの納屋よりもずっと好待遇だ。
その一画に、例の近衛騎士が留置されている。
近衛騎士団長の手前、エインズと馴れ馴れしい口を利くわけにはいかない。
「私を見て興奮する可能性がありますので、まずお三方で部屋へ。エインズワース様、例の蛇模様を見つけたら呼んでください」
「承った」
よそよそしいやり取りを経て、俺は死角へと身を滑り込ませる。
それを確認したエインズが、先頭に立って扉をゆっくりと開いた。
「近衛騎士団所属デフィム・マーキンヤー。此度の件について申し開きがあれば聞くと、侯爵様が仰せだ」
エインズの声に応えて、聞くに堪えない憎悪に満ちた返答が聞こえてくる。
完全に心を病んでいるとしか考えられない。
家名を持つ以上、彼も貴族であり、しかも近衛騎士団に入れるほどに有能な人間のはずだ。いくら心に不満を抱えていようと、ああも人目を憚らず罵詈雑言を高位貴族に吐きかけるなど、完全に正気を失っている。
……捕縛されたことで開き直ってしまっているのかもしれないが。
「落ち着け、デフィム。何がお前をそうまで狂わせる」
「狂っているのは侯爵の方です! ☆1などという神敵を神聖なるエルメリア王城に招き入れるなど……到底許されることではありません!」
デフィムが放った一言を聞き咎め、近衛騎士団長がラクウェイン侯爵に視線を向ける。
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