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5巻
5-3
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「それでは、治療を開始します」
ナーシェリア王女が療養する離宮の寝室に、簡易ベッドが三つ運び込まれており、俺はそのうちの一つの前に立っていた。
俺の左右のベッドにはそれぞれ、ユユとミントがすでに横になっていて、魔法薬によって夢を見てもらっている。
「学園都市ウェルスで開発された〈夢渡り〉の魔法で王女殿下の夢――精神世界へと介入し、深層意識下にて身動きが取れなくなっているであろう主人格をサルベージします」
俺は治療方法と目的を格式に則って宣言する。
事前に説明をしてあるので、これについて言及する者はこの場にいない。
また、表層に出てきていたネーシェリアにより、再度公式に俺に依頼をする形が取られ、さらに魔法契約書に〝この治療についての全てを任せる〟とサインをしてもらった。
これで、最低限の安全マージンを取ったとみていいだろう。
第二王子――『カーツ』の手の者の襲撃に備えて、エインズとレンジュウロウがこの離宮を警護し、さらにチヨが周辺警戒にあたっている。
正面の門を守るのは、事情を知るデフィム・マーキンヤーだ。
「では、始めてくれたまえ」
「はい……あとを、お願いします」
ラクウェイン侯爵に促され、俺は儀式触媒の確認を行なう。
立会人はラクウェイン侯爵、マーレン婦長、そして何故か宮廷魔術長のレプトン伯爵が同席していた。
髭を生やした宮廷魔術師長が頷いて応える。
「こちらで魔法式の補助を行なう。君は魔法式の安定と、自身の精神的存在証明を失わないように気をつけたまえ」
今回の治療は大掛かりで強力な魔法となるが、俺が潜ってしまうと魔法の維持が不安定になるかもしれない。それ故、宮廷魔術師長の助けは願ってもない増援である。
事前の説明の際に、彼にはかなり深い質問が投げかけられたが、俺はなんとかその全てに答えることができた。
彼はほんの少しの説明で今回の魔法式について理解を示し、何より今回の治療に当たって安全策や善後策の提案をしてくれた。
さすが宮廷魔術師を束ねる立場にある人間だ――と、短時間のやり取りの間に尊敬するに至るほどの手練れ。学園都市でだってなかなかお目にかかれないほどの賢者で魔法使いだ。
そんな人物の補助があれば、こちらも心底安心する。
実はこっそり頼み事もしていて、もし俺がダメだった場合に、ユユとミントを深層意識からサルベージすると約束してもらった。
……準備は万全だ。
「Entajpu vian sonĝon. Bonvolu montri al mi ke sceno kiel vidita iun tagon(あなたの夢にお邪魔します。いつか見たあの光景を見せてください)」
魔法式の完成とともに、意識がゆっくりと闇に落ち込んでいくのがわかる。
前回フェリシアに使った時は断片的な追憶体験となったが、今回はあらかじめネーシェリアに頼んで受け入れの準備をしてもらっている。
そのまま深層意識下へと潜っていけるはずだ。
◆
「──……」
二回、三回と自分の呼吸がやけにはっきりと自覚できた後、急に靴底に床を踏む感触があった。
どうやら、魔法はきちんと成功したらしい。辺りは建物内部のような場所……材質や装飾品は離宮のそれに似ているが、とんでもなく広く、薄暗い。
そして迷宮特有の妙な圧迫感がある。現実離れしているが、こういう部分は現実に忠実だ。
「……来たわね。待ってたわよ」
闇の中から急に現れて、こちらを覗き込むように笑うのは、ナーシェリア王女と同じ顔を持つ、ネーシェリアだ。
あまり顔を近づけないでほしい。それだけで不敬罪になりそうだ。
「本当に来てくれるなんて」
彼女は驚きを滲ませながらも微笑む。
「ご依頼いただきましたので」
「あ、私に敬語その他は不要よ。私は王女じゃないんだから」
別人格とはいえ、王女は王女なのでは?
「あの子の姉という役割の他に、私は自由を司る別人格でもあるの。これでも、心は冒険者なのよ?」
そういえば、王城ではプロ顔負けの謎のスニーキング能力を披露して、俺達のもとに現れたんだった。
「了解です、王女殿下」
「堅い、堅いわ……! もっとフランクに──そうね、ネーシェと呼んでほしいわ」
それはフランクすぎやしないだろうか。
とはいえ、王女本人からの要望であるからそうするしかない。
ダンジョン攻略中に気を遣うのも、ミスを誘発するかもしれないし。
「それで、かわい子ちゃんは?」
「すぐに」
意識を集中して、繋がりを手繰り寄せる。
俺の声なき呼び声に反応して、姉妹がここへと来てくれるはずだ。
……しばしののち、うすぼんやりと、そして徐々にはっきりと三つの影が実像を結んだ。
「あれ? 三つ?」
イレギュラーな事態に、動揺を隠せず、思わず声を上げた。
「来たわよ! アストル」
いつもの完全鎧に、ダンジョン内で俺が急造した剣『白雪の君』を担いだミントが手を振る。
「がんばろう、ね」
ふわりと笑う、恋人。
そして何故か、見慣れぬ冒険装束のフェリシアがいた。
「あれ、アストル……夢にまでお姉ちゃんを追いかけてきたの?」
辺りを見回すフェリシアをしげしげと眺めながら、ネーシェリアが首を捻る。
「こっちのかわい子ちゃんは初めての顔ね? 誰かしら?」
「俺の姉です。でも、呼んでないはず……なんですけど」
「夢のアストルはひどいこと言うなぁ。さてはボクの弓の腕を知らないな?」
……弓?
ちょっと待て! そもそも、冒険者ですらないだろう!
なんだ、その妙に着こなされた冒険装束は!?
「これで五人パーティね!」
俺の危惧など露知らず、何故かうきうきした様子のネーシェリアと、そこに輪をかけて嬉しそうなフェリシア。
「まいったな……夢の中にいたフェリシアを繋がりで引っ張ってしまったらしい」
「フェリシアさん、暇に任せて昼寝……してたからね」
ユユが少し困った顔で笑う。
これは失敗だな……。まさか、距離があってもお構いなしに反応するとは思わなかった。
「アストル、それより……あれ」
ミントが油断なく『白雪の君』を抜きながら、俺に警告をした。
薄暗い通路の奥から、ガシャガシャと足音を立てながら向かってくるのは、エルメリアの騎士と同じ姿をした影だ。
「くそ、やっぱり魔物がいるのか!」
「ナーシェリアの拒否感が実体化したヤツよ! 拒否人って呼んでる」
俺はクレアトリの杖を構えて、手早くミントに付与魔法をかける。
ネーシェリアに戦闘能力があるのかも不明だし、あったとしても前衛ではなさそうだ。
専門の盾役であるエインズがいないというのはいささか厳しいが、ミントも『粘菌封鎖街道』である程度動き方を覚えているはずなので、矢面に立ってもらうしかない。
そんなことを考えていた矢先――
「……あれは悪いヤツなんだね? ボクに任せて! 〝サイドワインダー〟!」
フェリシアの放った矢が、騎士姿の魔物を貫き……吹き飛ばした。
がらんどうの兜が通路に甲高い音を立てて転がり、それも闇に溶けるように消える。
「ヘヘン、どんなもんだい!」
得意満面のフェリシアに、俺は唖然とするほかなかった。
◆
「……つまり、ボクは王女様の夢にいるってことかい?」
「そう。何度も説明しているだろう」
フェリシアは最初、これは自分の夢だといって譲らなかったが、根気強い説明が功を奏し、ようやく状況を理解してくれたようだ。
「えーっと、それでどうしてボクがここにいるんだい?」
フェリシアは繋がりのことを知らないし、こちらもあえて伝えなかった。
記憶の混乱や、万が一にも記憶が戻るきっかけにしたくなかったためだ。
「も、もしかしたら姉弟の絆的な何かかもしれないな!」
しどろもどろに言い繕う俺に、フェリシアが疑いの目を向ける。
「何か隠してない?」
「まさか。原因は不明だとも。そういう事例もあるにはある」
嘘である。双子間での精神同調や存在同位があるという事例はごく稀に見られるらしいが、兄弟姉妹で自然に繋がりができるなんてことはない。
「まぁいいや。どっちにしても夢なんだろう? ボクの夢じゃないってだけで。じゃあ、きっと説明されても起きたら忘れちゃうだろうし……それに、夢の中なら一緒に戦える」
「ついてくるつもりなのか?」
「当然だよ! お姉ちゃんは弟を守るものだよ?」
フェリシアはニカっと笑って、胸を張る。
「危険かもしれないぞ?」
「現実世界でだって危険と隣合わせじゃないか、アストルは。夢の中でくらい、お姉ちゃんらしくさせてもらうよ」
「いいんじゃない? いざとなったら私が夢から強制退去させるわよ」
返答に迷う俺の背中をネーシェリアが叩いた。
「わかった。無理はするなよ?」
「任せといてよ!」
なんとも不安な返答だが、これ以上の問答は無駄だろう。
フェリシアが弟に対して無意識に保護意識を持つのは元の記憶の名残かもしれない。それに、戦力的に人手が増えるのは良いことだ。
「よし、ユユ。付与魔法をかけていこう。先行警戒は……遺憾ながら俺がするよ」
『粘菌封鎖街道』に続いて再びの強行軍を行なうしかない。
「先行警戒? 私がするわよ?」
渋々前に出る俺を、ネーシェリアが呼び止めた。
「え」
「あなただって見たでしょ? 私は斥候向きなのよ。……主に、隠れて城を抜け出したり、見つからずにうろついたりするために鍛えたんだけどね」
ネーシェリアは〝フフフ〟と可憐に笑うが、動機がまるっきり不純だ。
「それに、途中までは一人で進んだって言ったでしょ? 案内できるわ」
「じゃあ、ネーシェリア様に任せますよ。殿は……」
「ボクがやるよ! 夢の中のボクはなかなか鋭いしね!」
普段どんな夢を見ているんだろう、フェリシアは。
まぁ、やれるというならやってもらおう。
俺だって感知系の魔法は常時発動しておくし、そう過保護に心配することもあるまい。
「じゃあミント、前衛は頼んだぞ……って、何してるんだ」
どういうわけか、ミントは一心不乱に指を振ったり、謎の気合を入れたりしている。
「夢の中ならアタシも魔法使えないかと思って」
なかなか面白い姿だが、ずっと眺めているわけにもいかない。ただ、夢の中なら可能かもしれないという着目点は、実に良い。
フェリシアがああなのだから、ミントだってその可能性はある。
「追々教えるから、今は進もう」
「そうね! 夢の中のダンジョンなんて初めてだし、気を引き締めていきましょ」
そう、まさに初だ。そもそも人の心にダンジョンを作ってしまうなんて、どんな方法を使ったのか気になるところだが、それはあとでネーシェリアにでも聞けばいい。
とにかく今は、目の前の暗い通路を奥へ進んでいくしかないのだ。
「私が行けたところまで案内するわね。門番はさすがに一人じゃ突破できなかったのよ……」
「門番までいるのか。……ずいぶん本格的なダンジョンなんだな」
「あの子、冒険者に憧れてたから。格好良い女盗賊とか、ツボだったみたいよ?」
「ああ、それで……」
ナーシェリア王女から生まれたとは思えないこの気さくな別人格は、彼女のロールプレイを反映した、理想の女性冒険者像なのかもしれないな。
そうなれば、ネーシェリアの斥候能力にも期待が持てそうだ。
「じゃあ、道案内を頼む」
「いいわね、砕けてきたわ」
思わず、口を押さえる。
どうも冒険者として気を引き締めると、マナーがおざなりになってしまうようだ。
しかし、ネーシェリアはお構いなしで、気さくに笑う。
「気にしないでよ、アストル。えーっと、ユユ、ミント、フェリシア! お願いね!」
「ん。よろしく」
「任せて!」
「がんばろー!」
女性陣の方は、そもそも王女殿下にそれほど気を遣うつもりはなさそうだ。
ネーシェリアの話によると、この辺りにいる拒否存在はまばらで数も多くなく、簡単にやり過ごしたり、倒せたりするらしい。
彼女達は早速打ち解けた様子で、話しながら通路を歩いていく。
「ネーシェ、ナーシェリア王女の話、聞かせて」
「ユユはナーシェが気になるの?」
「昔、一度だけ……話したことがある。孤児院への慰問で、ユユが案内した」
「知ってるわ! そういえば、あなた達のステキなストロベリーブロンド、見覚えがあるわね」
ネーシェリアは本当の姉が妹を語るかのようにナーシェリア王女のことを話す。
曰く、ナーシェリア王女は王族にしては気安く、優しく、そして献身的。
ユユ達みたいな姉妹が保護されていた孤児院などへの慰問もよく行なっていたらしい。
「ん。あの日……王女様の計らいで、お菓子が出た。ユユ達にとっては、忘れられない味」
「アタシも覚えてる! あの日はとても楽しかったわ。今度はアタシ達が王女様に会いに行きましょう」
ユユもミントもやる気充分だ。二人が快く治療に参加してくれたのは、こういった背景があってのことかもしれない。
「そろそろ階段があるわ。階段前には見張りが……やっぱりいるわね」
ネーシェリアは暗闇に滲む通路の先を、王女らしからぬ目で睨みつける。
視覚強化した俺でもギリギリ見えるかどうかという距離だ。自己申告の通り、彼女は優秀な斥候のようだ。
「仲間を呼んだりは……?」
「しないわ」
「じゃあ接近して片付けよう。魔法と弓で牽制、スイッチでミント。いけるな?」
三人が頷く傍ら、ネーシェリアが小首を傾げる。
「私は?」
「えーと、怪我しないように見ていてください」
彼女はその美しい眉根に皺を寄せて、小さく俺に抗議した。
◆
連携通りに動けば、見張りの騎士姿の魔物など、どうということはなかった。
むしろ、フェリシアの弓の一撃でほとんど機能停止していたくらいだ。
実戦を目の当たりにしたネーシェリアが、感嘆の声を漏らす。
「やっぱり本職冒険者は違うわね」
「フェリシアは例外だけどな。ところで、この迷宮……何階層まであるんだろう?」
タイプ的にはオーソドックスな、深度と広さを増していくダンジョンに思える。しかし、何しろ素地となっているのが精神世界だ……どんなイレギュラーがあるかわかったものじゃない。
それこそ、夢の中なのだからどんな不条理やあり得ない出来事が起こるのか、全く予測不能だ。
「私が潜れたのは第三階層まで。でもって、階段前に門番がいる。倒さないと進めないタイプ」
「門番はどんな相手なんだ?」
「〝私〟よ」
ネーシェリアの返答に、一瞬虚をつかれる。
だが、考えてみれば、あり得ない話ではない。
ネーシェリアのように、現実世界でナーシェリア王女を救おうとする人格もいれば、この夢の世界での緩やかな終末を是とする別人格がいてもおかしくはないのだ。
「メーシェリアは純戦闘タイプの別人格よ。そうね、拒否人の親玉とでも言うべきかしら……。他人を拒絶するために鎧でその身を固めて、遠ざけるために剣を振るう人格ね」
かなり攻撃的だな。話し合いが通じる可能性は低いか。
「ねぇ、その別人格ってどのくらいいるわけ?」
ミントに質問され、ネーシェリアが指を折って数える。
「表層化していないのを含めたら、私を入れて九人かしら。話をしたことがあるのはそのうちの三人だけね」
思いの外、精神体が分化していたようだ。
そんな状態で精神世界を迷宮化させたら、そりゃあ無理も出るだろう。
「その三人は助けてくれないの?」
「そのうちの一人がメーシェリアなのよ。残りの一人はもうナーシェに封印されて、あとの一人は一緒になって悪さをしてる」
「悪さ?」
「そ。それが抑圧された淫欲の別人格、マーシェリアなの……。ナーシェとは仲がいいけど、その分影響されやすい」
例のよくない文化に触れさせて、〝男だけの清浄な世界〟への憧れを植え付けた元凶か……!
いや、淫欲の別人格が活性化したが故に、あれらに触れたか。
「他の人格はここにはいないのか?」
「いるかもしれないし、いないかもしれない。彼女達はナーシェであってナーシェでなく、同時に私でもあるのよ」
頭がこんがらがりそうだ。
「とにかく、ナーシェを守ってやらないと。それが私の……姉としてのプライドよ」
責任感の強い別人格もいたもんだな。
そんなやり取りの最中、ユユが警告を発した。
「アストル、感知した。拒否人が、来る」
「了解」
『星』のアルカナを持つ彼女は、感知系の魔法に長ける。技術的には俺よりもずっと繊細に、感知網を広げることができるのだ。
「……見えた。数は五。メーシェリアが私達に気が付いたのかも」
「そうか、自分の領域だものな……! 派手にやればそりゃ気が付くか」
ネーシェリアの発言に納得したところでどうというわけではないが、このまま物量戦に持ち込まれるのは好ましくない展開だ。
先を急いで、その門番をしている別人格のところまで行くのがベターな選択だろう。
「ユユ、魔法で突破するぞ」
「ん! 広範囲魔法で、牽制……だね」
ユユとの間に構築した繋がりから、彼女が構築する魔法式の情報が流れ込んでくる。
それを俺が少し肩代わりして構築を高速化して送り返す。
「Boranta, penetri,
kudrante, malpeza!(穿ち、貫き、縫い留めよ、光!)――〈光刺雨〉」
簡略化された詠唱によって高速で構築された魔法式が発動し、降り注ぐ光の雨が拒否人達を床に縫い留める。
そして、俺はそれをユニークスキルの【反響魔法】ですぐさま再発動する。
「ミントッ!」
「任せて!」
合図を受けたミントが『白雪の君』を振りかざして、解放攻撃を放つ。
身動きの取れない拒否存在達を氷の暴風が呑み込み、蹂躙した。
「驚いた……。そんな強力な魔法の武器を持っているなんて。さすが本職冒険者は装備も一流ね」
ネーシェリアはミントの剣に興味を持ったらしい。
「コレ? アストルが造ったのよ。ダンジョンでちょちょいって」
「ちょちょ……い……?」
刃の再形成を開始した『白雪の君』を担いで、ミントが誇らしげに笑う。
ミント……それは守秘義務違反だぞ。
「ちょっと待って。その武器、もしかして再生機能があるの?」
「ええ、便利でしょ?」
「ねえ、〝魔導師〟? 国宝クラスよ、あれ。ちょちょいってレベルじゃないわ」
ネーシェリアは王女らしからぬジト目を俺に向ける。
王族なのに宝物には疎いようだな。国宝っていうのは、もっとこう……キラキラしてて強力な魔法の道具を指すんだ。とてもじゃないが、スライムとゴーレムでとりあえず形にした『白雪の君』をそうは呼べない。
「現地調達の材料で適当に練った、剣の形をした棒きれだぞ? ミントは気に入って使ってるみたいだけど、国が欲しがるようなもんじゃないだろ」
「アタシの『白雪の君』にひどい! ……国にだってあげないわよ? これはアストルがアタシにくれた物なんだから」
俺の発言に抗議しながらも、ミントは再生の終わった『白雪の君』に上機嫌に頬ずりする。
まぁ、気に入ってくれたなら製作者冥利に尽きるが。
「……報告書を読んだお父様が、妙に気にしていたのが何故かわかったわ。ほんと、バーグナー伯爵は無能よね」
ネーシェリアがしみじみとした様子でため息を吐いた。
「バーグナー伯爵を知っているのか?」
バーグナー伯爵は俺を冒険者学校から追い出した張本人だ。自分が推す第三王子を盛り立てるために、迷宮攻略に躍起になっているが……
「ナーシェは何度かバーグナー伯爵領都にも行ってるわよ? おべんちゃらが上手いだけで無能ってイメージしかないけど」
早々に見限られてるじゃないか、伯爵。
「娘をお兄さまに……なんて堂々としつこく言うもんだから辟易したわ。兄のリッチモンドはまんざらでもなかったみたいだけど。好色の塊みたいな兄に、あの令嬢はもったいないわ」
「へぇ……」
伯爵の娘――ミレニアは俺の冒険者学校時代の友人だ。確かに、あの伯爵の娘と思えないくらいに聡明で、人望もある。
「さあ、お喋りはここまで。階段が見えてきたわ」
三階層に下りる階段の前には、例によって騎士姿の拒否人が立っている。
いや、立っていた……先ほどまでは。
話に飽きたらしいフェリシアが、うっぷん晴らしのように剛弓から矢を放ったため、哀れな拒否人はすぐにその存在意義を失うこととなったのだ。
「よし、次は門番のいる階層だ。気を引き締めていこう」
俺の言葉に、全員が頷いた。
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