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12 あなたからの贈り物

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「今週末は庭でバザーがあるんですよ」
「へえ、バザーですか」

わたしは殿下の言葉をそのまま繰り返していた。
彼は肩を落として訊いてくる。

「おや。興味がなかったのでしょうか」
「そんなことはないんですけど」

故郷でもバザーはたまにあったけど
王都のも同じようなものと考えていいのだろうか。

「今、シュトルハイム辺境伯を通して鉱脈の採掘を進めているのです。
鉱山自体は彼の所有しているものですが、
古い時代に開通された隧道が
現代でいう帝国領に繋がっていて……まあ、難航しているのです」

話を一度打ち切るように咳払いしてから彼は言い直す。

「失礼。
今度のバザーはシュトルハイム辺境伯との親睦のために、
彼の領地で作られているものを王都でも売りに来てもらおうという話なのです」
「えっと……辺境伯って偉い人ってことですか」
「偉くてすごい人です。
……といってもバザーそのものはお堅いものでもありませんよ。
一般の客もたくさん来ますし、
盛り上がりに乗じて王都や他所からの商人も来る予定です。
パウリナさんもいかがでしょうか?」

わたしが乗りかけた瞬間、殿下がフンと胸を張る。

「もちろん私と一緒ですけれどもね」
「殿下とっ!?」
「……」
「あ、アルフさんとですか?」

……そうだった。
出掛ける時は殿下か護衛を付けろって言われていたんだった。

「でもいいんですか? アルフさんにとってはお仕事のための催しなんですよね」
「ええ。ですから申し訳ありませんが、午前の間は抜けられないのですが……。
午後から一緒に回りたいと思いまして」
「アルフさんのご迷惑でなければ……」
「ふふ。では決定ですね」

約束を取り付けると殿下はわたしのもとから去るよう背中を見せる。
けれども歩き始める寸前になって振り返ってきた。

「……週末、楽しみに待っていますね」

何事もなく週末を迎えることができた。
わたしはそわそわしながら仕事をこなしていた。

「ふふん。あんた知ってる? 今日は中庭の方でバザーがあるのよ」

エーコさんに声を掛けられる。

「はい。えーっと……えっと、偉い人と仲良くなるためのイベントですよね!」
「あんたの出身ところではそういう催しなの……?
まあいいけど、行くならそれは隠していきなさいよ」

ツン、と額をつつかれる。
今だって化粧はしているけれども、
外に、まして人の往来が激しい場所に行くなら印は絶対に隠さないとだ。

エーコさんとしばらく雑談したあとわたしは残っていた作業を終わらせて、
中庭に続く通路へと向かった。

(わあ……!)

アーケードから見える景色は既に多くの人で賑わっていた。
敷物の上に商品を広げている商人、それを見る人たち、
少し奥の方で簡易的な屋台が並んでいるのも見える。

「お待たせしました」

わくわくしながら眺めていると聞き慣れた声が振ってくる。

「いえ、全然待って……、っ」

お仕事の後に合流するって言っていたし、
偉い人たちに会って来たばかりなのだろうか。

殿下はクランリッツェの伝統的な正装に身を包んでいる。

クランリッツェでは高位の幼い子は身体のラインを見せないような衣装を着るんだ。
殿下もまだ男の子だから。
刺繍の施されたコートは裾になるほどふわふわと膨れていて首元は大き目の立ち襟になっている。
中にはたっぷりフリルのついたブラウスを着ているのが見える。

故郷の教会で見た聖歌隊の子たちみたいだった。

背丈はちょこん、としているのにお洋服はもこもこに膨れていて
かわいいなって思う。
でもお仕事を終えてきたばかりだからか、お顔はキリッと凛々しい。

殿下はかわいい。
小っちゃくてお上品で生きたお人形さんみたい。
たまに無邪気なところがあって、それも弟みたいでかわいい。

でも今日はなんだか……

(わ、わたしいま……殿下のこと……かっこいいって思って……?)

「……パウリナさん? どうされましたか?」
「あ、あれ……っ? ごめんなさいっ……ぼーっとしちゃって」

なんでなんで。わたしなんで殿下から目が離せないんだろう。
寒くもないのにぽっと頬が熱い。

「そうですか……? あの、体調が優れないなどでしたらすぐに申しつけてくださいね」
「いえ、全然そんなことはないんですっ!! いきましょう! バザー!」
「え、ええ……?」

戸惑いながらも殿下は手を差し出してくれる。
わたしは彼の手を取って中庭に向かった。
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