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それってメイドである意味ありますか?

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「はじめまして」

闇オークション終了後、手錠付きで引き渡された男は意外にもそこら辺にいそうな普通の青年だった。

「……どーも」

だが油断してはいけない。人間の相場にしては低価格なあの会場、あそこにいたということはロクな人間ではない。一代で成り上がった金持ちとか、そこら辺だろう。殺されるか臓器を売られるか、どちらかを覚悟していた時、男は拍子抜けする発言をぶち込んできた。

「突然だが、お前には我が家のメイドになってもらう」

「は?」

メイド? 執事じゃなくて? 疑問符を浮かべる俺に、男は疲れた顔で答えた。

「事情は車の中で話させてほしい」

運転手が待つリムジンの中でシャンパンの入ったグラスを渡される。やがて車が発進し、男は重い口を開いた。

「オレには腹違いの弟がいるんだがそれが少々厄介なんだ」

「厄介というと?」

「どうも、男が好きなようなんだ。それにいい歳をしてひきこもりでもある」

「お、おう」

いきなりの変化球に動揺してシャンパンをこぼしかけてしまった。

「婚約者が居るというのに嫌な話だ……。そこで君には生涯をかけて愚弟の矯正をしてほしい」

「矯正?」

「ひきこもりを矯正して、婚約者殿と会う様に説得してほしい」

「そんなの、女の子の方が適任だと思うんすけど。それに身寄りのないチンピラの俺より普通に人雇った方がいいと思いますよ?」

ひきこもりを荒療治で治してほしいなんてエロゲーでありそうな話だ。それをどうして自分を買ってまで? その疑問は案外彼は真剣な目で答えてくれた。

「我が櫻木家にゲイのひきこもりがいるなんて誰にも知られてはいけない。その為、従業員はそこの最古参の運転手兼執事以外、全てあそこで購入して館に軟禁している。あそこで買った人間には人権がないからいつでも処分できるしな。君を選んだのは――、弟のエロ画像履歴から推測した好みドンピシャだったからだ。これで弟も心を開いてくれるに違いない」

弟! 履歴は消しておけ! 

だが、案外シビアだった理由に逆に安心する。人は理解できないものごとには恐怖を抱く生き物だ。これほど理論がわかる説明をされると恐怖も不安も消え去ってしまう。

「ん? でも好みドストライクなら俺をご子息が好きになった場合はどうするんです?」

「はは、その時はその時だ。わかるだろ? ま、何はともかく今日からお前はウチのメイドだ。時嗣の事をよろしく。期待を裏切るなよ?」

「ひえ……」

いきなりの恐怖発言に身をかがめてしまう。高速を走るリムジンはその瞬間、一瞬で地獄になった。どうやら、自分の再就職先は使用人(メイド服貸出あり)らしい。執事じゃダメなんですか?

と、言うわけで。今日からメイド、始めます。
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