【R-18】今日からメイド♂始めます!【BL完結済】

あいう

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届いたよ

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 雨が降っている。

「……どうだ? 人生の夏休み、少しは楽しめたか?」

「本当に感謝してもしきれないです」

 いつかのメイド喫茶の中、幸太郎と館の旦那様である櫻木帝は向かい合っていた。これから自分は数年前と同じ場所に売られに行く。即殺されないのは帝の温情だろうか。まあ、価値の無い三十路の男なんて使い道は大体想像できる。末路は同じだ。

「死ぬ覚悟はあの子と『逃げよう』って約束したときからできてたんです」

「アイツは幸せもんだな」

「ひとつ心配なのはご主人様が、俺がいなくても人生を普通に過ごせるか。それだけ」

「それは大丈夫。安心して死ね」

「あはは、ひっでー」

 今回の「夏休み」は帝や、他の使用人と協力して作った時間だった。まず、覚悟を決めた時に旦那様である帝へ相談。元々、幸太郎の目的は「婚約者と時嗣を結ばせること」で、その時嗣が自分に好意を持ったことは親代わりの帝としては本意ではなかった。だが、結果的に時嗣が一之宮と結婚するなら、少しは夢を見せてもいいだろうと判断したのだ。使用人の皆は時嗣と暮らす「夏休み」に不便が無いように色々な事を教えてくれた。

「俺は正しいことが出来ましたかねえ」

 約束を叶える為にいろんなことをした。少しの間だけでもいい、夢を見せてあげたかった。しかし希望を与えてまた取り上げるのは、彼にとって幸せな事だっただろうか。自分は、逆に惨いことをしてしまったのではないだろうか。その想いが消えない。

「大丈夫だ、夢は叶えるものじゃない。見るものだ。少しの間だけでも夢が見れたならそれは幸せだろう」

「そうですか」

(――だったら、よかった)

「じゃあ、コイツをよろしく頼む」

「かしこまりました、櫻木様」

 いつか見たメイドカフェ。その店長と数年ぶりに再会したが相手は覚えていないようだった。

「じゃあな、桃井」

「はい、いままでありがとうございました」

 幸太郎は帝に頭を下げると店長についていく。途中でメイド服に着替えろと指示されて懐かしくて笑ってしまった。「狂ったのか?」そう言う店長に微笑みで返す。狂っているとしたらそれはあの子の願いを叶えようとしたあの日からだ。

「この檻に入れ。あとはこれからの自分の運命でも祈ってろ」

「どうせ殺されるんでしょ。裏ビデオとか」

「よくわかってんじゃねえか」

 二回目になればそれはな。大人しく屈んで檻に入りその時を待つ。上から布がかけられて檻の車輪が動き出した。

(ま、殺されるよな)

 可愛い女の子でも安値で売られて殺されてしまうのだ、何もない自分がどうなるかなんて想像はたやすい。

「さあ! 紳士淑女の皆さん! お待たせいたしました! MoeMoe♡メイドオークション! ただいま開催です! まずは商品番号一番!」

 懐かしい口上。「商品」は自分以外にもいるらしく、次々と悲鳴や歓声が飛んでいく。

「——商品番号三番、三百万からです! こちらは……」

パッと檻を囲っていた布が取られる。その瞬間、男の声が飛んできた。

「とりあえず五百」

 説明も無い時点での金額提示。顔を上げると仮面の男が腕を組んで幸太郎を見ていた。声はボイスチェンジャーで加工されているが、恐らく若いだろう。その横の女らしき人間がその台詞に重ねた。

「私は六百で行くわ」

「え、えっと……まだ説明しておりませんがこの男、身寄りも無く容姿も……使い道としては……」

「貴方には関係ないわ。六百以上はいないの?」

「七百万」

 隣の男がすかさず値段を上げる。待て、自分にはそんな価値は無いんだが。

 この男は何者なんだろう。

「……一千万」

 女性がさらに提示した金額に、周りがざわついた。司会者の男も唖然としている。幸太郎だって同じ気持ちだ。これからこの女に何をされるんだろう。段々不安になってくる。普通に殺されれば御の字。特殊性癖に付き合わされる覚悟はしておこう。

「追加で三百、これ以上はいないでしょう?」

「に、二千万!」

 男が叫んだ金額に、周りの人間が唖然とする。声も出ないとはこのことだ。

「二千万でその人を買う! これ以上はいる⁉」

「……正気?」

 男の隣の女が小さく呟いた。

「え、えー……では二千万で売却です! 今までで指折りの高金額! この男にそれほどの価値があるとは思いませんが、ここは一言、落札者様にいただきましょう!」

 男はマイクを奪うと、ボイスチェンジャーを取りマイクに向かって叫んだ。

「幸太郎ー!」

 その声を自分が間違えるはずがない。どうしてこんなところに、いったい誰が、そんな事を色々考えたけれど、それ以上の感情に押しつぶされる。嬉しい。死ぬ事を回避したことではない。彼が、自分を迎えに来てくれたことがどうしようもなく。

「いままで無理させててごめんっ! 迎えに来たよっ!」

「ご主人様……」

 視界に涙の膜が張られる。

 ――自分なんてどうでもよくて、死んだってよかった。どうなっても構わない。元々不要な命だ。それが誰かのためになるなら、それはそれで本望だから。 

 幸せな人生だった、と満足してこの檻に入った。

 それなのに、こんな結果。

 時嗣は顔を隠す為の布を引っぺがすと、キラキラした顔で声を上げた。

「大好き! だからもう一回、僕のメイドさんになって!」

「……っ、貴方は本当に……」

 二度と会えないと思っていた。それだけの事をしたと覚悟していた。

「本当に……」

 自分の人生なんてどうでもいい、周りの人には期待しない、クズで上等、ましな死に方はできないと思っていた。でも、神様はいるみたいで、自分に希望を与えてくれた。

「返事はー⁉」

 ステージまで通る声。幸太郎は時嗣の言葉に笑顔で返した。

「勿論です! ご主人様!」
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