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【本編完結】今日からメイド♂始めます!【次回おまけあり】
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帝の所有するリムジンの中で幸太郎は事の真相を知った。
「借金二千万ってどういうことですか⁉」
「あはは」
「あははじゃないです!」
時嗣から事のあらましの説明を受けたが、その内容は前代未聞のものだった。
一之宮……もといきっかけをくれた恩人である彼女と時嗣の契約は、今日限りで一千万を貸すので幸太郎を購入するチャンスを得る事。だが、もしその一千万を今日中に返せなければ、黙って一之宮と結婚する事。
「意地が悪い契約ですね……」
「あら、でも私も貴方を購入しようとしたのよ? 時嗣くんにプレゼントしようと思って」
「そうしたらまた条件を付けるつもりですよね」
「ビジネスってそんなものよ」
幸太郎の事は婚約指輪か何かだと思って、これと一緒に嫁いで来いという事だ。時嗣は気付いていないかもしれないがおかしな話だ。事前に一千万以上の元手が無ければどうやっても一之宮と結婚することになる。
一之宮が落札すれば、恐らくどうにかして自分は時嗣の元へ行けただろう。だが、その場合、時嗣は現時点以上のペナルティを受けたはずだ。そう考えると今回の結果は……。
(いやどっちにしろ結婚は避けられないのか……)
「あれ、でもご主人様って二千万で俺を落札しましたよね……? 貯金が一千万あったとは俺は記憶してないですよ?」
「それね~、私のミスだったわ~」
「ミス?」
「オレが二千万を時嗣に貸した」
帝が上機嫌でシャンパンのグラスを傾ける。
「一千万で一之宮様と終身契約できるなら破格だ。追加の一千万は時嗣が櫻木家から逃げない為の担保。普通の職なら返せん、それなら櫻木グループへの就職しかないだろう。結果、オレの一人勝ちになったわけだ」
ちゃんと法外の利子もつけたから時嗣は二度と逃げれないぞ、そう笑う帝に辟易する。漁夫の利とはこの事だ。
「ご主人様は、それでいいんですか……?」
これが最善とは言え、昔から櫻木家の都合から時嗣は逃げたがっていた。この選択は時嗣をさらに櫻木家に縛り付けることになるのではないだろうか。そんな幸太郎の心配に時嗣は首を縦に振る。
「いいの、幸太郎がいればそれでいい。だって、あれもこれもって欲張りにはなれないでしょ? だったら僕は幸太郎だけを選ぶよ」
だってと、時嗣は続ける。
「幸太郎が最後まで僕の味方だったように、僕も幸太郎の味方だもん!」
「……っ!」
小さな子供が大人になった。それだけの月日を、共に過ごした。これからもそれが続くならば、それ以上幸せな事は無い。
「ねえ、幸太郎」
「なに……って、んぅ⁉」
時嗣の方へ首を向けると、いきなりキスをされた。
「な、なななな……!」
「見せつけてくれるな」
「若さね~」
混乱する幸太郎をよそに、帝と一之宮はほんわかした雰囲気だ。その二人を気にせず時嗣は幸太郎の両手を握り、潤んだ瞳で見つめる。
「……やっと手が届いた。幸太郎、今まで僕を守ってくれてありがとうね。あの約束してからずーっと幸太郎が僕の幸せだけを考えて生きてくれてたの、嬉しかった。でもね、一緒に暮らしてる時、ずっと不安だったんだ。僕は幸太郎以上に覚悟持って生きてなかった」
時嗣はそう言うが幸太郎だって、そんなたいそうな覚悟を持っていたわけじゃない。ただ、目の前の小さな子どもをどうしても幸せにしたくて、必死だっただけだ。
「……一之宮様……彼女とね、結婚しようと思ったんだ。幸太郎を助けられるなら僕もそのくらいやろうって」
「だが、それをオレが止めた」
帝がシャンパンを煽る。
「ノーリスクで幸せになれるなんて思ってない。櫻木家に今後一生縛られるのは抵抗あったけど、でも幸太郎の笑顔思い出したら僕の人生なんてどうでもよくなっちゃった」
だからね、時嗣は幸太郎に笑いかけて言う。
「僕の全部をあげるから、幸太郎の全部を僕にください」
「……プロポーズ、ですか……?」
「昔、幸太郎から言ったんじゃない」
「そんなこと、覚えててくれたんですね……」
昔、上っ面だけで言った言葉。そんなゴミが花束になって戻ってきたみたいだ。
「覚えてるよ、恋人だもん」
恋人。これだって、最初は自分の利益になるからだったのに。時嗣は渡したものを何倍にも綺麗にして返してくれる。
「ご主人様、ありがとうございます」
心の底の幸せを込めてそう返すと、時嗣は顔を赤くした後、照れ隠しの様にぶっきらぼうにして言った。
「……恋人なのに『時嗣さん』でいいんだっけ? 僕、結構覚悟決めたのに」
それを言われると何も言えない。
「と、時嗣さん……」
これからも幸太郎は幸太郎以外の全てを捨ててくれた、この人についていくだろう。使用人として、それから恋人として。
「話が早いね、流石は僕のメイドさん!」
「この歳でもう一回メイドは勘弁してください!」
「え、でも着てるのはメイド服だから改めてメイドさんになったんじゃ……。大丈夫だよ幸太郎、趣味なら受け入れるし……」
「いや全く趣味じゃないですよ⁉」
今、メイド服を着たままだという事を意識していなかった。全く趣味じゃない。今すぐ着替えたいが着替えがないからこのままなのだ。
「僕はいいと思うよ? 男だけどメイドさん。幸太郎、似合うし」
「似合ってたまりますか!」
「え~僕は好きだな。ね、恋人兼ご主人様命令。これからも僕専用のメイドさんでいてね。僕はこれからしっかりした立派なご主人様になるから、絶対に恥ずかしい思いさせない!」
「制服が既に恥ずかしいんですよ!」
「幸太郎? ご主人様の命令は?」
絶対でしょ、と無言の圧力をかけて時嗣は笑う。幸太郎は惚れた弱みから何も言えなかった。大丈夫。元の制服に戻っただけだ。何の問題も……いや、年齢的にキツイ……あとミニスカートは寒いし辛いし何日着てても慣れない……。それが最愛の主人の希望なら……。と考えて考えて考えて、喉から譲れない希望を絞りだした。
「……ミニスカは……やめてください……」
物理的な寒さと股間の心もとなさは愛では解決できない。時嗣は笑って、幸太郎を両手で抱きしめた。
「幸太郎! 大好き!」
「……俺も、大好きです」
かなしいかな、どうやらこのメイド服とはまたしばらくお友達になるらしい。まあ、でも本望だ、好きな人の笑顔の為なら、初心に戻ってやり直そう!
全てはご主人様の為!
――というわけで、改めて! 今日からメイド♂始めます!
(了)
「借金二千万ってどういうことですか⁉」
「あはは」
「あははじゃないです!」
時嗣から事のあらましの説明を受けたが、その内容は前代未聞のものだった。
一之宮……もといきっかけをくれた恩人である彼女と時嗣の契約は、今日限りで一千万を貸すので幸太郎を購入するチャンスを得る事。だが、もしその一千万を今日中に返せなければ、黙って一之宮と結婚する事。
「意地が悪い契約ですね……」
「あら、でも私も貴方を購入しようとしたのよ? 時嗣くんにプレゼントしようと思って」
「そうしたらまた条件を付けるつもりですよね」
「ビジネスってそんなものよ」
幸太郎の事は婚約指輪か何かだと思って、これと一緒に嫁いで来いという事だ。時嗣は気付いていないかもしれないがおかしな話だ。事前に一千万以上の元手が無ければどうやっても一之宮と結婚することになる。
一之宮が落札すれば、恐らくどうにかして自分は時嗣の元へ行けただろう。だが、その場合、時嗣は現時点以上のペナルティを受けたはずだ。そう考えると今回の結果は……。
(いやどっちにしろ結婚は避けられないのか……)
「あれ、でもご主人様って二千万で俺を落札しましたよね……? 貯金が一千万あったとは俺は記憶してないですよ?」
「それね~、私のミスだったわ~」
「ミス?」
「オレが二千万を時嗣に貸した」
帝が上機嫌でシャンパンのグラスを傾ける。
「一千万で一之宮様と終身契約できるなら破格だ。追加の一千万は時嗣が櫻木家から逃げない為の担保。普通の職なら返せん、それなら櫻木グループへの就職しかないだろう。結果、オレの一人勝ちになったわけだ」
ちゃんと法外の利子もつけたから時嗣は二度と逃げれないぞ、そう笑う帝に辟易する。漁夫の利とはこの事だ。
「ご主人様は、それでいいんですか……?」
これが最善とは言え、昔から櫻木家の都合から時嗣は逃げたがっていた。この選択は時嗣をさらに櫻木家に縛り付けることになるのではないだろうか。そんな幸太郎の心配に時嗣は首を縦に振る。
「いいの、幸太郎がいればそれでいい。だって、あれもこれもって欲張りにはなれないでしょ? だったら僕は幸太郎だけを選ぶよ」
だってと、時嗣は続ける。
「幸太郎が最後まで僕の味方だったように、僕も幸太郎の味方だもん!」
「……っ!」
小さな子供が大人になった。それだけの月日を、共に過ごした。これからもそれが続くならば、それ以上幸せな事は無い。
「ねえ、幸太郎」
「なに……って、んぅ⁉」
時嗣の方へ首を向けると、いきなりキスをされた。
「な、なななな……!」
「見せつけてくれるな」
「若さね~」
混乱する幸太郎をよそに、帝と一之宮はほんわかした雰囲気だ。その二人を気にせず時嗣は幸太郎の両手を握り、潤んだ瞳で見つめる。
「……やっと手が届いた。幸太郎、今まで僕を守ってくれてありがとうね。あの約束してからずーっと幸太郎が僕の幸せだけを考えて生きてくれてたの、嬉しかった。でもね、一緒に暮らしてる時、ずっと不安だったんだ。僕は幸太郎以上に覚悟持って生きてなかった」
時嗣はそう言うが幸太郎だって、そんなたいそうな覚悟を持っていたわけじゃない。ただ、目の前の小さな子どもをどうしても幸せにしたくて、必死だっただけだ。
「……一之宮様……彼女とね、結婚しようと思ったんだ。幸太郎を助けられるなら僕もそのくらいやろうって」
「だが、それをオレが止めた」
帝がシャンパンを煽る。
「ノーリスクで幸せになれるなんて思ってない。櫻木家に今後一生縛られるのは抵抗あったけど、でも幸太郎の笑顔思い出したら僕の人生なんてどうでもよくなっちゃった」
だからね、時嗣は幸太郎に笑いかけて言う。
「僕の全部をあげるから、幸太郎の全部を僕にください」
「……プロポーズ、ですか……?」
「昔、幸太郎から言ったんじゃない」
「そんなこと、覚えててくれたんですね……」
昔、上っ面だけで言った言葉。そんなゴミが花束になって戻ってきたみたいだ。
「覚えてるよ、恋人だもん」
恋人。これだって、最初は自分の利益になるからだったのに。時嗣は渡したものを何倍にも綺麗にして返してくれる。
「ご主人様、ありがとうございます」
心の底の幸せを込めてそう返すと、時嗣は顔を赤くした後、照れ隠しの様にぶっきらぼうにして言った。
「……恋人なのに『時嗣さん』でいいんだっけ? 僕、結構覚悟決めたのに」
それを言われると何も言えない。
「と、時嗣さん……」
これからも幸太郎は幸太郎以外の全てを捨ててくれた、この人についていくだろう。使用人として、それから恋人として。
「話が早いね、流石は僕のメイドさん!」
「この歳でもう一回メイドは勘弁してください!」
「え、でも着てるのはメイド服だから改めてメイドさんになったんじゃ……。大丈夫だよ幸太郎、趣味なら受け入れるし……」
「いや全く趣味じゃないですよ⁉」
今、メイド服を着たままだという事を意識していなかった。全く趣味じゃない。今すぐ着替えたいが着替えがないからこのままなのだ。
「僕はいいと思うよ? 男だけどメイドさん。幸太郎、似合うし」
「似合ってたまりますか!」
「え~僕は好きだな。ね、恋人兼ご主人様命令。これからも僕専用のメイドさんでいてね。僕はこれからしっかりした立派なご主人様になるから、絶対に恥ずかしい思いさせない!」
「制服が既に恥ずかしいんですよ!」
「幸太郎? ご主人様の命令は?」
絶対でしょ、と無言の圧力をかけて時嗣は笑う。幸太郎は惚れた弱みから何も言えなかった。大丈夫。元の制服に戻っただけだ。何の問題も……いや、年齢的にキツイ……あとミニスカートは寒いし辛いし何日着てても慣れない……。それが最愛の主人の希望なら……。と考えて考えて考えて、喉から譲れない希望を絞りだした。
「……ミニスカは……やめてください……」
物理的な寒さと股間の心もとなさは愛では解決できない。時嗣は笑って、幸太郎を両手で抱きしめた。
「幸太郎! 大好き!」
「……俺も、大好きです」
かなしいかな、どうやらこのメイド服とはまたしばらくお友達になるらしい。まあ、でも本望だ、好きな人の笑顔の為なら、初心に戻ってやり直そう!
全てはご主人様の為!
――というわけで、改めて! 今日からメイド♂始めます!
(了)
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