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姉妹
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「へへっ···。ありがと」
「···ったく。お前には負けるよ」
彼との情事を終え、珍しく甘えた声でお小遣いをおねだりした私に、彼は怒る事もなく気前よくカードを差し出してきた。
「わかるだろ?番号」と笑いながら言う彼に、私は後ろから抱きつき、自分の誕生日を言う。
「それに、せめてもの罪滅ぼしだ」時々、彼を困らせたくなる私。だって、彼には帰る家があり、待ってる家族がいる。
「大丈夫よ。私だって、いつかはあなたより好きな人を見つけて、結婚するから···」
「お前が、俺以外の男に抱かれるのはシャクだけどな···。じゃ、帰るか···」
「あん、待ってよぉ!!」
後ろから甘えた声で、彼にしがみつく。
職場でも、私と彼の事を知られてはいけない。そんな素振りさえも見せてはいない。
※ ※ ※
「あ、ありがとう!」
このふたりの旅行代金も全て私が出した。
「いい?お返ししようなんて、思わないでよ?」
「うん。なんか、高地さんが羨ましい」
新幹線のシートに座ると、彩奈は少し申し訳なさそうに言った。
「そう?でも、私は彩奈の方が羨ましい···」
新幹線は、ゆっくりと動き出し京都へと向かった。
「どうして?」
「だって、家に帰ればお母さんが出迎えてくれてたし、休みになるとあなたはよく家族で出掛けたりしていた」
(うちなんて、パパもママも家には殆ど居なかったし···そんな両親も私が二十歳の時に揃って火事で亡くなった)
「いまは、富さんとアメリカいる叔父しかいないわ」
「叔父さん?」
「ええ」
私は、目を閉じたままアメリカに住んでる浩史叔父さんの顔を思い出した。父の弟で、二つ離れてる。
「そっか···」
彩奈は、短くそう言うと静かになった。
約三時間の新幹線で、京都に降り立った私と彩奈。
「んぅっ!!懐かしい匂い!」
「私も···」
高校での修学旅行は、北海道だったがお互い中学の修学旅行は、時期は違えどココ京都だった。
「でも、オッケーしてくれて、ほんとありがとう」
私は、彩奈に頭を下げた。のも、彩奈の住んでいたアパートが古く取り壊す事になり、相談してきたことから、
『ねっ!一緒に住まない?』
そう持ちかけた。彼は、ここにくる事がないから。来るのは、富さんだけだし···
「じゃ、ちゃんとお家賃受け取って下さいね!!」
「はいはい。ほんと、しつこいんだから···」
そう言って笑うと駅前で停まっていたタクシーに合図をし、二人分のキャリーを詰め込んで貰い、ホテル嵐山へと向かう。
「な···なんか···」
「どぉしたのよぉ!!ほら、行くよ」
どっしりとしたホテルに足を止めた彩奈。ホテル嵐山は、1泊19800円とお手頃価格。
「待ってよ···。高地さーん」
彩奈は、大きく言いながら私の後をついてきた。ホテルで手続きをする私の後ろで、彩奈はキラキラ光る天井を眺めては溜息をついていた。恐らく、この手のホテルにも泊まった事がないのだろう。
「ほら、お姉さん!!行くよ!」
「あ、うん···」
慣れないのはわかるが···
(お上りさんみたいじゃないの。恥ずかしい)
キャリーを傍に置き大きな鏡の前でシンデレラよろしくの如くウットリしてる彩奈を見て笑う。
「お姉さん!エレベーターきたわよ」
手招きし、彩奈を呼ぶ。
「ごめんね。愛莉···」
「でも、ほんと似てるわよねぇ。私と彩奈···」
「うん···。なんか、恥ずかしい」
エレベーターの中につけられてる鏡に写った自分の姿ですら恥ずかしがる彩奈に、うんざりしながらも部屋に入ると、私はベッドに大きくダイブした。
─そう、これはゲーム。人の目の前で姉妹を偽り、「似てない」と言われたらゲームオーバー。
※ ※ ※
「夕飯は、レストランだから。あ、彩奈アレ持ってきた?」
「うん。でも、私とお揃いなんて、迷惑じゃなかった?」
「まさか。でも、お揃いの服って私初めてなんだ···」
ベッドに座ると、彩奈が私のキャリーバッグを持ってきてくれ、中のものを上に取り出していった。
「ほんと、凄いわね。そんなにお化粧品持って飽きない?」
「これでも少ないって!!ほら、梅田さんなんて···」
同じ事務職の大先輩の梅田佳代子さんの話を持ち出す私···
夕飯の時間になると、髪型からメイク、服装まで全部お揃いにした私と彩奈···
「やっぱ、見られてるね」
ちぎったパンをスープに浸しながら食べる彩奈は、周りの視線が気になるのか、チラチラ見ていて落ち着かなかった。
「ま、私は見られてるの慣れてるし···」
(昔からそうだった。パパがいても、ママがいても、常に私は注目を浴びていた···)
一通りの食事を終え、彩奈はデザートのクリームブリュレに堪能してるのを横目に私は彼にメールしていた。
「彼氏、ですか?なんか、ニコニコしてて···」
「まぁ、そんなもんかな?」
この時、急に視界が暗くなって彩奈の表情が曇った事に気が付かなかった。
「あ、誕生日なんだ」
彩奈が指さした方向のテーブルでは、一組の家族が可愛らしいワンピースを着ていた女の子の誕生日を祝っていたらしく、レストランが暗くなり、HAPPYBIRTHDAYの曲が流れ始めた。
「誕生日、か。親に祝って貰ったのっていつだったかな?覚えてない。彩奈は?」
ワインを飲みながら、彩奈に聞く。
「うちは、父が亡くなるまで毎年···」
「あっそ···」
彩奈は、暫く眺めていたが、クリームブリュレを食べ終えると外を眺め始めた。
レストランを出て、部屋へ戻ると彩奈はバスルームにお湯を張りに行ったらしい。
※ ※ ※
»»ねぇ、旅行。今度は、あなたと行きたいな。
なんとなく彼にラインを送ってみる。今日は、土曜日だから、きっと彼は···
»どう?楽しんでる?いいよ。俺、今度出張で長野に行くから、一緒にどう?
「わぁい!」
»»楽しみにしてまぁす!大好き!
少し心が寂しくなっても、私には彼がいる。週末以外、毎日会えてるから···
───
『···ふっ。バカね。監視されてるとも知らないで···』
───
キュッ···
「高地さーん!お湯、溜まったよぉ!」
の声で、ちょっと現実に戻った私は、着替えを手にバスルームへと向かった···
「···ったく。お前には負けるよ」
彼との情事を終え、珍しく甘えた声でお小遣いをおねだりした私に、彼は怒る事もなく気前よくカードを差し出してきた。
「わかるだろ?番号」と笑いながら言う彼に、私は後ろから抱きつき、自分の誕生日を言う。
「それに、せめてもの罪滅ぼしだ」時々、彼を困らせたくなる私。だって、彼には帰る家があり、待ってる家族がいる。
「大丈夫よ。私だって、いつかはあなたより好きな人を見つけて、結婚するから···」
「お前が、俺以外の男に抱かれるのはシャクだけどな···。じゃ、帰るか···」
「あん、待ってよぉ!!」
後ろから甘えた声で、彼にしがみつく。
職場でも、私と彼の事を知られてはいけない。そんな素振りさえも見せてはいない。
※ ※ ※
「あ、ありがとう!」
このふたりの旅行代金も全て私が出した。
「いい?お返ししようなんて、思わないでよ?」
「うん。なんか、高地さんが羨ましい」
新幹線のシートに座ると、彩奈は少し申し訳なさそうに言った。
「そう?でも、私は彩奈の方が羨ましい···」
新幹線は、ゆっくりと動き出し京都へと向かった。
「どうして?」
「だって、家に帰ればお母さんが出迎えてくれてたし、休みになるとあなたはよく家族で出掛けたりしていた」
(うちなんて、パパもママも家には殆ど居なかったし···そんな両親も私が二十歳の時に揃って火事で亡くなった)
「いまは、富さんとアメリカいる叔父しかいないわ」
「叔父さん?」
「ええ」
私は、目を閉じたままアメリカに住んでる浩史叔父さんの顔を思い出した。父の弟で、二つ離れてる。
「そっか···」
彩奈は、短くそう言うと静かになった。
約三時間の新幹線で、京都に降り立った私と彩奈。
「んぅっ!!懐かしい匂い!」
「私も···」
高校での修学旅行は、北海道だったがお互い中学の修学旅行は、時期は違えどココ京都だった。
「でも、オッケーしてくれて、ほんとありがとう」
私は、彩奈に頭を下げた。のも、彩奈の住んでいたアパートが古く取り壊す事になり、相談してきたことから、
『ねっ!一緒に住まない?』
そう持ちかけた。彼は、ここにくる事がないから。来るのは、富さんだけだし···
「じゃ、ちゃんとお家賃受け取って下さいね!!」
「はいはい。ほんと、しつこいんだから···」
そう言って笑うと駅前で停まっていたタクシーに合図をし、二人分のキャリーを詰め込んで貰い、ホテル嵐山へと向かう。
「な···なんか···」
「どぉしたのよぉ!!ほら、行くよ」
どっしりとしたホテルに足を止めた彩奈。ホテル嵐山は、1泊19800円とお手頃価格。
「待ってよ···。高地さーん」
彩奈は、大きく言いながら私の後をついてきた。ホテルで手続きをする私の後ろで、彩奈はキラキラ光る天井を眺めては溜息をついていた。恐らく、この手のホテルにも泊まった事がないのだろう。
「ほら、お姉さん!!行くよ!」
「あ、うん···」
慣れないのはわかるが···
(お上りさんみたいじゃないの。恥ずかしい)
キャリーを傍に置き大きな鏡の前でシンデレラよろしくの如くウットリしてる彩奈を見て笑う。
「お姉さん!エレベーターきたわよ」
手招きし、彩奈を呼ぶ。
「ごめんね。愛莉···」
「でも、ほんと似てるわよねぇ。私と彩奈···」
「うん···。なんか、恥ずかしい」
エレベーターの中につけられてる鏡に写った自分の姿ですら恥ずかしがる彩奈に、うんざりしながらも部屋に入ると、私はベッドに大きくダイブした。
─そう、これはゲーム。人の目の前で姉妹を偽り、「似てない」と言われたらゲームオーバー。
※ ※ ※
「夕飯は、レストランだから。あ、彩奈アレ持ってきた?」
「うん。でも、私とお揃いなんて、迷惑じゃなかった?」
「まさか。でも、お揃いの服って私初めてなんだ···」
ベッドに座ると、彩奈が私のキャリーバッグを持ってきてくれ、中のものを上に取り出していった。
「ほんと、凄いわね。そんなにお化粧品持って飽きない?」
「これでも少ないって!!ほら、梅田さんなんて···」
同じ事務職の大先輩の梅田佳代子さんの話を持ち出す私···
夕飯の時間になると、髪型からメイク、服装まで全部お揃いにした私と彩奈···
「やっぱ、見られてるね」
ちぎったパンをスープに浸しながら食べる彩奈は、周りの視線が気になるのか、チラチラ見ていて落ち着かなかった。
「ま、私は見られてるの慣れてるし···」
(昔からそうだった。パパがいても、ママがいても、常に私は注目を浴びていた···)
一通りの食事を終え、彩奈はデザートのクリームブリュレに堪能してるのを横目に私は彼にメールしていた。
「彼氏、ですか?なんか、ニコニコしてて···」
「まぁ、そんなもんかな?」
この時、急に視界が暗くなって彩奈の表情が曇った事に気が付かなかった。
「あ、誕生日なんだ」
彩奈が指さした方向のテーブルでは、一組の家族が可愛らしいワンピースを着ていた女の子の誕生日を祝っていたらしく、レストランが暗くなり、HAPPYBIRTHDAYの曲が流れ始めた。
「誕生日、か。親に祝って貰ったのっていつだったかな?覚えてない。彩奈は?」
ワインを飲みながら、彩奈に聞く。
「うちは、父が亡くなるまで毎年···」
「あっそ···」
彩奈は、暫く眺めていたが、クリームブリュレを食べ終えると外を眺め始めた。
レストランを出て、部屋へ戻ると彩奈はバスルームにお湯を張りに行ったらしい。
※ ※ ※
»»ねぇ、旅行。今度は、あなたと行きたいな。
なんとなく彼にラインを送ってみる。今日は、土曜日だから、きっと彼は···
»どう?楽しんでる?いいよ。俺、今度出張で長野に行くから、一緒にどう?
「わぁい!」
»»楽しみにしてまぁす!大好き!
少し心が寂しくなっても、私には彼がいる。週末以外、毎日会えてるから···
───
『···ふっ。バカね。監視されてるとも知らないで···』
───
キュッ···
「高地さーん!お湯、溜まったよぉ!」
の声で、ちょっと現実に戻った私は、着替えを手にバスルームへと向かった···
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