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01.【夜会】婚約破棄宣言
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その日、ティーグル王国の王宮では王太子サジェスフォルス・ミゼリコルド・ド・スュクセオヌール主催の夜会が開かれていた。
招待されているのは主賓であるクゥクー公爵家の他、伯爵位以上の国内の貴族だった。そして招かれていないにも関わらず入り込んでいる異分子が2人。
この異分子2人は主催である王太子によって城内に入ることを許されていたが、当人たちはそれを知らない。王太子は今日この場で愚か者たちを処断するために態と招き入れているのだ。
夜会の主役はクゥクー公爵家の長女フィエリテ・クレアシオン・ド・シュエット。
本来ならば彼女のエスコートは婚約者であるコシュマール侯爵家3男ブリュイアン・コレリック・ド・フォルミが務めるはずであったが、その彼は隣にはいない。
代わりに彼女をエスコートしているのは幼馴染であるフォーコン公爵ヴェルチュ・サクレ・ド・ティヨルだった。
その姿に招待客は何かが起こると確信した。本来の目的以外に、醜聞となりそうなことが起こると。
そして、それは王太子が開会の挨拶を述べる前に起こった。
「フィエリテ・クレアシオン・ド・シュエット! 貴様との婚約を破棄する! いくら母が違うとはいえ妹を虐げるような貴様に公爵夫人となる資格などない! 俺は可憐で手弱かで純真なメプリ・リュゼ・ド・シュエットと婚約を結ぶ! 貴様は公爵家から追放だ! タンタシオン修道院へ行け!」
そう声高に叫んだのはフィエリテの婚約者であるブリュイアンだった。
くすんだ金髪に濁った緑の目、ひょろひょろと頼りない中背の貴族としては情けない体躯をした、顔だけは整っているといえる程度の男は傲慢な表情を浮かべ、己の正しさを信じフィエリテに告げる。
「うわぁ……知ってはいたけど、思っていたよりずっと莫迦だな」
ブリュイアンの言葉を受けて隣に立つフィエリテにだけ聞こえる声量でヴェルチュが呟く。それは会場にいる殆どの者の心情を代弁していた。そう思っていないのは叫んだ本人と招かれざる2人だけだろう。
婚約破棄宣言を受けたフィエリテは呆れと失望をまとった溜息をつく。そして侮蔑を隠しもしない視線で婚約者とその腕に纏わりつく義妹を見た。
そう、ブリュイアンは1人ではなく義妹であるメプリ・リュゼ・ド・サンスュを伴っていた。
3年前にフィエリテの実母が亡くなった後、強引に家に入り込んだ父の愛人の娘がメプリだ。
フィエリテと同じ16歳で、栗色の髪によくある緑の目をした華奢といえば聞こえのいい貧相な幼児体型の少女である。
つい先日フィエリテが成人を迎えたのを機に父が愛人だったヴュルギャリテと正式に婚姻を結んだので義妹となったのだ。
「それは、王太子殿下主催のこの夜会で言わねばならぬことですか?」
凛とした声でフィエリテが問う。
その姿は流石は公爵令嬢ともいうべき美しさだった。
輝く艶やかなプラチナブロンド、全てを見透かし或いは包み込むようなサファイアの瞳、成人したばかりとは思えぬ魅惑的な姿態。
その優れた人柄と教養、気品によって同年代の王位継承者がいれば婚約者となっていただろう貴婦人の姿があった。
また、彼女をエスコートしているヴェルチュは王妹を母に持つ、同世代では最高の貴公子とされる人物だ。陽の光を集めたようなブロンドの髪とアメジストの瞳を持ち、鍛えられた肢体は物語に出てくる理想の騎士ともいえるものだ。
対峙する2人とは格が違う。しかし、当の本人たちはそれに気付きもせず、愚かさをさらけ出し続ける。
そもそも、婚約破棄などは関係者だけで話し合うべきことである。関係のない招待客を巻き込むことではない。
しかもその理由が家庭内の虐待だというのなら、なおのこと公爵家の醜聞となる。入り婿となるのであれば、公爵家の名誉と体面を傷つけるような行いは避けて然るべきだ。
そして、侯爵家の3男という準貴族でしかないブリュイアンが格上の公爵家に破棄を突きつけるなど有り得ないことでもある。
クゥクー公爵家は政治的な権力は有しないものの準王家ともいうべき特殊な家だ。その地位の高さは公爵家の中では群を抜いて最も高く、クゥクー公爵家が礼を取らねばならぬ相手は王家だけだ。
それを未だ2代しか続かぬ新興の侯爵家が立場も弁えず婚約破棄し剰え断罪しようなど、身の程を弁えぬ暴挙というしかない。
「貴様の悪行を知らしめるためだ!」
ブリュイアンが居丈高に叫ぶ。本人は堂々としているつもりであろうが、それは彼の底の浅さを露呈するだけだった。
「悪行とは一体何を指すのか。王太子殿下主催の夜会で、筆頭公爵家のわたくしに無礼を働く以上の悪行がわたくしにあったと申すのですか?」
声高に主張するブリュイアンと違い、フィエリテの声は冷静だった。それでいて他を従える威を持つ。
それに招待客は彼女の血筋を思い流石だと感心していた。
「傲慢も甚だしいな! 判らぬというなら教えてや……」
「そもそも! あなたは大きな勘違いをしています」
フィエリテの悪行とやらを告げようとしたブリュイアンの言葉をフィエリテの凛と響く声が遮る。
折角の見せ場を邪魔されたブリュイアンはフィエリテを憎々し気に睨み、その腕に殆ど平らな胸を押し付けていたメプリも不満げにフィエリテを睨めつけた。
招待されているのは主賓であるクゥクー公爵家の他、伯爵位以上の国内の貴族だった。そして招かれていないにも関わらず入り込んでいる異分子が2人。
この異分子2人は主催である王太子によって城内に入ることを許されていたが、当人たちはそれを知らない。王太子は今日この場で愚か者たちを処断するために態と招き入れているのだ。
夜会の主役はクゥクー公爵家の長女フィエリテ・クレアシオン・ド・シュエット。
本来ならば彼女のエスコートは婚約者であるコシュマール侯爵家3男ブリュイアン・コレリック・ド・フォルミが務めるはずであったが、その彼は隣にはいない。
代わりに彼女をエスコートしているのは幼馴染であるフォーコン公爵ヴェルチュ・サクレ・ド・ティヨルだった。
その姿に招待客は何かが起こると確信した。本来の目的以外に、醜聞となりそうなことが起こると。
そして、それは王太子が開会の挨拶を述べる前に起こった。
「フィエリテ・クレアシオン・ド・シュエット! 貴様との婚約を破棄する! いくら母が違うとはいえ妹を虐げるような貴様に公爵夫人となる資格などない! 俺は可憐で手弱かで純真なメプリ・リュゼ・ド・シュエットと婚約を結ぶ! 貴様は公爵家から追放だ! タンタシオン修道院へ行け!」
そう声高に叫んだのはフィエリテの婚約者であるブリュイアンだった。
くすんだ金髪に濁った緑の目、ひょろひょろと頼りない中背の貴族としては情けない体躯をした、顔だけは整っているといえる程度の男は傲慢な表情を浮かべ、己の正しさを信じフィエリテに告げる。
「うわぁ……知ってはいたけど、思っていたよりずっと莫迦だな」
ブリュイアンの言葉を受けて隣に立つフィエリテにだけ聞こえる声量でヴェルチュが呟く。それは会場にいる殆どの者の心情を代弁していた。そう思っていないのは叫んだ本人と招かれざる2人だけだろう。
婚約破棄宣言を受けたフィエリテは呆れと失望をまとった溜息をつく。そして侮蔑を隠しもしない視線で婚約者とその腕に纏わりつく義妹を見た。
そう、ブリュイアンは1人ではなく義妹であるメプリ・リュゼ・ド・サンスュを伴っていた。
3年前にフィエリテの実母が亡くなった後、強引に家に入り込んだ父の愛人の娘がメプリだ。
フィエリテと同じ16歳で、栗色の髪によくある緑の目をした華奢といえば聞こえのいい貧相な幼児体型の少女である。
つい先日フィエリテが成人を迎えたのを機に父が愛人だったヴュルギャリテと正式に婚姻を結んだので義妹となったのだ。
「それは、王太子殿下主催のこの夜会で言わねばならぬことですか?」
凛とした声でフィエリテが問う。
その姿は流石は公爵令嬢ともいうべき美しさだった。
輝く艶やかなプラチナブロンド、全てを見透かし或いは包み込むようなサファイアの瞳、成人したばかりとは思えぬ魅惑的な姿態。
その優れた人柄と教養、気品によって同年代の王位継承者がいれば婚約者となっていただろう貴婦人の姿があった。
また、彼女をエスコートしているヴェルチュは王妹を母に持つ、同世代では最高の貴公子とされる人物だ。陽の光を集めたようなブロンドの髪とアメジストの瞳を持ち、鍛えられた肢体は物語に出てくる理想の騎士ともいえるものだ。
対峙する2人とは格が違う。しかし、当の本人たちはそれに気付きもせず、愚かさをさらけ出し続ける。
そもそも、婚約破棄などは関係者だけで話し合うべきことである。関係のない招待客を巻き込むことではない。
しかもその理由が家庭内の虐待だというのなら、なおのこと公爵家の醜聞となる。入り婿となるのであれば、公爵家の名誉と体面を傷つけるような行いは避けて然るべきだ。
そして、侯爵家の3男という準貴族でしかないブリュイアンが格上の公爵家に破棄を突きつけるなど有り得ないことでもある。
クゥクー公爵家は政治的な権力は有しないものの準王家ともいうべき特殊な家だ。その地位の高さは公爵家の中では群を抜いて最も高く、クゥクー公爵家が礼を取らねばならぬ相手は王家だけだ。
それを未だ2代しか続かぬ新興の侯爵家が立場も弁えず婚約破棄し剰え断罪しようなど、身の程を弁えぬ暴挙というしかない。
「貴様の悪行を知らしめるためだ!」
ブリュイアンが居丈高に叫ぶ。本人は堂々としているつもりであろうが、それは彼の底の浅さを露呈するだけだった。
「悪行とは一体何を指すのか。王太子殿下主催の夜会で、筆頭公爵家のわたくしに無礼を働く以上の悪行がわたくしにあったと申すのですか?」
声高に主張するブリュイアンと違い、フィエリテの声は冷静だった。それでいて他を従える威を持つ。
それに招待客は彼女の血筋を思い流石だと感心していた。
「傲慢も甚だしいな! 判らぬというなら教えてや……」
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