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18.【夜会】クゥクー公爵家の役割
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ペルセヴェランスとサジェスフォルスの登場でフィエリテは安心した。
成人し公爵を継いだとはいえ、経験は少ない。言葉は通じるが話が通じない上に話を聞かず自己完結してしまう者たちを相手にこれからどうしようかと困惑していたのだ。
一方のメプリも父の登場に喜色を浮かべた。メプリの都合のいい頭は父が自分を溺愛していると思い込んでいる。
その実かなりの冷遇なのだが、『お貴族様だから表面的には冷たくするのよねー』と都合よく解釈していた。だから、父が自分の味方をするために出てきたと思ったのだ。
尤も、立ち位置を見ればそうではないことに気付いただろう。王太子とペルセヴェランスはフィエリテの両側に立っているのだ。流石のブリュイアンも何かが可笑しいと気づいたくらいだった。
「メプリ、ブリュイアン、ヴュルギャリテ。貴様らは大きな勘違いをしている」
ペルセヴェランスは重々しく3人に告げる。これまで彼らが聞いたことのない、フィエリテやヴェルチュには馴染みのある『クゥクー公爵代理』としての声だった。
「クゥクー公爵は私ではない。現クゥクー公爵はフィエリテだ。私は入り婿であり、公爵家の血は引かぬ。従って私に公爵位の継承権はない。私の爵位はピグリエーシュ伯爵であり、これはクゥクー公爵の夫に与えられる1代限りの爵位だ。今はまだフィエリテに夫がいないから私が名乗っているが、フィエリテが結婚すれば私は平民となる」
正確にはフィエリテの婚姻後はこれもまた1代限りの子爵位を与えられるが、それは言う必要はないだろう。
これまで頑なにフィエリテの言葉を信じなかったブリュイアンもペルセヴェランス本人から言われてしまえば反論は出来なかった。
「クゥクー公爵家はフィエリテの母の家系だ。本当は前公爵である妻亡き後フィエリテが公爵位を継ぐことも出来た。だが、未成年の娘に公爵の重責を担わせるのも不憫と、隠居された前々公爵と相談の上、私が補佐することで一時的に公爵位は空位となっていたのだ。先日のフィエリテの成人と共に爵位はフィエリテが継承した。だから私は公爵家の一切の権利を放棄するために再婚したのだ」
決してヴュルギャリテを愛しているから結婚したわけではないとペルセヴェランスは言う。それにヴュルギャリテはショックを受け卒倒しかけた。
「お……お父様はお母様を愛してたから結婚したんでしょ?」
メプリは必死になって問いかける。母を愛していないならば自分はどうなるのだ。もしかして自分も愛されていないというのか。
「ヴュルギャリテを愛したことなど一度もない。私の妻は亡きアンソルスランだけだ。お前やヴュルギャリテが公爵家に迷惑を掛けぬよう、公的に一切の権利がないのだと証明できるよう、私は公爵家との縁を切るためにヴュルギャリテと結婚したのだ」
ペルセヴェランスの非情な宣告にヴュルギャリテは力をなくし座り込んでしまう。愛されていると思い込んでいたメプリもガタガタと震え、隣に立つブリュイアンに縋ろうとした。しかしブリュイアンはそれを避けるように一歩身を引いたため、メプリもまたバランスを崩して座り込んでしまった。
「ピグリエーシュ伯爵も容赦がないな。まぁ、それも無理からぬことだ。17年前から散々迷惑を掛けられていたのだから、卿の怒りの深さも判るというものだ」
ペルセヴェランスの態度に苦笑を漏らし、王太子サジェスフォルスが前面に出てきた。ここからは自分の──王族の役目だ。
なお、怒りに震えているペルセヴェランスは愛娘フィエリテに宥められ少しずつ落ち着いてきている。
「コシュマール公爵家3男ブリュイアンよ。貴様は現クゥクー公爵の婚約者となったおりに当主補佐教育を受けたはずだな。それなのに何故理解しておらぬか不思議なものだ」
王太子の視線に温度はない。気に掛ける価値もない者として、道端の石ころのように見られているだけだ。流石のブリュイアンもそれを感じ体が震えた。
「だが、こうして見渡すと、ピグリエーシュ伯爵の言葉を不思議そうに聞いている者もいるようだ。この場にいるのは伯爵以上の上位貴族と呼ばれる者。国家の要となるはずの者たちであるのになんと情けないことか」
サジェスフォルスは会場内の新興伯爵家たちに目を向ける。茶番の最中に他と違う反応をしていた者たちだ。つまりはクゥクー公爵家の意味を知らぬと思われる者たちでもある。
「貴族は血筋を尊ぶ。ゆえに直系に女性しかいなければ婿養子を取り、妻が当主となり夫がそれを支える。それは皆理解していような」
サジェスフォルスは周囲の貴族を見渡す。それに招待客たちは頷く。頷かないのは3人の愚か者だけだ。だが、既にサジェスフォルスの意識には3人はいない。
「だが、前クゥクー公爵アンソルスランには兄がいた。現フレール侯爵家当主シャン・シャッスがそうだ。一部の事情を知らぬ下位貴族が噂するような愚か者ではないぞ。クゥクーの特殊性がなければ確実に公爵となっていた有能な男だ」
一部の役目を知らぬ貴族家において、長男であるシャン・シャッスがクゥクー公爵家の後継者とならなかったことに関して様々な憶測が流れていた。それが下位貴族や新興伯爵家が中心となる社交場ではまるで真実かのように噂されていた。
シャンは無能である、アンソルスランは両親に溺愛されシャンは冷遇されている、シャンに子供がいないのは種無しでそのために分家に追い出された、等々、憶測とすらいえぬ下世話な噂が広がっていたのである。
尤も、上位貴族や名門古参貴族はクゥクー公爵家の役目を理解しているため、シャンが分家を立てたこともアンソルスランが爵位継承したことも当然と受け止めていた。
「先代アンソルスラン、先々代クラージュに限らぬ。クゥクー公爵は全てが女性だ。クゥクー公爵家は女公爵家なのだ」
成人し公爵を継いだとはいえ、経験は少ない。言葉は通じるが話が通じない上に話を聞かず自己完結してしまう者たちを相手にこれからどうしようかと困惑していたのだ。
一方のメプリも父の登場に喜色を浮かべた。メプリの都合のいい頭は父が自分を溺愛していると思い込んでいる。
その実かなりの冷遇なのだが、『お貴族様だから表面的には冷たくするのよねー』と都合よく解釈していた。だから、父が自分の味方をするために出てきたと思ったのだ。
尤も、立ち位置を見ればそうではないことに気付いただろう。王太子とペルセヴェランスはフィエリテの両側に立っているのだ。流石のブリュイアンも何かが可笑しいと気づいたくらいだった。
「メプリ、ブリュイアン、ヴュルギャリテ。貴様らは大きな勘違いをしている」
ペルセヴェランスは重々しく3人に告げる。これまで彼らが聞いたことのない、フィエリテやヴェルチュには馴染みのある『クゥクー公爵代理』としての声だった。
「クゥクー公爵は私ではない。現クゥクー公爵はフィエリテだ。私は入り婿であり、公爵家の血は引かぬ。従って私に公爵位の継承権はない。私の爵位はピグリエーシュ伯爵であり、これはクゥクー公爵の夫に与えられる1代限りの爵位だ。今はまだフィエリテに夫がいないから私が名乗っているが、フィエリテが結婚すれば私は平民となる」
正確にはフィエリテの婚姻後はこれもまた1代限りの子爵位を与えられるが、それは言う必要はないだろう。
これまで頑なにフィエリテの言葉を信じなかったブリュイアンもペルセヴェランス本人から言われてしまえば反論は出来なかった。
「クゥクー公爵家はフィエリテの母の家系だ。本当は前公爵である妻亡き後フィエリテが公爵位を継ぐことも出来た。だが、未成年の娘に公爵の重責を担わせるのも不憫と、隠居された前々公爵と相談の上、私が補佐することで一時的に公爵位は空位となっていたのだ。先日のフィエリテの成人と共に爵位はフィエリテが継承した。だから私は公爵家の一切の権利を放棄するために再婚したのだ」
決してヴュルギャリテを愛しているから結婚したわけではないとペルセヴェランスは言う。それにヴュルギャリテはショックを受け卒倒しかけた。
「お……お父様はお母様を愛してたから結婚したんでしょ?」
メプリは必死になって問いかける。母を愛していないならば自分はどうなるのだ。もしかして自分も愛されていないというのか。
「ヴュルギャリテを愛したことなど一度もない。私の妻は亡きアンソルスランだけだ。お前やヴュルギャリテが公爵家に迷惑を掛けぬよう、公的に一切の権利がないのだと証明できるよう、私は公爵家との縁を切るためにヴュルギャリテと結婚したのだ」
ペルセヴェランスの非情な宣告にヴュルギャリテは力をなくし座り込んでしまう。愛されていると思い込んでいたメプリもガタガタと震え、隣に立つブリュイアンに縋ろうとした。しかしブリュイアンはそれを避けるように一歩身を引いたため、メプリもまたバランスを崩して座り込んでしまった。
「ピグリエーシュ伯爵も容赦がないな。まぁ、それも無理からぬことだ。17年前から散々迷惑を掛けられていたのだから、卿の怒りの深さも判るというものだ」
ペルセヴェランスの態度に苦笑を漏らし、王太子サジェスフォルスが前面に出てきた。ここからは自分の──王族の役目だ。
なお、怒りに震えているペルセヴェランスは愛娘フィエリテに宥められ少しずつ落ち着いてきている。
「コシュマール公爵家3男ブリュイアンよ。貴様は現クゥクー公爵の婚約者となったおりに当主補佐教育を受けたはずだな。それなのに何故理解しておらぬか不思議なものだ」
王太子の視線に温度はない。気に掛ける価値もない者として、道端の石ころのように見られているだけだ。流石のブリュイアンもそれを感じ体が震えた。
「だが、こうして見渡すと、ピグリエーシュ伯爵の言葉を不思議そうに聞いている者もいるようだ。この場にいるのは伯爵以上の上位貴族と呼ばれる者。国家の要となるはずの者たちであるのになんと情けないことか」
サジェスフォルスは会場内の新興伯爵家たちに目を向ける。茶番の最中に他と違う反応をしていた者たちだ。つまりはクゥクー公爵家の意味を知らぬと思われる者たちでもある。
「貴族は血筋を尊ぶ。ゆえに直系に女性しかいなければ婿養子を取り、妻が当主となり夫がそれを支える。それは皆理解していような」
サジェスフォルスは周囲の貴族を見渡す。それに招待客たちは頷く。頷かないのは3人の愚か者だけだ。だが、既にサジェスフォルスの意識には3人はいない。
「だが、前クゥクー公爵アンソルスランには兄がいた。現フレール侯爵家当主シャン・シャッスがそうだ。一部の事情を知らぬ下位貴族が噂するような愚か者ではないぞ。クゥクーの特殊性がなければ確実に公爵となっていた有能な男だ」
一部の役目を知らぬ貴族家において、長男であるシャン・シャッスがクゥクー公爵家の後継者とならなかったことに関して様々な憶測が流れていた。それが下位貴族や新興伯爵家が中心となる社交場ではまるで真実かのように噂されていた。
シャンは無能である、アンソルスランは両親に溺愛されシャンは冷遇されている、シャンに子供がいないのは種無しでそのために分家に追い出された、等々、憶測とすらいえぬ下世話な噂が広がっていたのである。
尤も、上位貴族や名門古参貴族はクゥクー公爵家の役目を理解しているため、シャンが分家を立てたこともアンソルスランが爵位継承したことも当然と受け止めていた。
「先代アンソルスラン、先々代クラージュに限らぬ。クゥクー公爵は全てが女性だ。クゥクー公爵家は女公爵家なのだ」
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