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19.【夜会】血脈保持
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王太子サジェスフォルスの静かな言葉に、会場の反応は2つに分かれた。1つは驚き、もう1つは当然と受け止めるもの。
愚かなブリュイアンやメプリは目を見開き『嘘だ』と繰り返している。なお、ペルセヴェランスに傲慢なプライドをへし折られたヴュルギャリテはまだ呆然としたままだった。
クゥクー公爵家の役目を知っている上位貴族は驚いている貴族たちに白い目を向ける。伯爵位以上は上位貴族と呼ばれ、領地も広く国政に関わることも多い。その伯爵ともあろう者が、この国の根幹を支える制度を知らぬとは、と呆れているのだ。
少し考えれば判りそうなものではないか。他の公爵家と違って、クゥクーだけは『デュシェス』の称号が使われているのだから。
本来公爵家に使われるのは『デューク』であり、男性を示す。しかし、クゥクーだけは女性を示す『デュシェス』なのだ。他の公爵家では当主が女性であっても『デュシェス』は使わない。一時的な女公爵だと判っているからだ。
けれど、クゥクーは違う。女公爵家なのだ。決して男が公爵位を継承することのない家なのだ。
そう王太子サジェスフォルスに説明されて、それを知らなかった新興伯爵家の者たちは驚いている。
新興、と呼ばれる家は伯爵家としては精々3代を数える程度の歴史しかない。そうすると、他家の当主など今代と先代くらいしか知らないことも多い。歴史を知らなければ3代続いての女性当主とは珍しいと思うだけだ。そこに理由があるとは考えもしなかった。
「クゥクーの役割、それは王家の血脈を守ることだ。ゆえに女系相続が定められているのだ」
クゥクー公爵家は王家に次ぐ古い家柄だと言われている。1000年を超える歴史を持つティーグル王国で王家でさえ直系が途絶えたことのある中、唯一直系が続いている家だ。
クゥクー公爵家の初代は初代国王の妹だ。その後フィエリテに至るまでの約130代に亘って全てが女公爵だった。
「確実に王家の血を残す。スュクセオヌール家の血を確実に継ぐ者を残すため、クゥクー公爵家は女系相続なのだ」
全ての招待客がシンと静まり、サジェスフォルスの言葉を聞いている。ずっと騒いでいたブリュイアンとメプリも例外ではない。
王家には国を守護するために神の祝福があるとされている。それは王家の血によって継承するとも。真実は定かではないが、それによって王家はその血脈を重視する。
貴族も同様だ。神の祝福を受けた王によって選ばれるのが貴族であり、神による加護を授かるとされている。ゆえに貴族も王家と同様直系血族を絶やさぬよう努めてきた。
世の男性の何割が妻の子が絶対に自分の子だと断言できるだろう。愛情云々をおいて断言できる男性は少ないはずだ。
どんなに自分以外の男を排除したとて、それは確実ではない。絶海の孤島で自分と妻しかいない状況でもない限り断言はできまい。
それが貴族となればなおのこと、妻の周囲には常に夫以外の男の存在がある。それが従僕であれ護衛であれ、何かの間違いが起きないとは断言できない。合意であれ不合意であれ、妻が夫以外の男の胤を孕む可能性はゼロではないのだ。
そうなれば、家をその血を持たぬ者が継いでしまう可能性がある。それは血統を重視する貴族家においては絶対に許されないことだった。
スュクセオヌール家が王家となる以前、その前身となるアベイユ王国はそれが元で滅んだと言っても過言ではない。王妃が生んだ5人の息子の中に国王の胤は1人もいなかったという。
平民出身の王妃は学生時代から多情であり、国王との婚姻後もその関係を続けていた。国王が平民の娘を側近たちと共有し、国が定めた有能な婚約者に冤罪を被せて処刑してまで求めた王妃。
愛憎に狂った国王は側近と王妃を惨殺した。5人の王子をも。そして、国は滅んだ。
それまでにも数代に一度の割合で世継ぎの王子が身分の低い女に執心し国政に混乱を招くこともあった。どの女も多情であり、王に似ぬ王子が跡を継いだこともある。そのたびに国力は衰えた。
王家の血をひかぬゆえに衰えたのではなく、そんな子を作る無能な王と王妃のせいであることは明らかだ。けれど、古より王家の血は尊ばれた。王は神に選ばれた存在であり、その血脈であるからこそ国を治めることが出来るのだと信じられてきたのだ。
王家そのものを女系とすることも考えられた。けれど、王の務めの過酷さと当時の出産時の母子生存率を鑑み、王家は男系と定められた。ただでさえ命がけの出産だ。そこに国主としての務めを果たしながらとなれば一般貴族よりも厳しい出産となるだろうと予測されたのだ。
ゆえに、ティーグル王国初代国王は万一にも王家の血をひかぬ王が立ったとしても確実に王家の血を残す術を求めた。それがクゥクー公爵家だった。
たとえ王家の血をひかぬ王が立ったとしても、クゥクーの娘が王妃となり後継を生む。そうすれば、王家の血はクゥクーから受け継がれる。
幸い前王国のようなことは起きてはいない。けれど千年の歴史の中で、王家の直系が途絶えたことはある。先々代の王の従弟の子という、傍系の王が立ったときには、クゥクー公爵令嬢が王妃となった。王家の血の薄い王が立つときには必ず王妃はクゥクー公爵家から出る。そうすることで初代王の血筋を守ってきたのだ。
女性当主であれば、どんな胤であれ、確実に王家の血を引く者が生まれる。ゆえに『血脈保持』をその存在意義とするクゥクー公爵家は女系相続と定められているのだ。
「クゥクー公爵家には数代に一度、必ず直系王族の血が入る。血が濃くなりすぎても困るゆえ、王族の血を継いだ娘と孫には自由な婚姻が認められるのだ」
基本的にクゥクー公爵の配偶者は直系王族・王族以外・傍系王族・王族以外というループになる。現公爵となるフィエリテの曾祖父は傍系王族であり、本来であれば先代アンソルスランは直系王族の夫を得るはずだった。
しかし、王家に直系男子は現王太子1人だけであり、ゆえにアンソルスランはペルセヴェランスと婿に迎えることとなったのだ。
しかし、血脈を守る役目は果たさねばならなかった。
愚かなブリュイアンやメプリは目を見開き『嘘だ』と繰り返している。なお、ペルセヴェランスに傲慢なプライドをへし折られたヴュルギャリテはまだ呆然としたままだった。
クゥクー公爵家の役目を知っている上位貴族は驚いている貴族たちに白い目を向ける。伯爵位以上は上位貴族と呼ばれ、領地も広く国政に関わることも多い。その伯爵ともあろう者が、この国の根幹を支える制度を知らぬとは、と呆れているのだ。
少し考えれば判りそうなものではないか。他の公爵家と違って、クゥクーだけは『デュシェス』の称号が使われているのだから。
本来公爵家に使われるのは『デューク』であり、男性を示す。しかし、クゥクーだけは女性を示す『デュシェス』なのだ。他の公爵家では当主が女性であっても『デュシェス』は使わない。一時的な女公爵だと判っているからだ。
けれど、クゥクーは違う。女公爵家なのだ。決して男が公爵位を継承することのない家なのだ。
そう王太子サジェスフォルスに説明されて、それを知らなかった新興伯爵家の者たちは驚いている。
新興、と呼ばれる家は伯爵家としては精々3代を数える程度の歴史しかない。そうすると、他家の当主など今代と先代くらいしか知らないことも多い。歴史を知らなければ3代続いての女性当主とは珍しいと思うだけだ。そこに理由があるとは考えもしなかった。
「クゥクーの役割、それは王家の血脈を守ることだ。ゆえに女系相続が定められているのだ」
クゥクー公爵家は王家に次ぐ古い家柄だと言われている。1000年を超える歴史を持つティーグル王国で王家でさえ直系が途絶えたことのある中、唯一直系が続いている家だ。
クゥクー公爵家の初代は初代国王の妹だ。その後フィエリテに至るまでの約130代に亘って全てが女公爵だった。
「確実に王家の血を残す。スュクセオヌール家の血を確実に継ぐ者を残すため、クゥクー公爵家は女系相続なのだ」
全ての招待客がシンと静まり、サジェスフォルスの言葉を聞いている。ずっと騒いでいたブリュイアンとメプリも例外ではない。
王家には国を守護するために神の祝福があるとされている。それは王家の血によって継承するとも。真実は定かではないが、それによって王家はその血脈を重視する。
貴族も同様だ。神の祝福を受けた王によって選ばれるのが貴族であり、神による加護を授かるとされている。ゆえに貴族も王家と同様直系血族を絶やさぬよう努めてきた。
世の男性の何割が妻の子が絶対に自分の子だと断言できるだろう。愛情云々をおいて断言できる男性は少ないはずだ。
どんなに自分以外の男を排除したとて、それは確実ではない。絶海の孤島で自分と妻しかいない状況でもない限り断言はできまい。
それが貴族となればなおのこと、妻の周囲には常に夫以外の男の存在がある。それが従僕であれ護衛であれ、何かの間違いが起きないとは断言できない。合意であれ不合意であれ、妻が夫以外の男の胤を孕む可能性はゼロではないのだ。
そうなれば、家をその血を持たぬ者が継いでしまう可能性がある。それは血統を重視する貴族家においては絶対に許されないことだった。
スュクセオヌール家が王家となる以前、その前身となるアベイユ王国はそれが元で滅んだと言っても過言ではない。王妃が生んだ5人の息子の中に国王の胤は1人もいなかったという。
平民出身の王妃は学生時代から多情であり、国王との婚姻後もその関係を続けていた。国王が平民の娘を側近たちと共有し、国が定めた有能な婚約者に冤罪を被せて処刑してまで求めた王妃。
愛憎に狂った国王は側近と王妃を惨殺した。5人の王子をも。そして、国は滅んだ。
それまでにも数代に一度の割合で世継ぎの王子が身分の低い女に執心し国政に混乱を招くこともあった。どの女も多情であり、王に似ぬ王子が跡を継いだこともある。そのたびに国力は衰えた。
王家の血をひかぬゆえに衰えたのではなく、そんな子を作る無能な王と王妃のせいであることは明らかだ。けれど、古より王家の血は尊ばれた。王は神に選ばれた存在であり、その血脈であるからこそ国を治めることが出来るのだと信じられてきたのだ。
王家そのものを女系とすることも考えられた。けれど、王の務めの過酷さと当時の出産時の母子生存率を鑑み、王家は男系と定められた。ただでさえ命がけの出産だ。そこに国主としての務めを果たしながらとなれば一般貴族よりも厳しい出産となるだろうと予測されたのだ。
ゆえに、ティーグル王国初代国王は万一にも王家の血をひかぬ王が立ったとしても確実に王家の血を残す術を求めた。それがクゥクー公爵家だった。
たとえ王家の血をひかぬ王が立ったとしても、クゥクーの娘が王妃となり後継を生む。そうすれば、王家の血はクゥクーから受け継がれる。
幸い前王国のようなことは起きてはいない。けれど千年の歴史の中で、王家の直系が途絶えたことはある。先々代の王の従弟の子という、傍系の王が立ったときには、クゥクー公爵令嬢が王妃となった。王家の血の薄い王が立つときには必ず王妃はクゥクー公爵家から出る。そうすることで初代王の血筋を守ってきたのだ。
女性当主であれば、どんな胤であれ、確実に王家の血を引く者が生まれる。ゆえに『血脈保持』をその存在意義とするクゥクー公爵家は女系相続と定められているのだ。
「クゥクー公爵家には数代に一度、必ず直系王族の血が入る。血が濃くなりすぎても困るゆえ、王族の血を継いだ娘と孫には自由な婚姻が認められるのだ」
基本的にクゥクー公爵の配偶者は直系王族・王族以外・傍系王族・王族以外というループになる。現公爵となるフィエリテの曾祖父は傍系王族であり、本来であれば先代アンソルスランは直系王族の夫を得るはずだった。
しかし、王家に直系男子は現王太子1人だけであり、ゆえにアンソルスランはペルセヴェランスと婿に迎えることとなったのだ。
しかし、血脈を守る役目は果たさねばならなかった。
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