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06.転生者と乙女ゲーム
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一通りお伝えすることはお伝えいたしました。殿下はわたくしの手を握り、お兄様はわたくしの肩を抱き、『絶対にそんなことにはならないから! 私にはブランだけだよ』とか『マーガレットを捨てるなんて有り得ないし、私はマーガレットもブランも守るからね』と必死に仰っています。うん、落ち着け2人とも。あ、マーガレット様はお兄様の婚約者ですわ。とても仲睦まじいお似合いのカップルですの。
ですが……陛下も妃殿下も両親も、わたくしの荒唐無稽と思われる前世の記憶とゲームの話を疑うことなく受け入れておられます。一体何故でしょう?
お父様とお母様、お兄様と殿下であれば、わたくしを愛おしく思い信頼してくださっているからだと考えることも出来るのですけれど。陛下や妃殿下とはお茶会の折に時々お話させていただく程度でございますから、そこまで信用していただけるほどの関係ではございませんのに。
「前世やゲームの記憶を私たちが信じているのが不思議なようだね、ブランシュ嬢」
疑問が顔に出ていたようで、陛下がご下問なさいます。いけませんわ、顔に出ていては貴婦人失格でございます。
「技術の発達した世界からの転生者、前世の記憶を持つ者というものはこの国には少なくないのだよ」
衝撃の事実でございます!
なんでもこの世界では50年に1人か2人は前世の記憶を持つ者が現れるのだそうです。そういった方々のおかげでこの世界は定期的に飛躍的な発展を遂げるのだとか。
それは技術であったり生活様式(主に料理)であったり社会制度や法律であったり。そういえば確かにお手洗いは水洗ですし、上下水道完備で街は綺麗ですし、お風呂も毎日使用可能なものですし、電気の代わりに魔力を使った白物家電もございましたわ。
乙女ゲームの世界だからかと思っていましたが、そういった理由がございましたのね。ファッションなどからフランス革命前のヨーロッパくらいの時代だと思っておりましたが、あのころであれば社会制度も生活様式もこれほど整ってはおりません(何しろトイレというものがございませんからね)のに不思議でしたの。でも転生者がそれだけ多ければ納得ですわ。
そして、乙女ゲームや物語云々も他国を含めると100年に1回くらいはどこかでそういう転生者が出てくるそうです。そして国が混乱に陥ることもあるとか。
「これらのことは各国の王家や上位貴族では正式な記録として残しておる。我が国ではこれまでそういった乙女ゲームがどうのという者はいなかったようだがな」
なるほど、我が国はこれが乙女ゲーム初体験ということですわね。
「乙女ゲームのままというなら、然程混乱はないと思います。主人公の人柄は悪くございませんから、貴族のルールと常識を学べばたとえ王太子ルートであったとしても王妃の座を望むことはないと思います。身分を弁え最終的には愛妾に落ち着くかと」
少なくともゲームのヒロインの性格であれば、現実を知れば自分のやったことの罪の大きさに慄き身を引くと思いますの。エピローグでも王太子の婚約者になったとは示されておりません。王太子ルートのハッピーエンドはまともな貴族の常識を知る男爵家の娘であれば、一瞬の幸福であったと知るでしょうから。
「でも婚約破棄を焚きつけるような女だ。それならば身の程を知らずに王妃の座を狙うのではないか?」
殿下が仰います。『ゲームのご自分』の言動にショックを受けておいでですわね。それも尤もですわ。ですが、申し訳ございません。もう1つショックなことを申し上げます。
「ゲームでは攻略対象が率先して婚約破棄を告げるのです。ヒロインはそれを諫めておりましたわ。飽くまでも穏便な婚約解消をと」
そう、真剣に諫めておりました。元々は自分が略奪し攻略対象が浮気をして不誠実な対応をしているがゆえの嫌がらせなのだと。それに対して攻略対象たちは悪辣な暴虐を許せないと公の場(卒業記念パーティ)での婚約破棄宣言を選ぶのです。
「悪辣な暴虐か……。婚約者の令嬢たちはそのヒロインとやらに何をしたんだい? 命を脅かしたのか? 刺客を差し向けたのかな」
お兄様がお尋ねになります。普通はそう考えますわよね。でも、このゲームでは定番といえるならず者に襲われるとか階段から突き落とされるなんてこともございませんのよ。
「婚約者たちが行なったのは、礼儀作法やマナーについて苦言を呈すること、場違いなドレスで夜会にやってきたから退出させたこと、派閥のお茶会に攻略対象とともに乱入してきたから咎めて参加させなかったこと……くらいですわね。婚約者の仕業ではないのに婚約者が犯人扱いされたのは、祖母の形見のペンダント他私物の盗難、制服を破られたり汚されたりしたこと、教科書やノートを破られたこと、ですわ」
因みに後者の犯人扱いのものは冤罪ですわ。下位貴族や平民の生徒による嫌がらせです。のちにそれが判明し、ヒロインが許すというエピソードがノベライズにございますの。
わたくしの説明に皆様呆れ果てておられます。その程度の罪とも言えないもので断罪したのかと。
「明確に婚約者が行なったことは嫌がらせとは申せぬ。寧ろ常識的で上位貴族としては諫めてしかるべきことではないか」
王妃殿下が呆れて溜息をつかれます。冷たい目でリチャード殿下を一瞥なさいますが、ここにおいでの殿下は無関係ですわ!
ですが……陛下も妃殿下も両親も、わたくしの荒唐無稽と思われる前世の記憶とゲームの話を疑うことなく受け入れておられます。一体何故でしょう?
お父様とお母様、お兄様と殿下であれば、わたくしを愛おしく思い信頼してくださっているからだと考えることも出来るのですけれど。陛下や妃殿下とはお茶会の折に時々お話させていただく程度でございますから、そこまで信用していただけるほどの関係ではございませんのに。
「前世やゲームの記憶を私たちが信じているのが不思議なようだね、ブランシュ嬢」
疑問が顔に出ていたようで、陛下がご下問なさいます。いけませんわ、顔に出ていては貴婦人失格でございます。
「技術の発達した世界からの転生者、前世の記憶を持つ者というものはこの国には少なくないのだよ」
衝撃の事実でございます!
なんでもこの世界では50年に1人か2人は前世の記憶を持つ者が現れるのだそうです。そういった方々のおかげでこの世界は定期的に飛躍的な発展を遂げるのだとか。
それは技術であったり生活様式(主に料理)であったり社会制度や法律であったり。そういえば確かにお手洗いは水洗ですし、上下水道完備で街は綺麗ですし、お風呂も毎日使用可能なものですし、電気の代わりに魔力を使った白物家電もございましたわ。
乙女ゲームの世界だからかと思っていましたが、そういった理由がございましたのね。ファッションなどからフランス革命前のヨーロッパくらいの時代だと思っておりましたが、あのころであれば社会制度も生活様式もこれほど整ってはおりません(何しろトイレというものがございませんからね)のに不思議でしたの。でも転生者がそれだけ多ければ納得ですわ。
そして、乙女ゲームや物語云々も他国を含めると100年に1回くらいはどこかでそういう転生者が出てくるそうです。そして国が混乱に陥ることもあるとか。
「これらのことは各国の王家や上位貴族では正式な記録として残しておる。我が国ではこれまでそういった乙女ゲームがどうのという者はいなかったようだがな」
なるほど、我が国はこれが乙女ゲーム初体験ということですわね。
「乙女ゲームのままというなら、然程混乱はないと思います。主人公の人柄は悪くございませんから、貴族のルールと常識を学べばたとえ王太子ルートであったとしても王妃の座を望むことはないと思います。身分を弁え最終的には愛妾に落ち着くかと」
少なくともゲームのヒロインの性格であれば、現実を知れば自分のやったことの罪の大きさに慄き身を引くと思いますの。エピローグでも王太子の婚約者になったとは示されておりません。王太子ルートのハッピーエンドはまともな貴族の常識を知る男爵家の娘であれば、一瞬の幸福であったと知るでしょうから。
「でも婚約破棄を焚きつけるような女だ。それならば身の程を知らずに王妃の座を狙うのではないか?」
殿下が仰います。『ゲームのご自分』の言動にショックを受けておいでですわね。それも尤もですわ。ですが、申し訳ございません。もう1つショックなことを申し上げます。
「ゲームでは攻略対象が率先して婚約破棄を告げるのです。ヒロインはそれを諫めておりましたわ。飽くまでも穏便な婚約解消をと」
そう、真剣に諫めておりました。元々は自分が略奪し攻略対象が浮気をして不誠実な対応をしているがゆえの嫌がらせなのだと。それに対して攻略対象たちは悪辣な暴虐を許せないと公の場(卒業記念パーティ)での婚約破棄宣言を選ぶのです。
「悪辣な暴虐か……。婚約者の令嬢たちはそのヒロインとやらに何をしたんだい? 命を脅かしたのか? 刺客を差し向けたのかな」
お兄様がお尋ねになります。普通はそう考えますわよね。でも、このゲームでは定番といえるならず者に襲われるとか階段から突き落とされるなんてこともございませんのよ。
「婚約者たちが行なったのは、礼儀作法やマナーについて苦言を呈すること、場違いなドレスで夜会にやってきたから退出させたこと、派閥のお茶会に攻略対象とともに乱入してきたから咎めて参加させなかったこと……くらいですわね。婚約者の仕業ではないのに婚約者が犯人扱いされたのは、祖母の形見のペンダント他私物の盗難、制服を破られたり汚されたりしたこと、教科書やノートを破られたこと、ですわ」
因みに後者の犯人扱いのものは冤罪ですわ。下位貴族や平民の生徒による嫌がらせです。のちにそれが判明し、ヒロインが許すというエピソードがノベライズにございますの。
わたくしの説明に皆様呆れ果てておられます。その程度の罪とも言えないもので断罪したのかと。
「明確に婚約者が行なったことは嫌がらせとは申せぬ。寧ろ常識的で上位貴族としては諫めてしかるべきことではないか」
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