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第1話 プロローグ
しおりを挟む古びた蛍光灯がジジジと唸り、時折かすかに点滅した。
東京・市ヶ谷の雑居ビル五階。映画制作会社「スタジオ曙」の会議室は、すり切れたカーペットと黄ばんだ壁紙に囲まれている。壁に貼られたポスターは、十年前に作った誰も知らない自主制作映画ばかり。今や社員十数名の弱小会社で、倒産寸前の状態だった。
そんな会社に、一本のファックスが届いたのは昨日の午後だった。
白黒の文字が並ぶその紙を、制作部の岸田亮は何度も読み返した。そこにはこう書かれていた。
――国民的大ヒット漫画『律』、実写映画化の権利を貴社に一任する。
岸田は息を呑んだ。『律』といえば、国内外で累計一億部を突破した大人気漫画。ハリウッドを含む大手映画会社が何度も実写化を打診し、ことごとく断られてきた“幻の原作”だった。
「嘘だろ……なんでウチなんかに」
会議室の空気は一気に熱を帯びる。社員たちは歓喜の声を上げ、机を叩いて騒いだ。しかし、その熱狂はすぐに凍りつく。ファックスの末尾に書かれたただ一行が、全員の喉を締め付けたのだ。
――ただし、主要キャスト五名は下記に限る。
プロデューサーの佐藤が紙を広げ、名前を読み上げる。
「颯役、大神社 秀……? 誰だ、こいつ」
「太丸役、古場 青……え、日本一のアイドルじゃねえか。しかも……『役作りのため二十キロ増量必須』って書いてあるぞ!」
「獅子狼役、ミニッツ田代……あの下品芸人だろ。ファンに一番嫌われてるやつじゃねえか!」
「EPEP役、不破 修……四股不倫で炎上中の問題児。スポンサーが逃げるに決まってる」
「ナオミ役、ガブリエラ・リーン……あの反日女優!? どういうつもりだ!」
会議室に沈黙が落ちる。
誰もが「終わった」と思った。
だが、その沈黙を破ったのは社長・曽根崎だった。
「……私は、やる」
誰も信じられないという顔を向ける。曽根崎は静かに椅子に背を預け、呟いた。
「失敗すれば会社は潰れる。だが、やらなければ結局同じだ。なら、最後に賭けてみようじゃないか」
岸田の胸が高鳴った。
あり得ないキャスティング。無謀すぎる挑戦。
だが、ここから始まるのだ。誰も信じなかった映画史上最大の奇跡――『律』の実写化が。
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