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第2話 オファーを出す
しおりを挟むキャスティング会議の翌週、岸田亮は分厚い資料を抱え、六本木の高層ビルにある芸能事務所を訪れていた。
まずは太丸役に指定された、国民的アイドル・古場 青の所属事務所だ。
「二十キロ太る? ――冗談はやめていただきたい」
応接室で向かい合ったマネージャーが、書類を机に叩きつけた。
「青は今、日本で一番人気のあるアイドルなんですよ。雑誌の表紙、ドラマ主演、CM契約が何十本もある。そんな彼に太らせろ? ファンもスポンサーも黙っていません。そんな狂気の映画、願い下げです!」
岸田は必死に食い下がるが、マネージャーは聞く耳を持たない。
「青本人も、絶対に受けません」
会議室を追い出されるように出てきた岸田は、深々と溜息をついた。
――やはり無理なのか。
---
次に向かったのは、炎上中の俳優・不破 修のマンションだった。
エントランスには週刊誌の記者たちが群がり、カメラのフラッシュがひっきりなしに光っている。
「映画? ふざけんなよ!」
インターホン越しに返ってきた声は酒で濁っていた。
「俺は四股不倫のクズ俳優だぞ? 今さら主演映画なんて、誰が観るんだ!」
ガシャン、と受話器が叩きつけられる音。
記者たちの視線に追われ、岸田は足早にその場を離れた。
---
数日後、フィンランドに送ったオファーレターには、短いメールで返信が届いた。
> 「私は日本を嫌いだ。オファーは受けない」
ガブリエラ・リーン。かつて国際映画祭を総なめにした世界的女優。
その冷たい文面を見て、岸田は机に突っ伏した。
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そして、主演・颯役に指定された大神社 秀。
彼については、情報がまったく掴めなかった。
原作者・倉木がファックスに書いた唯一の説明は、たった一行。
> 「十日前、上三川町の牛丼屋で出会った青年」
無名。住所不明。職業不明。
幻のキャスト。岸田は頭を抱えた。
---
その夜。岸田は新宿の居酒屋にいた。
最後の望み、芸人・ミニッツ田代に会うためだ。
相席した田代は、ジョッキを片手ににやりと笑った。
「スナイパー役? クールな天才キャラ? ……無理に決まってんじゃん、俺」
田代は豪快に笑った後、真顔になった。
「でも――やるよ。面白そうだしな」
岸田は思わず息を呑んだ。
製作の火種が、ようやく灯った瞬間だった。
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