キャスティング

ストレートダーク

文字の大きさ
3 / 12

第2話 オファーを出す

しおりを挟む

 キャスティング会議の翌週、岸田亮は分厚い資料を抱え、六本木の高層ビルにある芸能事務所を訪れていた。
 まずは太丸役に指定された、国民的アイドル・古場 青の所属事務所だ。

「二十キロ太る? ――冗談はやめていただきたい」

 応接室で向かい合ったマネージャーが、書類を机に叩きつけた。
「青は今、日本で一番人気のあるアイドルなんですよ。雑誌の表紙、ドラマ主演、CM契約が何十本もある。そんな彼に太らせろ? ファンもスポンサーも黙っていません。そんな狂気の映画、願い下げです!」

 岸田は必死に食い下がるが、マネージャーは聞く耳を持たない。
「青本人も、絶対に受けません」

 会議室を追い出されるように出てきた岸田は、深々と溜息をついた。
 ――やはり無理なのか。


---

 次に向かったのは、炎上中の俳優・不破 修のマンションだった。
 エントランスには週刊誌の記者たちが群がり、カメラのフラッシュがひっきりなしに光っている。

「映画? ふざけんなよ!」

 インターホン越しに返ってきた声は酒で濁っていた。
「俺は四股不倫のクズ俳優だぞ? 今さら主演映画なんて、誰が観るんだ!」

 ガシャン、と受話器が叩きつけられる音。
 記者たちの視線に追われ、岸田は足早にその場を離れた。


---

 数日後、フィンランドに送ったオファーレターには、短いメールで返信が届いた。

> 「私は日本を嫌いだ。オファーは受けない」



 ガブリエラ・リーン。かつて国際映画祭を総なめにした世界的女優。
 その冷たい文面を見て、岸田は机に突っ伏した。


---

 そして、主演・颯役に指定された大神社 秀。
 彼については、情報がまったく掴めなかった。
 原作者・倉木がファックスに書いた唯一の説明は、たった一行。

> 「十日前、上三川町の牛丼屋で出会った青年」



 無名。住所不明。職業不明。
 幻のキャスト。岸田は頭を抱えた。


---

 その夜。岸田は新宿の居酒屋にいた。
 最後の望み、芸人・ミニッツ田代に会うためだ。
 相席した田代は、ジョッキを片手ににやりと笑った。

「スナイパー役? クールな天才キャラ? ……無理に決まってんじゃん、俺」

 田代は豪快に笑った後、真顔になった。
「でも――やるよ。面白そうだしな」

 岸田は思わず息を呑んだ。
 製作の火種が、ようやく灯った瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...