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一話【第一部】
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しおりを挟む早まったな、という冷や汗の出るような嫌な感覚は、長年冒険者をやっていた俺の直感だった。
これがうんざりするほどよく当たる。運悪く水場で魔牛の群れに遭遇した時も、うっかり軽装備で山に入った時熊に出くわした時も、この予感のおかげで間一髪逃げる事が出来た。
しかし、今はこの場から逃走することが出来ない。冒険者として依頼を受けているからだ。まあそれも命あってのものだねだが、冒険者という仕事は信用が第一。まさか依頼主を放り出して逃げたなんて言われちゃあ仕事なんか出来なくなる。
「ヴィンセント? まだ着かないのかなー」
わくわくとした様子で、まるで遠足のように一団に着いてきている貴族のボンボン……いやもとい研究者のアレン・バーツィーがそう問いかけてきた。
まだ着かないもなにも、目的の場所だって確定してないのに何言ってんだこいつは。
「ギルドに情報として入っていた場所はもうすぐですよ」
「そうか。楽しみだねぇ……あ、絶対に傷つけず一体は確保してくれよ。頼んだよ」
「……はあ」
紺色のリボンでまとめられた銀髪に、海のような青い瞳。研究室に毎日籠もっているせいか不健康そうな真っ白な肌と、肉の薄いひょろひょろした身体。しかしその細い首の上には、ヤケにお綺麗な顔が乗っかっていた。
アレン・バーツィーは王都でも有名な研究者だ。モンスター研究の第一人者でもある。この歳で発表した論文は数知れず、それは数多の研究者が生涯かけても一本書けるか書けないかというような代物ばかり。
……つまりは、天才だった。
しかもこいつは家柄も良く、侯爵家の次男坊だ。顔よし頭よし家柄良し、三拍子そろったとんでもない男である。
だが天は二物を与えない。アレンは超ド級の変人だった。
極度のモンスターフェチなのだ。研究対象というよりも、偏愛を注いでいる。研究室にはあちらこちらから採取してきたモンスター達のサンプルが並び、飼育できるものはケージで大切に飼われている。
しかもアレンが最近ハマっているのが、モンスターの子どもか幼体を入手して、育て上げるというもの。それのせいで子育て中の魔狼の群れに飛び込まされた冒険者達はギルドで泣いていた。あいつ頭がおかしいぞ、と。
黙っていれば学者然とした冷たい美貌の持ち主だが、完全なる変人だ。しかしこの変人、金と名声を持っているから始末に負えない。
今回の『テンタクルボール』というモンスターの討伐、採取に関しても湯水のように金をばらまき、冒険者の集団と騎士団までついてきてしまっている。
テンタクルボールは、植物系触手モンスターだ。春頃から秋にかけて獲物を採取し、栄養を溜めて受精し、種子を作る。そして冬は森の奥にある洞窟などに入り込み休眠する。
こいつが結構なレアモンスターで、その種子はひとつ採取できれば大粒の魔石にも匹敵するほど価値がある。高価な薬の材料になるからだ。そのレアモンスターが西の森で時折目撃されている。
しかしそこは数多の魔獣達の住み処で、冒険者でもそうそう立ち寄らない魔の森と言われていた。そこに行きたい、と言い出したのがこの変人野郎だ。
……おっと、口が滑った。腐っても依頼主だからな。奇人変人うんぬんや罵倒は実際口には出さない。
大勢の騎士団を露払いのために森へ差し向け、冒険者の集団に木々を伐採して道を作らせた。体力のないこの男は途中まで馬に引かれた荷台に乗ってきたのだ。馬車を出せとか言い出したら流石にぶん殴っていたかも知れない。
採取したテンタクルボールを乗せるのに荷車は必須、と言うので途中までは許容した。だがこの先は木々を払いながら進まなくてはならないため、荷車は護衛の一部と共に置いてきた。
「ヴィンセント!」
不意に、冒険者仲間の一人が俺に呼びかけた。緊張したその声に俺は剣を抜き、そちらへ駆け寄る。するとそこから見える開けた場所に、目的の『モノ』が鎮座ましていた
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