2 / 100
一話【第一部】
1-2
しおりを挟む「う、わ……でっか……」
予想以上の規模だった。そこは日当たりが良く花畑になっているらしく、のどかな風景の中でうごうごと這い回る触手が異様だ。
今見た様子だと、収縮と膨張をくり返している触手の塊は、田舎の民家ひとつぶんくらいはある。とんでもないデカさだ。これは心してかからないと、全員絡め取られて餌になってしまう。
これは一個体じゃないなと近くの冒険者仲間と視線を交わす。騎士団にも指示を出して、囲い込むように陣をとる。
恐らくテンタクルボールの個体は十以上いる。普通一体の大きさは成人男性とほぼ同じくらい、触手の長さはその五倍はある。蛸のような形状をしていて、頭部らしき部分の真ん中にコアがある。そこを潰せばこいつらは死ぬ。
しかし、このテンタクルボールは寄り集まって大きな集合体となっていた。ひとつずつ切り離していかないとコアがどこにあるか判らない。邪魔な触手を火魔法で焼き尽くしてしまえば話は早いが、依頼主はあくまで生け捕りを希望している。それは難しいだろう。緊張が走り、背中を嫌な汗が流れて行く。
「わあ、立派だねぇ。絶対に一体は無傷で捕らえてね!」
暢気な声援を送るアレンを無視して、俺は手を振って一斉に攻撃の指示を出した。
この騎士団と冒険者の一団をまとめているのは、俺だ。一応は隊長ということになっている。王都の騎士団が何故こんな冒険者に使われることを容認しているのかって?
……死にたくないからだ。
研究者であるアレンを除けば、一般的にモンスターの専門家といえばやはり冒険者だ。騎士達とは接している数が違う。だからこいつらは、平民の冒険者である俺の指示にも従っている。
それもしぶしぶではなく、藁にも縋る思いで。仕事とはいえ、なんだか哀れだった。
「ヴィンセント! ダマの真ん中になんかいる!」
「ああ? なんかってなんだ!」
「知らねえよ! 緑じゃねえもんが見えた!」
弓の名手であるそいつの目は、鷹のように数百メートルを見通す。それを疑うわけではないが、触手の塊の真ん中に何があるって? にわかには信じられないことだった。
「苗床になった動物かも知れないよー。種があるかもー」
後ろからアレンが間延びした声を送ってくる。
なるほど、それはそれで好都合だ。そいつさえ確保すれば、アレンの目的は果たせるからテンタクルボールは全て殺して構わないはず。それに種子が手に入るなら報酬にも期待できる。
「いいか、まだ火は使うな! 触手を払って時間を稼げ!」
苗床とやらを確保する役は、俺しか適任がいなかった。冒険者達は騎士団の援護を目的としていたので遠距離攻撃が得意な者ばかりだ。しかし近距離専門の騎士の中に、迫り来る触手の群れの中に飛び込める度胸のあるやつがいない。
くそったれ、俺がやってやるわ。これで生きて帰ったら馴染みの娼館で豪遊してやる。
特別手当を要求するぞとアレンに言質をとってから俺は愛用のナイフを手にテンタクルボールの中心へ向かった。
328
あなたにおすすめの小説
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる