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五話
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しおりを挟む一番取り乱してるほうの職員が俺の肩を掴んで揺らしてくる。目眩のする頭を軽く振って、俺はなんとなく状況を理解した。
おそらく、たぶんだが……アレンだけは望んで誘拐されたのだ。相手の出方を見るためにそういう事をする男だ、アレン・バーツィーというやつは。
「その貴族、ウィトリーと名乗ってなかったか」
「え、お知り合いですか?」
「いやー知り合いたくねえなぁーーー」
「どっちなんですか!」
「アレンから噂は聞いてる。あー……ちょっと準備して俺も行くわ。少なくともアレンだけは、判ってて出て行ったからお前らは安心しろ。通報も待て」
大人しくしてろよ、と職員達に言い含めて俺はアレンの研究室に入った。
床に散乱した資料などを見るに、専門知識のないやつが荒らしたのではなくアレンが必要な物を選別して持って行ったのだと判る。クロード用のよそ行きの服も一式なくなっていて、裸ではない事が判って少しホッとした。
そして水槽の中で飼われている触手達はそのままで、大量にあった発芽前の種だけがごっそりなくなっていた。持ち去られたモノをひと通り確認して、それから俺は水槽の前に立った。うごうごとガラスの中で騒ぐテンタクルボールの声は、俺には聞こえない。しかしこいつらは、言えば意思の疎通が出来るのだ。クロードの過去を見た今ならば、それが判る。
「よう、お前ら。俺と一緒にクロードを助けに行くよな?」
水槽の蓋をこじ開ければ、俺の声に応えるようにして小さな触手達がわらわらと転がり出てくる。こいつらの見た目は、止まってたら道ばたの名も無い雑草、って感じだ。それが割と活発な動きで跳ねて移動する。
チビ達が俺の開いておいた布袋にぴょんぴょん収まっていくので、従順すぎてちょっと笑ってしまった。知能がこんだけあるのも驚きだが、いや、多いわ。数えるのが億劫になるくらい、チビ触手がたくさんいる。こんなに産ませたっけなあ、なんて笑ってる場合じゃなかった。種とチビ触手の数は、俺がクロードに中出しした数だ。発情期のオークだってこんなヤらんわと思うが、今は貴重な戦力なのでありがたい。
「これはなんかもう、勝ちだな? お前ら期待してんぞ」
ピッ、と最後の一匹が触手の先端を上げて返事のようにした。俺はチビ達の詰まった袋を肩にかけ、足早に研究所を出る。
向かうのは、ウィトリー家の持つ『医療魔術研究所』とかいう奇妙な施設だ。アレンは知らないようだったから、貴族社会では全く無名の施設なんだろう。怪しいったらねえ。
ウィトリーの名が出た時ついでに冒険者ギルドの情報をざっと調べ直したら、ここがすぐに出てきた。研究所なので必要素材があれば冒険者ギルドに依頼を出しているらしい。ただ、指名依頼でもなければシークレットでもない、掲示板に張り出されるほうの依頼だった。
集めた素材の使用用途は『魔術の研究のため』で一律同じで、具体的な事は何ひとつ判らない。隠す気がまったくないのにこの施設の周知がされていないのは、怪しいだけで何の成果も上げてないからだろう。
てか直接納品場所として施設の住所も書かれていたわけだが、ずいぶん迂闊だな? それとも自分達に害成す者などいないと思ってるタイプか? あそこの血筋ってどうしてどいつもこいつもクズで阿呆なのかね。
そもそもクロードが推定死亡となったのは兄が秘密裏に刺客を放ったからだ。しかしヴィノードだけは始末できたが、クロードの暗殺には失敗して全員テンタクルボールに囚われ行方不明。この時点で『クロードは殺した』とあの馬鹿兄が吹聴すれば死んだことにはなっただろう。
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