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八話
1-3
しおりを挟む日が暮れるまで抱き合っていた俺達はアレンの声に応えて世界樹から降り、花畑の一角に火を焚いて食事をすることにした。
「え、……アレンいま、なんて?」
「驚くのも無理はないが、本当にお前が寝てから五百年経っている」
「ご、……ごひゃく……」
ぽろ、とクロードの皿から肉が落ちそうになって、チビがしっかりキャッチしていた。よしよし、お前出来る子だな。戻しとけ。
そーっと触手がクロードの手の傾きを直している横で、俺は木の杯に入った酒をあおっていた。エルフの酒はガツンとくる酒の勢いはないが果実の熟成したいい香りがして、クロードは好きそうだなと思った。勝手にクロードの杯にも注いでおく。
で、五百年だ。そう、クロードがあの日世界樹と同化して眠りについてから本当にそれくらい経っていた。
制御不能に陥ったバッタ野郎の大群のせいであの王国は一瞬で滅び、王族も市民も総出で隣国に難民として流れ込んだ。たぶん奴隷身分にでもなって吸収されたんじゃねーのかな。そっちの国だっていきなり一国分の人口がなだれ込んできたら困るだろ。
荒れ放題になった死の都市を頂いたのが俺達だ。
ここは皆が逃げ込んで行った隣国とは逆側に、広大な砂漠地帯が広がっている。俺のじいさん、ヴィノードの故郷があると言われてる砂漠だ。
その砂地の一部と荒野を五百年かけて森にしちまった。世界樹の知識も少し拝借したが、ほとんどが俺とテンタクルボールとアレンの研究の成果だ。
アレンが知る、前の世界樹が枯れる前の世界には砂漠は存在しなかった。
これは世界樹の加護が失われ土地が乾き土壌が死んでいったせいだと言っていた。だからそこに、水を引き砂を飛ばないように囲い小さな草花の種から撒いた。地面を這うような苔みたいな草から、長く穂を揺らす草に移行し、低木が生え実のなる木が芽吹いた。百年も経てば立派な森になっていた。砂漠なんて何処にあったんだ? ってくらい見事な緑だ。
そこからまた百年経って、世界樹を見上げながら眠り続けるクロードの傍で俺はずっと待っていた。
また百年経って滅んだ国の事なんかすっかり忘れた人間の国が攻め込んできて、俺を含め守護個体総出でぶっ潰しに行った。ハイエルフ達は出る幕もなかった。
もう百年経って、世界樹の傍に花を植え始めた。この花畑は高濃度の魔力の結晶で出来ていて、ハイエルフか俺達みたいな耐性のあるモンスター以外近寄れない。このあたりから、俺がいなくなってからこの森がどうなるかを考え初めていた。
テンタクルボールは基本的に、種の滅亡が死だ。それ以外に死は存在しない。
生まれ、発芽し、花が咲きタネが出来て、またそのタネから生まれる。そこに、人間みたいな死の概念は存在しなかった。
でも俺はいつまで『ヴィンセント』を保って居られるだろう。元人間だった俺はこの『自我』だけが己を表すものだ。それがいつか溶けてテンタクルボールそのものになってしまわないか。それこそ人間であった俺の死ではないのか。四百年も経てば、なんとなくそんな考えが生まれた。
いつだったか考えた、俺の顔した軍勢でも作っておこうか。そうしたらクロードが起きた時、俺がいなくても寂しくないかもしれない。俺の抱き方をチビ達に伝授しておいて、クロードを可愛がってやる術を用意しておいて。それで、それから。俺はクロードのために何が出来る?
考えれば考えるほど、死にたくねーなと思った。
アレンが言うには世界樹にとっての百年なんて、微睡みの一瞬なんだとよ。千年経って目覚めたって、あーちょっとよく寝たかなーってくらいだと。俺はもう倍の年月クロードを待ち続けることが、出来るだろうか。
ガラにもなく俺がそんな風に考えて弱気になってたら、チビ達がわさわさ花摘んでクロードを飾り立て始めた。それで五百年目だ。クロードは、いま漸く目覚めた。
「……ヴィンセント?」
「ん? どうした」
果実酒の杯を置いたクロードが、俺の側までにじり寄ってくる。俺の額に手を当てて、首を傾げた。まてまて、熱なんかあるわけないだろ。まるで人間みたいな仕草に思わず吹きだして、笑ってしまった。
「長く待たせてすまなかった、ヴィンセント」
「……いや」
「待っていてくれて、ありがとう」
「熱烈なおはようの口付けだっただろ? 今夜はまだオヤスミも残ってるぞ」
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