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番外編①
【幻の花】1
しおりを挟むテンタクルボールに花は咲かない。
しかし種はある。ではどこかで花? という過程を経ているんだろうか。それが不思議でつい食事中のヴィンセントに問い掛けてしまった。
「ヴィンセント、テンタクルボールに花はないのか」
「ゴフッ!……ゲホッ、ゴホッ……は、花ぁ?」
「植物なのだから、花が咲いたりはしないだろうか」
小さい触手達が、頭に色とりどりの花を咲かせて飛び跳ねていたらとても可愛いと思うのだが。
ふと俯いた手元のスープの椀には、大きめの野菜がたくさん入った温かいミルクスープが入っている。木のカトラリーでそれをすくって口に運び、こくりと飲み込んでからまた口を開いた。
「しかし種は俺の中だから、ヴィンセントに咲くのか俺に咲くのか……どちらもあり得るな」
「いや、クロード。遠回しにだけど受粉の話は今やめようや」
ハッと我に返って俺は周囲を見回した。冒険者が多く集まる酒場で、酒も飲まず食事だけしている者は少ない。俺達と、その横のテーブルにいる年若いパーティーのみだ。向こうは食欲優先で酒に回す金がないだけのようだったが。
騒がしい店内で、チラチラとこちらを窺っている者達もいる。やはりよそ者は目立つのだろうか。用心するに越したことはないな。
今、俺達は素性などを隠して旅をしている最中だ。髪も目も色を変えて、俺はフードを深めに被り生活をしている。ヴィンセントは素のままだが、この風景にとても馴染んでいるので羨ましい。
実は世界樹の宿主であるとか、テンタクルボールと同化した元人間だとか、ハイエルフとツテのある冒険者だとかは普通知られてはいけないものらしい。最後の一つは問題ないのではと思ったのだが、ヴィンセントは難しい顔をして首を横に振った。あんな変態と友達だと思われたくない、と苦々しく呟く。それ以外にも、伝説級のエルフと顔見知りだとかは本来『普通』の冒険者にはあり得ないのだそうだ。
俺は本当に世間を知らないから、ヴィンセントがそう言うのなら、そうなのだろうと頷くしかない。なので外での会話はそれなりに気を遣っているつもりでいた。
……そうか、花という話題もあまりよくなかったか。
「すまない、場所を弁えず」
「いや、そーいうんじゃなくてな。……あー……クロード、これも美味いから食ってみ」
「……?」
硬く水分のないパンをスープにつけて食べていたら、ヴィンセントが赤い果実を差し出してきた。丁度口にぽんと入ってしまう大きさで、噛むと潰れてしまうほど柔らかい。じわりと染みだした甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がって、慌ててこくりと飲み下した。しかし果実は依然として口の中を占領している。喋ることも出来ず、俺は瞬きをくり返した。
「甘いだろ? この季節だけの、村の特産品。あ、種があるから気をつけろよ。出していいから、気にせず口から出せって! 恥ずかしがってどうすんだよ」
「んっ……ん、んぅ、……」
そんな、一度口に入れたものを出すなんて汚いだろう。
抵抗するとヴィンセントは俺の顎を掴んで引き寄せ、口に指を押し込んできた。種を誤飲するほど子どもではないのだが、ヴィンセントは本当に過保護だ。森を出てから何くれと無く世話は焼かれているが、これでは伴侶ではなく父と子だった。
こじ開けられた口から種を摘まみ上げられて、コロンと木の皿に種が落ちた。果汁と俺の唾液に濡れた指をぺろっと舐めてヴィンセントはナイフを取り出す。皿に残っていた赤い果実は瞬く間に半分に割られ、種を取った状態で再び皿に並べられた。手際が良すぎて声をかける間もない。
ああ、またこんなに手間をかけさせてしまったと内心でため息をついた。
「ほんとにお姫様みたいに大事にしてんだなあー」
「ちょっと、ダメでしょ話しかけちゃ! 今いいとこなのに!」
「はあ、口から種取り出されてるだけでなんであんなにエロいんだろ……」
急に周囲が騒がしくなった。何の事かと振り向く前に、ガシッとヴィンセントに肩を掴まれてしまう。皿の果実を食べるよう促され、ヴィンセントはコソコソ話していた冒険者達の方へ行ってしまった。
「オラ、見せモンじゃねーぞ! 散れ、散れ!」
「ヴィンセント後生だから~」
「ちょっとでいいから見せてよ~エロいよ~」
「フードから鼻と口元しか出てないのに何であんななの? お前の嫁さん淫魔なの?」
ストッ、とヴィンセントの手にあったナイフが木のテーブルに突き刺さった。その軌道上にあった酒瓶が数本、鋭利な切り口で首を落されている。遅れてパシャッと酒がテーブルに散り、床にゆっくり滴っていく。
「ふざけた事抜かしてんじゃねぇ、見んな」
「見るくらいいいじゃねーか!」
「だーめーだ! 減るからダメ」
「ケチー!」
「おう俺はケチだ! ドケチだ、うちの嫁さん見るんじゃねえ!」
じゃれ合いにしては意外と手が出ているので、あれが拳での語り合いというモノだろうかと思う。仲が良くて羨ましい。
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