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番外編①
【幻の花】3
しおりを挟むパシャン、と湯を跳ねさせながらヴィンセントの腕に抱き込まれる。男二人では浴槽は少し狭かったが、湯はギリギリ溢れなかった。ヴィンセントの身体を背に敷くようにしてもたれていたら、一房だけ長いヴィンセントの髪をそっと渡された。
そうだ、忘れていたが俺の思考はヴィンセントにまる聞こえなのだった。俺はまだこの共感能力を上手く使えていなくて、ヴィンセントが読ませようとした事だけ伝わってくる。俺は常に読まれ放題だというのに、少し不公平な気がした。
手の中で、赤く綺麗な髪を指で梳いたりぎゅっと握ったりして弄る。最近、アカシックレコードへの接続もあまり積極的にやっていなかった。必要な魔術を調べるだとか、森の中で現在位置を知りたい時に地図を調べたりだとか、簡単にしか使っていない。
やはりまだ慣れておらず、使用すればそれなりに疲れが出るからもう少し練習が必要だろう。たまにはささいな検索で慣らしておくといいのかもしれない。
丁度良い、テンタクルボールの花の事は、アカシックレコードに記録があるだろうか。
「……クロード?」
「あ、待ってくれ、いますこし……」
ブワッと一気に流れ込んできたのがテンタクルボールの知識だった。
この中には、確かに『花』に関する事は載っていない。では他の植物の各部と、テンタクルボールが重なる部分を調べてみた。葉に、根、触手、若葉、種、それぞれ植物の特徴が出ている。思考し、自立して動けるモンスターとはいえ、やはりテンタクルボールは植物なのだ。
普通の植物なら、種が受粉することを目的として、花は咲く。目立つような美しい花びらや良い香りなどで虫や鳥を誘って受粉行為を手伝わせたりもする。そうして受粉されてようやく種は発芽の準備を整えるのだ。
……種が、発芽の準備を? 受粉、して?
「……あー……あのな、クロード」
バツが悪そうに、ヴィンセントがもぞもぞ動いている。仰いだ姿勢で見えたその顔はうっすら赤く染まっていて、俺の予想と出した結論が間違っていないのだと判る。
受粉をさせる行為。それなら簡単だ、俺の胎の中の種はヴィンセントに抱かれて射精されることで産み落とされる。いつでも発芽できる状態で。それではヴィンセントとのこの睦み合いそのものが、テンタクルボールでいう『花を咲かせる』行為なのか。
「たぶんそうなんだろうな」
「……だからヴィンセントは先程、酒場で」
「お前が全く判ってなかったのは知ってる。でも流石に俺にも羞恥心はあってさ……」
片手で顔を隠しているヴィンセントの耳が、赤い。
照れているヴィンセントなんて初めて見る。あまりにも珍しくてマジマジと覗き込んでしまった。チラ、とこちらを見遣る目が、困惑している。
いつも自信満々に弓なりになっている眉が下がっているし、普段余裕のある顔ばかり見ているせいかとても……今のヴィンセントは新鮮だった。
「おい、クロード?」
「……すまない、ヴィンセント。俺にもこんな感情があったんだな」
「いや、それはその、……めでたい事だけどよ」
「そうか、喜んでくれるか。それなら俺も嬉しい」
ホッとして身体を起こし、ヴィンセントの頭の後ろに手を伸ばした。ぐい、と強く引き寄せて唇を重ねる。湯が跳ねたが気にしている余裕はない。湯の中でヴィンセントの腰に乗り上げ、股間を擦り付けると相手の熱も反応したのが判った。
唇を重ねたまま、時折息を乱して顔を擦り付ける。触れ合った頬が熱くて、覗き込んだ目にはまだ欲情よりも困惑が勝っていた。
ああ、そんなヴィンセントが酷く愛おしい。
いつも俺の身体を快楽漬けにして悶えさせて、ギリギリまで追い詰めて泣かせてくるのに。そのヴィンセントが、羞恥に赤面して戸惑っている姿なんて、堪らない。
ゾクゾクと背に走る快感は、いつもとは違った感覚だった。俺にもこんな雄の衝動があったのかと驚く。いつも昂ぶらせる行為をされているから勃つのだと思っていた。身体の中の器官が、刺激に反応して性欲が高まるのだと。でも、今日のはそうではない。ヴィンセントを愛おしいと思う気持ちでたかぶっていく。
これは根本から違うものだった。相手が愛おしいから、こちらからも愛したくて触れ合いたくて堪らず、欲を隠せなくなってしまうのだろう。とてもはしたなく、恥ずかしい事だが、ふつふつと滾るような凶暴な気持ちが抑えきれない。
「はは、クロード! 珍しいな、俺に食らい付きたいみたいなカオしてる」
「噛み付いてこの衝動が治まるなら、……そうしてしまうかもしれない」
「まあ噛みたいだけ噛んで構わないが。それより気持ち良いことしよう、な」
触手が一気に部屋の中に広がり、俺の身体は蔓に絡め取られた。湯の中で温められた身体に、しっとり触れてくる植物の感触が心地良い。床にポタポタと水滴を落としながら、俺はヴィンセントを見つめた。
これは俺だけの雄で、俺だけのヴィンセントだ。
それを自覚すると共に身体の奥が熱くなって、ドクドクと心臓が早鐘を打ち始める。種が、胎が、俺の身体がヴィンセントを求めて目覚めるのを感じた。
「お前も俺だけのクロードだ。……煽りやがってもう、知らねえからな。特大の『花』をみせてやるよ」
まだ少し照れたように笑うヴィンセントが、しっかりと俺を抱き留めてベッドへと押し倒す。
目眩のするような心地良い口付けは、すぐに熱に飲まれて、滲んでいった。
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