92 / 100
十話【第二部】
1-9
しおりを挟む夜のうちにやれることはやっておこうと、俺は深夜に部屋を抜け出した。
クロードの添い寝は中型の個体に任せている。そばに俺の気配がないとすぐ起きるとか、いれば熟睡してるとかクロード可愛い過ぎないか。
もう誰に惚気たらいいのか分からんので分身個体に惚気ておいた。触手であしらわれたし、聞いちゃいねーけど。
「さて、……怪しいのはどこだろうな。教会なら礼拝堂あたりからいくか?」
深夜になるとさすがに高齢の夫婦や子供達は寝静まっているが、ジェスター司祭はどうだろう。見つかると面倒なので、教会の建物内に無数の小さな触手を走らせ気配をたどった。
司祭は自室のベッドで寝ているようだ。机にはいくつかの開封した手紙や本が置かれている。その中身を調べる個体、本棚や室内を探す個体に分けて行動を指示しておいた。
俺は予定通りに礼拝堂へ向かう。入口のドアには鍵がかかっていたが、こちらはカギ開けも得意な冒険者なので問題ない。昔にくらべ、俺のシーフ技能はだいぶ上達していた。
「メイア教にはあんま詳しくねーんだよなあ。詳しく聞いたのは確か……百年くらい前か」
世界樹教が根底としている多神教の教えとは別に、メイア教はたった一人の神を崇める宗教だ。
しかも神には名前がない。メイアというのは、その神の言葉を伝える巫女をさす言葉だ。
メが女を示しイアが神の言葉を聞く者という意味で、意訳するなら「神託の乙女」とでもいうか。
そのため教会の祭壇にはベールを被り神に祈りを捧げる女の像が置かれている。これはどこのメイア教会でも同じだ。
そしてここの信徒には少しばかり厄介な能力がある。
司祭に魔術の才能があると、祈りの言葉を空気中のマナと反応させ治癒魔法を使うことができるんだ。
メイア教が数百年程度で爆発的に信徒を増やした理由がここにある。
ただしそんな芸当ができるのはほんの一握りで、ほかの司祭は治癒魔法も使えないのに祈りの格好だけして誤魔化していると聞いた。
……ん? その情報源? 変態ハイエルフのアレンが持ってきた話だ。あいつは各国の情勢を調べ尽してクロードの世界を守ろうとしてるし、世界樹教の布教にも熱心だから他の勢力の情報はかなり熱心に集めていた。
俺も「あっちの国見てこい」「次はこっちだ」ってよく手足に使われたわ。わりとしんどいんだよなアレ。
「確か治療に使うのは、祈りの聖杯に満たした水と聖樹の葉……」
祭壇の前に立つと、真ん中には大きな金色の杯があり綺麗な水で満たされていた。
その横には青々と葉の茂る枝が数本花瓶に差してある。
見覚えのある葉を一枚むしり取り口に含むと、なるほどここで『竜酔花』かと納得した。
クロードの調べたこの植物の効果は、麻酔と鎮痛だ。そして酒に酔うような効果もあるという。宗教の洗脳礼拝にピッタリじゃないか。
怪我や病の痛みだけはそれで誤魔化されちまいそうだしさ。
「この水も……葉の匂いがするな」
毎日午前中出かけている司祭が、村で治療行為をするなら夕方から夜にかけてになるだろう。この聖水と葉はその時に使われたものか。
普通の人間にはただの水と枝にしか見えないからこんなところに放置されてるんだろう。
ぺっ、と口にした葉を吐き出して俺は祭壇の杯を持ち上げた。透明な水の底に何か粒状のものが沈んでいる。
躊躇いなく水の中に手を突っ込んだ。
ピリッと嫌な感覚が肌に走る。これ、テンタクルボールの身体にも毒になる水らしいな。ロクでもねぇもん作るよなあ。生の葉より毒性が強いだと?
俺はすぐさま水の中の粒を掴み上げると、腕についた水を祭壇のクロスでゴシゴシと拭いた。
「……丸薬? 葉の収穫に精製までしてるとなると厄介だな」
黒い球のようなそれは半分溶けかけていた。摘まんでいるだけで指が痺れてくるから、恐らく竜酔花の成分を濃くして固めたモノなんだろう。
腰のバックから取り出したミスリルのケースにそれを素早く収め、ちび触手を一体呼び寄せる。
「アレンのとこへ持ってけ」
ピッ、と触手を上げて返事をしたちびは楕円形のケースを大事そうに抱くと、外に出て地面にボコボコと埋もれていった。
根を伝って走れば世界樹の森まではすぐだ。
俺はもう一度クロスで手を拭くと、花瓶にささった枝を掴み上げた。
「あとは竜種をどうしてるか、か。……まずいな昨日一掃しちまってんだけど」
森で大量に積み上がっていた竜種の死体は、大容量の魔法鞄に全て詰め込んである。放置はさすがに勿体なかったからだ。
竜はその種類に関わらず冒険者にとって一番優良な獲物だといわれている。
なにしろ全身が余すところなく使えるんだ。血や目玉や内臓などは魔法薬や魔道具の材料になり、革や牙、爪などは防具や武器に加工して使う。
また、生きている竜は使役して移動手段に使ったり共に戦闘を行なうよう躾けたりもできる。
竜酔花なんか手にした人間が、己の利益のために森で何をしていたのか。
一番最悪の事態から軽めのモノまで、すぐ思いつくだけでもかなり色んな事ができるんだろうなと思った。
「……想像が外れてて欲しいなんて思うのは、久しぶりだな」
ため息と共にそうぼやいて、俺はクロードの待つ部屋へと戻った。
154
あなたにおすすめの小説
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる