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十話【第二部】
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しおりを挟む翌朝早く、ジェスター司祭と子供たちは俺たちに挨拶をするとすぐ「おつとめ」へと出かけて行った。
司祭は、礼拝堂が荒らされていることにはまだ気づいていないようだ。メイア教に朝の礼拝の習慣がなくて良かった。
こっちは夜中のうちにアレンから分析結果も届いているので仕掛けるなら今だろう。さて、クロードには何から話すべきか。
「エディンは大丈夫だろうか……」
見送った後、クロードがぽつりと呟く。
髪をまた染め直したエディンは、顔にも何か塗り込め肌の色を変えて出かけて行った。それでも俺たちに向けて笑って手を振るところなんか、あの年齢にしては大人びてるんだよな。だから余計にクロードは気になるのかもしれない。
クロードはエディンを見送った後からずっと落ち込んだように俯いている。ポンポンと布越しに頭を撫でて覗き込むと、少しホッとしたように頬を緩めた。
「俺たちが居ようが居まいが、エディンの日常は変わらないだろ。変わるのはこれからだ。さて、何からはじめるかな。……そうだクロード、砂漠にオアシスは見つけられそうか?」
「うん……不可能ではないと思う」
話しながら、俺たちは老夫婦には辛いだろう朝の水くみをかって出た。井戸から大きな甕いっぱいに水を汲む。
それと男手が必要そうな仕事はできるだけやってから出ていこうとクロードとも話してたんだ。世話になったしな。
んー、あとは薪割りと家具の移動くらいしていくか?
教会の謎の「おつとめ」のため司祭についていった子供達は十人ほどだったが、あの中で「色」を隠している砂漠の民は何人くらいいるのだろう。国を離れ親を奪われ、脅されて強制労働を強いられているファスタール人は想像以上に多いようだ。
公式に奴隷扱いされているわけではないが、実質そんな状態だという。敗戦国の行く末なんて時代が変わっても似たようなもんか。
さて、新しくアレンから送られてきた情報を整理しよう。
ファスタールは俺とアレンが再生させた、五百年前の虫被害の土地と地続きだ。位置的に隣の国なんだよな。
そこにはエルフ自治領とは比べ物にならない範囲の、広大な砂漠が広がっている。あの砂漠では人が住める土地はほんのわずかだ。
クロードが人として暮らしていた時代のファスタールには国力があった。オアシス都市が機能していて物資が多く流通し、作物の育つ土地が少なくても豊かに暮らしているように見えたという。
ファスタールには砂漠の他に鉱山が数多くありそれらの加工技術も高いんだ。扱う反物も煌びやかで独特な模様をしていたし、貴金属のデザインも周辺国の貴族に人気だった。
それだけ豊かだったファスタールが何故こうも衰退したのか。
アレンがいうには「精霊の加護を失ったから」だという。
「精霊の、加護?」
「あの国が呪術師の国なのは知ってるか。俺よりアカシックレコードのほうが詳しいかもしれないが。……彼らは精霊の力を借りて、風をよみ天候の変化を知らせ災害を予測する。砂漠の民の幸も不幸も精霊次第ってことだ。その力を失ってから緩やかに衰退していったって話らしい」
ファスタールがいくら豊かな国だったとはいえ、もとより砂漠は過酷な土地だ。彼らが発展したのは加護の力あってこそ。
未来が分かっていれば備えができて被害は最小に抑えられる。そういう危機回避の積み重ねで国は成長を止めずにいられた。
その、精霊の加護に翳りが見えはじめたのがだいたい六百年前のあたりだとアレンはいう。
「そんなに昔……なのか」
「オアシスの水量が減りはじめた最初の記録がそのあたりだと」
「俺が苗床になった頃……つまりヴィノードが砂漠を離れて死んだあと?」
「何の関係もない、とは言い切れない。砂漠の民の中で何か事件があったのは事実だろうな。元より砂漠を出たがらない民族だと言われてるし」
北の部族と同じように、砂漠の民も帰属意識が強い。親が子を大事にするだけでなくルーツに対する強い思い入れがあるんだろう。ヴィノードがそこを離れたのは、普通のファスタール人の思考ならあり得ないんだ。
「ヴィノード個人についてはアレンの情報網にはこれ以上引っかからない。俺が知ってるのもテンタクルボールが最初の雄株候補としたってことくらいか……」
そうやってクロードと半分頭の中で話しながら、薪もあるだけ割って老夫婦の指示通り模様替えなんかもして、俺たちは昼になる前に教会を出た。
空はどんよりと曇った嫌な天気だった。
植物の気分に引きずられるわけじゃないが、俺は雨なら雨、晴れるならカラッと晴れたほうが好きだな。
「同感だ。……俺も晴れた空に太陽が見えたほうが気持ちがいい」
クロードが俺の傍らで空を見上げ、そう言った。
フードは目深に被っているものの垣間見えたエメラルド色の瞳と金の髪が眩しい。
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