嫁き遅れた逞しいオメガ、龍人アルファに娶られる

天城

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2話 嫁入りは諦めた


 アルファは特に獣人の特性が強く出た者で、戦に出れば一騎当千となり頭の回転も早いため商才や政治手腕なども持ち合わせているという。まさに国を動かす中心となる優れた性だった。対してオメガは、獣人としての血は濃いものの特化した力を持たず、代わりにアルファの子を孕む能力をもっていた。

 アルファは優秀であるほど繁殖力が弱くオメガの胎を借りなければなかなか子が出来ないと言われている。しかし稀少なアルファに輪をかけてオメガの数は少なかった。それ故に、オメガが見つかるとこぞってどの家門でもその孕み腹を欲しがった。アルファを多く産ませそれを有している家門こそ、政治に戦にと強い発言権を持つからだ。
 アルファが生まれれば家門は安泰、オメガが生まれれば結納金で家は潤う。長くそう言われてきたが例外というのはどこにでも存在するものだ。

 タイラン国で一、二を争う豪商・李(リー)家に生まれた暁月(シャオユエ)こと俺は、十三歳になってはじめてオメガ性と診断された。

 しかし診断した医師も目を擦って何度も結果を見直すほどだった。一般的なオメガの概念と照らし合わせると俺は明らかに異常だったからだ。
 十歳になる前から体格が良く大人に混じって家の手伝いをしていた俺は、船便で届く重い木箱を一人で担いで倉庫に運んでいた。さらには得意の偃月刀(えんげつとう)で外の家門の護衛と手合わせして遊んでいたし、元から身体は丈夫で毎日元気が有り余っていた。
 幼児の頃から兄にくっついて野山を駆けまわって遊び、十代に入ってからは山に入ったら鹿やイノシシを狩って引きずって帰ったりした。

 ――オメガとは特出する能力を持たない孕み腹である、という医者の常識を俺という存在がぶち壊してしまったわけだ。

 俺は《美しく儚げなオメガ》の概念にはどう考えても当てはまらない。正直なところ医者の絶望顔が哀れ過ぎて、診断のやり直しに応じようかと思ったくらいだった。

 だが周囲の驚き具合に反して俺は結構冷静だった。むかし家門の大規模な宴会の最中に、小さな子が俺の腕を掴み「私のオメガだ!」と叫んだことがあった。
 その時は周囲も俺も、勘違いだろうそんなわけないと苦笑したものだったが。可愛らしいその子どもは泣いて俺から離れず、宴席を抜けてあやしていた俺はその子が眠るまで側にいた。

 そのうちその子の身内が迎えに来たので渡してしまったが、その時の出来事が心のどこかに引っかかっていた。診断結果が出た時「ああやっぱりそうなのか」と俺は納得してしまったんだ。
 次にいつ逢えるともわからないあの時のアルファが迎えに来るのを俺は密かに待っていた。まだ小さかったからあの子も本当にアルファと診断されたかどうかわからないが。

 五年は待とう、と思っていたらいつの間にか十年が過ぎていた。あの時あの子どもが五・六歳だったとしても、これだけ経てばもう第二の性がわかっている頃だ。それでも迎えは来なかった。
 まあ話はそう簡単にはいかないんだ。俺は誰にも娶られないまま二十六になってしまった。だから父も諦めて俺をロウ将軍へ嫁に出したんだと思う。

「……いや、でもこれでようやく吹っ切れたな」

 屋台で真っ赤なサンザシの刺さった串を買い、焼餅(シャオピン)を囓りながら俺はこっそり笑った。ちょっと晴れ晴れとした気分だった。

「嫁入りは諦めよう」

 実家に帰ったら父にはそう言っておこう。オメガとしては結納金などで家に貢献できないのは申し訳ない。しかしロウ将軍くらいしか貰い手がなかったものをこれからまた苦労して相手を探す必要はないだろう。
 商家はこれから一年で一番荷の多い時期に入る。立て続けに市井の祭りと皇宮内での祭りが催されるからだ。そこに俺という労働力がいればそれなりに役に立つはずだから、出戻ったって邪険にはされないだろう。
 繁忙期を理由に問題を少し先延ばしにして、じりじりと延長していけばいい。父は最近、農地の開拓の方にも出資しているようだからそちらの手伝いをすると言って、農村にしばらく逃げ込んでおくのもいいな。農作業はかなり力仕事だと聞いているから鍛錬にもなるし俺にぴったりだ。

「兄さん、兄さん、採れたてのナツメがあるよ! お土産にどうだい」

 不意に声をかけられ振り返ると、青々とした綺麗なナツメの実が籠に積まれていた。味見に、と差し出された実を囓るとシャクッといい音がする。瑞々しいし爽やかな香りが妹の好みに合いそうだ。まだ時期が早いのか甘みは控えめだがこれはこれで美味しい。

「一袋頼む」
「まいどあり! おまけしとくよ」
「ありがとう」

 笑って麻袋を受け取るとずしりと結構な重みがかかる。金を払って市場を通り過ぎ、いろいろと買い込みすぎたかなと思いながら帰路を急いだ。早く帰らねば俺の分の夕食の用意はないと言われそうだ。まあ、今日の報告だけで夕食の席は大波乱だろうが。父はいいとして兄と妹が騒ぎそうなんだよな。

「ま、なるようにしかならんだろ……」

 もとより俺はあまり落ち込まない性格だった。楽観的過ぎると兄妹からは苦情を言われるが持って生まれた性質ならば仕方ない。オメガらしくないオメガ、嫁き遅れのオメガ、逞しすぎるオメガ、といろいろ呼ばれてきたが今後はそれに《嫁入り前に旦那に死なれたオメガ》という言葉が加わるのだろう。
 俺が心配しなくとも、恐らくもう縁談は来ないだろうな。

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