魔法使いは退屈な商売

小稲荷一照

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金曜日~誘拐~

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「なぁんかチョロくね?こんなんにあのヒトらやられたン?ダサくね?」
「俺らがマジんなりゃこんなもんっしょ」
「俺ら、チョーやばくね?」
「まじやァべっしょ。こうゆうのなんての政権奪取?」
「聖剣ダッシュ?かっこいいじゃん。それ」
 純一はヒネリのない頭の悪い会話だ、と思いながら意識が回復しているのを感じた。
 ヘルメットのバイザーがテープで覆われているのに気がついた。外はまだ明るいらしい。グローブやジャケットの上から手首と膝で左右それぞれ腿と肘先をそろえてテープのようなもので固定されている。コイツら頭は悪いが手際は良いな、純一はそんな感想をうかべてそのまま狸寝入りをしていた。
 ポーン、ポーンと軽快な電子音とメッセージが何処かを指示している。カーナビのようだ。高速道路のインターチェンジへ向かっている。状況は分からないが、車に乗っている間は殺されることはなさそうだ。純一はオーバーパンツの下のズボンのポケットに携帯電話が残っていることと、耳元のハンズフリーの無線リンクヘッドセットが取り上げられていないことに、安堵したものの、今掛かってこられると困ると思った。いや、それともかかってきた方が良いのか?
 つまるところ、そのくらいに状況の判断材料がなかった純一は、まぁいいや、としばらく大人しくしているコトにした。
 男たちは高速のサービスエリアで休憩をとってまた走り出した。
 小一時間も高速道路を走り、純一が降りたこともあるインターチェンジを通過したことまでは分かったが、下道に入ってしまえばどこをさまよっているか分からなかった。ただ後半酷く運転ペースが安定して信号停車がない緩やかなスラロームだったことから、どこかの田舎の川沿いなのだろうとアタリは付いた。しばらくするとカーナビが聞いたことのある人造湖の名前を告げた。けっこう来たなぁ。そんなことを思っていた。ヘッドセットがたまにカチカチと不安げな音を立てていた。携帯の方はまぁいいとして、いつ電池交換したっけ。純一はそんなことを考えた。
「おら、ついたぜ」
 そんなことを言われて純一は乱暴に引きずり落とされた。思わず呻く。ポリカーボネイトのプロテクタの入ったスーツもネックガードもヘルメットも関係ない。死にはしないが不意をついた衝撃はやはり痛い。せめてと小石を一つ拾う。
「お、生きてた、生きてた」
 実に不愉快な表現で純一の状態を男が評する。
「ズーっと黙ってるから拉致ったときにやり過ぎて殺しちゃったかと思ったぜ」
「ライダージャケット来てるヤツって加減がわかりにくいんだよなぁ」
「台車持ってきたぜ」
「ここはドコだ」
 純一は聞いてみた。
「さてドコでしょう」
「まぁ、どこでも大して変わりゃしないさ」
「オマエをバーベキューパーティーに招待しようってトコかな。ブタさん」
「お、うまいねぇ、キャンプ場だけに」
「しかしこんなとこに冬に来てもなぁ」
「ばぁか、こんな季節でもなけりゃ、こんなこたァできねぇだろ」
「で、カギはどうしたよ?」
「先週、坂上が来てコレだってさ」
「うーっし、したらブタさんをドナドナして俺らは帰るか。レンタカーもさすがに返ってねぇとヤバいだろ」
「ばぁか、ドナドナは牛だろ」
「あ?そうだっけ?まぁいいじゃん。お使いも終わったことだし俺らの仕事はオシマイ」
「仕事つうか、まぁドライブみたいな感じだけどな」
「ヨソの大学行ってラチって監禁て、どんだけ物騒なドライブだよ」
 しばらく台車で運ばれると、ジャラジャラという鎖の音がしてドコかに閉じ込められた。表では男が鎖を戻している。
 少し周りの音を聞いて、純一は身体を捩ってみる。ネットのバイザーが上がらないと周りも見えない。不自然な姿勢で膝立ちになって、胡座に組み直し、座る。台車の上から純一は転げたが、ソレはまぁいい。もう一回座り直して、ヘルメットのあごひもを指先でジリジリ緩め、猫が頭をかくような姿勢でつま先でバイザーの下を何度か叩く。
 ドコだか分からないが、埃と枯れ木の匂いがする倉庫、薪と炭が積んである。
 耳にイヤホンマイクの小さなヘッドセットが残っているのを確かめて耳元のリダイヤルスイッチを押す。
「もしもし、純一さん?無事?今ドコ?」
 ワンコールで紫が緊張した声の出た。
「今のところ、無事。どこかの倉庫に放り込まれてひとりになったから電話してる。誘拐されたみたい。小林さんか、斎さんか、水本先生か、赤木先生か、まぁ誰かに相談して助けてくれると嬉しい」
「ウレシイ、って。いちおう斎さんと赤木先生に連絡した。斎さんが小林警部に連絡してくれて、いま警察署。あ、小林さんが電話代わってくれって、代わるね」
「もしもし小林です。誘拐されたって聞いている。状況はどう?電話してて大丈夫?」
「誘拐犯は四人でした。みんな若い男ですが、指示した犯人は別にいるようです」
 電話の向うでホッとした雰囲気がある。純一は高速道路をどこで降りたかということと人造湖のそばのキャンプ場かピクニック施設の倉庫のようだと伝えた。少しすると小林警部が、携帯電話会社の基地アンテナ状態を確認して純一の推測が大体あっていることと、県をまたいでの合同事件の上に過疎地でアンテナの密度が低く複数の候補地があるので少しかかる。晩飯時にはどうやっても間に合わないが、日が変わるまでには助けられるだろう、と見込みを伝えた。ワンボックスワゴンのレンタカーなのはすでに確認して、インターチェンジの乗り降りが分かっているので、あとは手続きの速さと作業時間だけと小林警部は自信を見せていた。
 日が落ち空気がしっとりと冷たくなってきた頃までかかっても純一の足と腕を戒めるテープは剥がれなかった。ひとつには純一が男であるコトから容赦がなかったこともあるが、ライダースーツが体の線を守るように作られているので、テープと純一の動きを緩く逃がしていたこともある。せっかく握った小石だったが角が甘すぎて、テープに傷がつけられない。暗くなる前の数時間で進んだことといえば、ブーツのバックルを少し緩めただけだった。三十分毎に純一の状況を確認するための連絡が入った。
 少し前に誘拐された先あたりの警察署に到着したが、オフシーズンの田舎の観光地ということであまり多くの人員がなく、既に始めた分には純一はまだ引っかかっていないということだった。こちらの県の応援が小一時間もすれば集まる。いま、レンタカー会社に残っていた免許証のコピーの写真を慶子に見せて調べてもらっている。そんなことを言っていた。
 いま、こっちの県の応援の人が来て、一気に進むと思うから頑張って。そんな風に紫が励ましてくれた頃、表で車の気配とヘッドライトが複数見えた。純一は紫に警察の人に変わるように告げた。
「もしもし、ナニか動きがあったんだね。いまこっちも急いでいるから、十分でも五分でも時間を稼いでくれ」
「分かってます。お願いします。電話は繋ぎっパにしますが、気がつかれるとマズいんで、そっちは音止めてください」
 そう言うと純一はヘッドセットを緩めたブーツの裾にねじ込む。
 しばらくすると複数の車のドアの音がして、幾人かの足音がした。やがて戸口の鎖が解かれる音がして三人の男が入ってきた。
「お、すげー、メット自力で抜いだんだァ。頑張るねぇ、コイツ」
「テープもだいぶ頑張ったみたいだな。端が浮いてる。でもまぁチョォット時間切れだな」
「松本、グッジョブってとこか」
「女じゃないのかってボヤいてた割りにはチャンとやるよな、こういう事」
「まぁ、車ン中で暴れられても困ると思ったんだろ。いくらレンタカーでも」
 倉庫に入ってきた男たちは気楽そうに言った。
「おい、なんのつもりだ」
 純一はいちおう聞いてみた。
「お、しゃべった」
 懐中電灯で純一を照らしながら言った。
「そりゃ、しゃべるだろ、まだ生きているんだから」
 相棒の軽口に実に物騒なツッコミを入れる。
「さて、まぁ、とりあえず、持ってくか」
 答える仕草もなしに、そう言って乱暴に純一の髪の毛をつかんで姿勢を変えさせると台車を体の下に滑り込ませて、台車の傾きと純一の頭の動きで、純一の身体を台車に載せる。
「お、うまいねぇ。そういうの」
「暴れないな、拍子抜けだ」
「助けでも呼んだかな。携帯探してないって松モッちゃん言ってたろ」
「ああ、まぁ、そうだがこの格好だとさすがに心配いらねんじゃね?」
「もう助けは呼んであるぜ」
 純一は言ってみた。
「だってさ。どうする」
「警察の刑事さんなんだって?」
「すぐ来てくれるってさ」
「なんて人?」
 退屈していたのか、興味を引かれたのか手隙の男が聞いてきた。
「小林警部」
「ほうほう、だがそこは波越警部とか玉村警部とかだといい感じだぜ、小林少年」
「コイツは、畑中だろうが。なんだ小林って」
「そんなことでは困るな、明智君。ってからかわれたことなかったか。オマエ、折角、名前が明智なのに」
「キンカンとか呼ばれたことはあるけどな」
「そっちか。三日天下とかね」
「修学旅行京都で本能寺跡は見てきたけどな」
 男たちはガラガラと純一を台車に乗せていい加減に舗装された道を広場に向けて運んで行く。
 広場には三台分のヘッドライトがあった。
 押してきた男たちが離れた。純一はとりあえず男たちの顔を覚えることにした。そして読み取れた車のナンバーを読み上げてみる。ナンバーが読み取れない車は車種、特徴を口にする。
 男は全部で八人いた。身なりはバラバラだったが、全体に剣呑とした雰囲気は共通していた。
「ダルマみたいだな」
 棒を持った男が言った。
 ヒュン、とうなる先の速さは闇では殆ど見えない。釣竿だった。
 かなり遠い間合いで純一の頭を捉えた。鋭く痛い。
「オヤジを殺したのはオマエだな」
 もう一発。純一は身を竦めるしかない。
「なに?なんのことだ」
「ばっくれるな」
 もう一発。痛みに身を捩ると台車から転げた。
 また、飛んでくるが軽いのでジャケットに阻まれて痛いという程ではない。
「だれのことだ。本当に心当たりがないんだ」
「分からないのか。おい、テープ解いてやれ。――忘れるなよ」
 純一は引きずり起こされ、頭頂にバチンと衝撃を受け意識を失った。
 戒めのテープをナイフで切られジャケットを脱がされてゆく。重てぇなぁ、このジャケット、と文句を言いながら作業する男。余計なお世話だと思いながら、純一は身体が動かない自分を実感していた。
 湖のどこかにいる純一をどこかで探している誰かがいるはずなのだが、妙に静かだ。
 ぼんやりしていると、純一は寒さを感じた。ティーシャツまで脱がされたようだ。
 意識が戻ったが、まだ身体は動かない。土下座の姿勢を取らされているようだ
 だが、激しい痛覚があった。
「お、起きた。起きた」
 唸りと共に背中の肉が焼けた。
「動くと危ないぜ」
 身じろいだ純一の左耳に激痛が走る。
「先端音速は超えてるから、軽くても耳くらいはちぎれるぜ。まだ付いてるみたいだけどさ」
 もう一発来る今度は肩を竦めて受ける。
「お、そうそう。俺はまだ聞きたいことがあるから、お話したいんだよね」
 ヒュばっ。
「耳がいらないってんならその後で飛ばしたげるから」
 ヒュばっ。
「まぁ今は俺の聞きたい話に応えてよ。OK?」
 ヒュばっ。
「ガァっ」
 鈍い音と共に純一の左耳に竿が食い込む。純一は激痛と出血を感じる。
「お、悪い、悪い。今のはワザとじゃない。手が滑った。まだまだ練習だからな」
 ヒュばっ。
「でもまだ付いてるしさ、右耳もあるしさ」
 ヒュばっ。
「気にするな」
 ヒュばっ。
「俺の名前知ってるか。知ってるな」
 ヒュばっ。
 痛みに呻きうずくまる純一に時間を与えるように竿が止まる。
「ちょっと待ってやるから、コッチちゃんと見ろよ」
――誰だっけ見たことはあるがどこでだっけ。
「名前は知らない。俺がのした強姦魔のひとり」
 ヒュばっ。
 竿が唸るのに慌てて純一は身を竦める。
「市川玄太だ。覚えておけ」
 ヒュばっ。
 誰だっけ、あーなんかそんな名前の偉そうなオヤジがいたなぁ。と思ったところで死んだ県議会議員の名前を思い出した。
「俺は知らない。オマエんトコの運転手がトチっただけじゃないのか」
 時計の秒針のような釣竿の打擲の中で純一は頭を守るように蹲りながら、そう言った。次第に動くようになってきた身体で確かめると耳はたしかに深手だがついている。
「ふざけるな!」
 ばしゅっ。
 これまでのはたしかに手を抜いていたと思える重みと痛みを背筋に感じて純一は唸る。
「アニキが街中でスピード違反なんかする訳ないだろ。オヤジの秘書として勉強していたんだぞ!立場を考えろ!このあほう!」
 純一は、背中のどこが痛いのか分からないような状態になっていた。
 とはいっても、県議会議員のアレは交通事故で、どうしてそれが純一に関わるのか、どうしても純一には納得できなかった。
「アノ、オヤジが訴訟取り下げの示談に自信を持っていた!あの女の弁護士も、女が納得するなら、という条件で話をオヤジが付けていた!あのオヤジがだゾ。二十歳やそこらの小娘相手に押し負けるわけがないだろ!」
 細い釣竿がまだ温まらない冬の夜風に哭くように唸り、デタラメに純一の背中に振り下ろされる。やがて市川は息が上がった。
「本当に知らないのか」
「知らない」
 やっとのことでそう言った純一の言葉に、市川は落胆のため息を漏らす。
「もういいや。なぶり殺せ。立てなくなるまで引き起こして、立ったまま殴り殺せ」
 市川は悲しみと共にそう言った。
 純一は引きずり起こされ、殴られた。
 よろめき下がったところに待ち構えていた拳が飛んでくる。純一は、引いた足を軸にクルリと廻ると、膝の上に相手の踏み込んだ膝を通し、そのまま相手の脇の下を肘でこじり上げ、残った足を払うと男は顔面から派手に地面に飛び込んだ。投げられた男の残った踵は、風車のように後ろから詰めていた男を蹴り飛ばす。仲間に蹴られた男がよろけて下がる。
 場がザワついた。
 アレだけ静かにしていた純一がまだ余力を残していたことを、男たちは驚いた。
 そしてニヤリと笑った。
 彼らは正直、動き足りない、と思っていたのだ。
 相手をたたきのめすことが楽しい、殺すのが目的でない彼らにしてみれば、ゲームはゲームとしてもそれなりに歯ごたえがなくてはつまらない。そう思っていたから、純一がようやくやる気をみせたのだとすればソレは願ったりだった。一人ヤラれたがまだ七対一いや市川は飽きたようだから六体一か。まぁ俺がやってやるさ。そんな感じだった。
「誰からだ」
「俺がいきたい」
 蹴られた男の仲間うちの言葉に純一が反応する。
 純一の左貫手が尋ねた男の顎関節を捉え、さらに回った左足が腿を払い、男の頭はほぼ真下に後頭部から落下した。コレで五対一。
「やるじゃん」
 名乗りを上げた男に隙はなかった。
 純一よりもやや細いが体格は互角で、レンチを得物に持っている。どちらかというと、体格で苦労してそれでも喧嘩は好きというタイプ。
 得物で間合いをかき回し純一が手を出すのを待っているようだった。ジリジリと追い詰められて行く。
 台車を背にして追い詰められる純一。純一に下がるはないと大ぶりで繰り出されるレンチ。純一は胸元に押し込んで交わし、体を引きながら閉じきった肩口を押し込む。男がレンチをバランスウェイトに振り回すのに、たたらを踏んだ純一がとっさに掴んだ台車を男の蹴り足に送ると男は倍する勢いで地に墜ちた。これで四対一。
 迂闊な侮りや油断や幸運があったとはいえ、さすがに男たちの笑いが引っ込んだ。力競べをしていられるのも余裕があるうちだけだった。
「おいおい、冗談じゃないぜ」
「マサ、手伝え」
 明智と呼ばれていた男が台車に載せられていたときに絡んできた男に言った。
「えぇ~」
「市川じゃぁ、縛ってないコイツはムリだ。オマエが一人でやりたいなら止めんが、それなら市川から釣竿借りてこい」
「まぁそうだな。菊池、逃げないように照らしてくれ。ムリに頭じゃなくても良い」
「おう。悪いが俺は江田にも勝てる気がしない。おまえらに任せる。頑張ってくれ」
 素直な菊池の言葉に男たちの空気は柔らかくなった。
「俺は良いのか」
 ひとりだけ用事を振られなかった台車を押していた男が少し拗ねたように言う。
「合気か拳法かしらんが、打撃系を上手く裁きやがる。まだ底が見えんから、ザキは俺らが抑えるまではフォローだけしてくれ。気をつけろよ」
「じゃあ」
「いきますか」
 明智と呼ばれた男は見たところグラウンド系の格闘スキルを持っていた。柔道の崩し技主体の選手かも知れない。いずれにせよ、体格で劣る純一をマサとザキに上手く任せる形で追い詰めていった。マサはマサでアウトレンジ系のボクシングスタイルと短く持ったナイフで純一の神経を減らすような動きをする。ザキはあまり積極的には討ってでないが、常に純一の背後を埋める形でフォローしているために純一にはマサの隙をつく余裕もなく、明智の潰した間合いを毟ることもできず、動く余地を奪われていった。
 結局、純一はマサの挑発に乗らざるを得なくなり、明智をいなしてマサの引肩を掌底ではたき落とした背後からザキにスタンガンを押し付けられ、純一はついに意識を落とした。
「おぁ、いてぇ」
 マサが尻餅から起き上がった。
「なんだ今のコサックダンスみないな動きは」
 純一のモーションをハラハラしながら眺めていた菊池が訊いた。
「まぁ要するに明智を交わしつつ、マサの足を刈って突き倒して間合いを稼ぎたかったって所だろう。大内刈りの変形かな」
 ザキが言った。
「後ろをとってるザキと、でかくて動きの小さな明智に比べたら、まぁ俺だろうしな」
「まぁそうなると、次に狙われるのは位置的に当然オマエだったな、菊池」
「いちおうテツのヤツのやられ方みてたから足は交わせてたんだけどな。明智に手があった分、間合いが伸びてた」
 明智の指摘にぞっとする菊池だったが、そこにマサがフォローを入れた。
「まぁ、しかし、どうするよ」
「どうもこうもなかろうさ。ここまで来てはな」
 最後が三対一というのは気持ちよい終わり方ではなかったが、もともとヤることはヤる腹で来ていたので、まぁそうするかということになった。
「バールもってこい。ノビてる間に一思いにやってやろう」
 明智が菊池に言った。
「そのまま沈めるから三本な。テープもいるぜ」
 マサがさらに言った。
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