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11・初めての夜のお勤めの試練
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「えぇと、アニーとバビーが200mlだから匙で10杯で……それから……シンシアが140ml……7杯ね。」
私がここにきて、2週間たった穏やかな昼下がり。
子供たちの名前を書いた紙の上に置いた哺乳瓶に、壁に貼られた一人一人に決められた分量のミルクをいれる。
そこに、やや熱めに温度の保たれたお湯を入れて一度蓋をして撹拌しミルクの粉を溶いた後、蓋を開け、あらかじめ作っておいた湯冷ましを注ぎ入れると、今度はゴムで作られた吸い口の部分をはめ込んで、泡立たないように撹拌して、しっかりとミルクを溶かした。
まじまじと哺乳瓶の中を確認し、頷く。
「ちゃんと溶けたわね。」
出来上がったミルクの入った哺乳瓶を蓋つきの籠に入れ上からナフキンをかけて厨房を出ると、私は赤ちゃんたちの待つ養児室に入った。
中ではすでにおむつ交換を終え、待ってましたとばかりに大泣きしている赤ちゃんたちと抱っこしているいつものメンバー。
私は籠にかけたナフキンを外すと、一人一人に哺乳瓶を渡していく。
「温度は大丈夫そうですか?」
「えぇ、ちょうどいい温かさよ。 作るのも上手になったわね。」
「よかったですわ。」
アニーを抱っこしながらミルクの温度を確認して褒めてくれたシスター・サリアの言葉に、私はほっと胸をなでおろす。
ミルクには赤ちゃんに飲ませるのに適切な温度というものがある、らしい。
最初の調乳の時に習った事だ。
一度沸騰させたお湯を、ちょっと高い温度のお湯が程よく冷めたまま温かいように置いておける『保温機能』という便利な機能の付いたポットに入れて置いてあるため、それを作るミルクの全量の半分まで入れてから、粉ミルクを決められた量だけ匙で量って入れ、蓋をしてよく溶かしたら、今度は沸騰して冷やしてある白湯を、作ると決めた量の記された線のところまで入れて、もう一度撹拌し、赤ちゃんが飲むのにちょうどよい温度(人間の体温と同じくらい)にする。
粉ミルクと哺乳瓶、そしてこの保温機能の付いたポットは、院長先生がこの孤児院を作った時に考え付いたものらしい。
それまでは乳の出ない母親の子供や孤児は山羊や牛の乳に砂糖を混ぜたものを与えていたらしいが、院長先生が考えたこの粉ミルクと使うようになってからは、圧倒的に子供の死亡率が減ったそうだ。
甘い香りのするミルク色の粉。
ちょっと舐めてみたけどうすら甘い程度で、全然美味しくなかったそれは、人間の赤ちゃんが育つための栄養素をとてもたくさん含んでいるのだという。 しかも、熱々の沸騰したばかりのお湯で作るとなぜかその栄養素が壊れて意味がなくなってしまうらしく……保温機能の付いた熱めのお湯で入れて、白湯をたす、というひと手間があるらしい。
やっと慣れてきたこの作業、最初はすごく大変だったが、んくんく! と、頑張って哺乳瓶の乳首に当たる部分を口いっぱいに含み、頑張って飲む赤ちゃんを見るとそんな苦労も忘れてしまう。
(赤ちゃんって、大変だけど可愛い。)
必死にミルクを飲む3人の赤ちゃんを見つつ、ミルクを入れてきた容器をテーブルの上に置くと、私は床に置いてある使用済のおむつの入った桶を手に取った。
「じゃあ、おむつを置いてきます。」
「ありがとう。 そうそう、ミーシャ。 それが終わったら夕食までの間、少し昼寝なさい。 今日は初めての夜当番でしょう?」
シスター・サリアの言葉に、私は頷いた。
「わかりました、じゃあ、これを終えたら少しお休みいただきます。」
おむつの入った桶をもって、私は部屋を出た。
洗濯室の使用済のおむつを入れておく水と洗剤の入った桶にそれを浸け込み、手を洗って宿舎棟に戻る。
今日私は、消灯後から明日の朝までの赤ちゃん見守り当番を行う。
これまでに2度、ダリアと共に夜当番に入ったことがあるのだが、独り立ちだ。
今の大きさの赤ちゃんたちは夜にミルクを飲むこともないため、朝まですやすや寝てくれる。
時折ぐずる子を寝かしつけ、見守るのが仕事だ。
始めての一人当番だが、困ったことがあれば、院長先生が来てくださるという事だし、ここにきてもう2週間、2回の夜当番も大丈夫だったし、何より可愛い赤ちゃんの寝顔を独り占めできる。
実は少し楽しみにしていたのだ。
私室に戻り、髪を包んでいた三角巾を解いて、靴を脱いでベッドに横たわる。
まだ明るい中で寝るには罪悪感が多かったけれど、私はそのままうとうとと夕食の鐘が鳴るまでお昼寝をした。
「……どうして? なんで泣き止まないの?」
『みんな、最近は夜はしっかり寝てくれるから大丈夫よ。』
というダリアの前回の夜当番の時の言葉が頭に浮かぶ。
「どうして今日は寝てくれないの?」
私はベッドに横にすると泣いてしまうシンシアを抱っこし、トントンと背中を優しく撫でながらあやしていた。
いつもは一番よく眠っているはずなのに、今日は消灯時間を過ぎてもなぜかお目目パッチリのシンシアを、私はずっと抱っこしている。
と、言うのも、抱っこしていると時折、そろそろ寝そうだと思うときがあるため、そのたびにベッドにおろすのだが、そうした瞬間パチッと目を開けてぐずる。
そうすると、すっかり眠ってしまっているアニーとバビーも目を覚ましそうなそぶりを見せるため、慌てて抱っこすると繰り返し、もう、降ろすのをあきらめて抱っこしながら過ごしていた。
抱っこしている間のシンシアは、最初は寝そうになっていたが、今はなんとなくぐずぐずとむずがゆがって、寝るそぶりもなくなってきた。
「なにが良くないのかしら?」
私はテーブルの上に、みんなから教わった、赤ちゃんのお世話の仕方を書き綴ったノートを広げた。
「おむつ、ミルク、お洋服の皺……全部やったわ……」
シンシアをあやしながら、ノートを最初から見直す。
「いっぱい泣いたから、喉が渇いた? 泣いてお腹に力が入ったからおむつが濡れた? それともお腹が減った?」
考えて時計を見る。
「でも、30分前に飲んだばかりだし……」
(というか、まだ30分しかたってないんだわ、こんなに長く抱っこしてたのに。)
う~んと唸りながら、時折ぐずるシンシアに私はどんどん不安になる。
「もしかしてどこか痛いのかしら? お腹? 頭? もしかして抱っこばかりしてるから服の皺が気持ち悪い?」
そうね、一度服を整えて抱きなおそうかしら、と、一度ベッドに寝かせた。
が。
「……う……ほにゃ! ほんにゃぁ! ほんにゃあぁ!」
「え!? ちょっと待って頂戴、すぐ、すぐ抱っこするから!」
シンシアは大きな声で泣き出たため、私は慌てた。
「待って、待って頂戴、お洋服を綺麗にするだけよ、すぐ抱っこするわ。」
背中の服の皺を取り、首に気を付けながら抱っこするが、火が付いたように泣きだしたシンシアは止まらない。
「ああぁぁぁぁ……。 どうしてかしら? 何が良くないのかしら?」
抱えられない頭を捻り、大泣きするシンシアを抱っこしたまま何度も赤ちゃんのお世話方法のノートを見るが、何度見てもすべて一度やった事ばかり。
泣き止んでくれないシンシアの声は大きくなっていく。
小さなお顔も握っている手も真っ赤になって小さな体をぐずぐずと捩る。
「こんなにお顔が真っ赤になったことあったかしら? 本当にお熱でも出たのかしら? どうしたらいいの?」
シンシアを抱っこしオロオロしていると、別のベッドからふにゃ……と声が聞こえた。
「え?」
ベッドの方を覗き込むと、バビーも顔を歪め始める。
「あ、起きちゃう。 大丈夫よ、バビー、ねんねの時間よ。」
慌ててシンシアを支えながら、バビーの胸を優しくとんとんすると、眠りそうになるバビー。
しかし、シンシアがさらに泣き出した。
「シンシア、大丈夫、大丈夫よ? バビーが起きちゃうわ、ちょっと待って頂戴、大丈夫よ?」
そんな私の声掛けもむなしく、バビーが大声で泣き出した。
「待って、泣かないで。」
ベッドの上で手足をじたばたさせながら泣きだしたバビー。
腕の中で大泣きするシンシア。
そして。
「ふ……え……」
「え? まさか?」
パット隣のベッドに顔を向けると、アニーちゃんの顔も歪みだしたのだ。
「あ、あぁ、待って頂戴、アニー。 大丈夫、大丈夫よ。 バビー、シンシア、ねんねの時間なの……。」
「「「ほんぎゃぁぁぁぁ!」」」
「えええぇぇぇぇ……。」
3人とも泣き出して、私はシンシアを抱っこしながらただベッドで大泣きするアニーとバビーの頭を交互に撫でるしかなくなった。
「大丈夫、大丈夫よ。 ……大丈夫……。」
その時、私の目からぼろっと大きな涙が零れ落ちた。
(大丈夫じゃないわ。)
「……もう、どうしたらいいの?」
弱音と一緒に涙がボロボロ流れ出す。
「もう、どうしていいわからない、わからないわ……」
シンシアの胸の上にバタバタと私の涙が落ちていく中、そっと、肩に触れた温かい手に、私は顔を上げた。
「院長先生……。」
「一人でよく頑張ったわね。 あらあらみんなよく泣いて。」
「あらあら、ミーシャ、大丈夫? よく頑張ったわね。」
「……シスター・サリア……」
わたしから手を放し、アニーとバビーを抱っこした院長先生と、遅れてやってきて私を抱きしめてくれ、そのままシンシアを抱っこしてくれたシスターサリアの顔を見、腕の中が軽くなった瞬間、私の涙腺は決壊してしまった。
私がここにきて、2週間たった穏やかな昼下がり。
子供たちの名前を書いた紙の上に置いた哺乳瓶に、壁に貼られた一人一人に決められた分量のミルクをいれる。
そこに、やや熱めに温度の保たれたお湯を入れて一度蓋をして撹拌しミルクの粉を溶いた後、蓋を開け、あらかじめ作っておいた湯冷ましを注ぎ入れると、今度はゴムで作られた吸い口の部分をはめ込んで、泡立たないように撹拌して、しっかりとミルクを溶かした。
まじまじと哺乳瓶の中を確認し、頷く。
「ちゃんと溶けたわね。」
出来上がったミルクの入った哺乳瓶を蓋つきの籠に入れ上からナフキンをかけて厨房を出ると、私は赤ちゃんたちの待つ養児室に入った。
中ではすでにおむつ交換を終え、待ってましたとばかりに大泣きしている赤ちゃんたちと抱っこしているいつものメンバー。
私は籠にかけたナフキンを外すと、一人一人に哺乳瓶を渡していく。
「温度は大丈夫そうですか?」
「えぇ、ちょうどいい温かさよ。 作るのも上手になったわね。」
「よかったですわ。」
アニーを抱っこしながらミルクの温度を確認して褒めてくれたシスター・サリアの言葉に、私はほっと胸をなでおろす。
ミルクには赤ちゃんに飲ませるのに適切な温度というものがある、らしい。
最初の調乳の時に習った事だ。
一度沸騰させたお湯を、ちょっと高い温度のお湯が程よく冷めたまま温かいように置いておける『保温機能』という便利な機能の付いたポットに入れて置いてあるため、それを作るミルクの全量の半分まで入れてから、粉ミルクを決められた量だけ匙で量って入れ、蓋をしてよく溶かしたら、今度は沸騰して冷やしてある白湯を、作ると決めた量の記された線のところまで入れて、もう一度撹拌し、赤ちゃんが飲むのにちょうどよい温度(人間の体温と同じくらい)にする。
粉ミルクと哺乳瓶、そしてこの保温機能の付いたポットは、院長先生がこの孤児院を作った時に考え付いたものらしい。
それまでは乳の出ない母親の子供や孤児は山羊や牛の乳に砂糖を混ぜたものを与えていたらしいが、院長先生が考えたこの粉ミルクと使うようになってからは、圧倒的に子供の死亡率が減ったそうだ。
甘い香りのするミルク色の粉。
ちょっと舐めてみたけどうすら甘い程度で、全然美味しくなかったそれは、人間の赤ちゃんが育つための栄養素をとてもたくさん含んでいるのだという。 しかも、熱々の沸騰したばかりのお湯で作るとなぜかその栄養素が壊れて意味がなくなってしまうらしく……保温機能の付いた熱めのお湯で入れて、白湯をたす、というひと手間があるらしい。
やっと慣れてきたこの作業、最初はすごく大変だったが、んくんく! と、頑張って哺乳瓶の乳首に当たる部分を口いっぱいに含み、頑張って飲む赤ちゃんを見るとそんな苦労も忘れてしまう。
(赤ちゃんって、大変だけど可愛い。)
必死にミルクを飲む3人の赤ちゃんを見つつ、ミルクを入れてきた容器をテーブルの上に置くと、私は床に置いてある使用済のおむつの入った桶を手に取った。
「じゃあ、おむつを置いてきます。」
「ありがとう。 そうそう、ミーシャ。 それが終わったら夕食までの間、少し昼寝なさい。 今日は初めての夜当番でしょう?」
シスター・サリアの言葉に、私は頷いた。
「わかりました、じゃあ、これを終えたら少しお休みいただきます。」
おむつの入った桶をもって、私は部屋を出た。
洗濯室の使用済のおむつを入れておく水と洗剤の入った桶にそれを浸け込み、手を洗って宿舎棟に戻る。
今日私は、消灯後から明日の朝までの赤ちゃん見守り当番を行う。
これまでに2度、ダリアと共に夜当番に入ったことがあるのだが、独り立ちだ。
今の大きさの赤ちゃんたちは夜にミルクを飲むこともないため、朝まですやすや寝てくれる。
時折ぐずる子を寝かしつけ、見守るのが仕事だ。
始めての一人当番だが、困ったことがあれば、院長先生が来てくださるという事だし、ここにきてもう2週間、2回の夜当番も大丈夫だったし、何より可愛い赤ちゃんの寝顔を独り占めできる。
実は少し楽しみにしていたのだ。
私室に戻り、髪を包んでいた三角巾を解いて、靴を脱いでベッドに横たわる。
まだ明るい中で寝るには罪悪感が多かったけれど、私はそのままうとうとと夕食の鐘が鳴るまでお昼寝をした。
「……どうして? なんで泣き止まないの?」
『みんな、最近は夜はしっかり寝てくれるから大丈夫よ。』
というダリアの前回の夜当番の時の言葉が頭に浮かぶ。
「どうして今日は寝てくれないの?」
私はベッドに横にすると泣いてしまうシンシアを抱っこし、トントンと背中を優しく撫でながらあやしていた。
いつもは一番よく眠っているはずなのに、今日は消灯時間を過ぎてもなぜかお目目パッチリのシンシアを、私はずっと抱っこしている。
と、言うのも、抱っこしていると時折、そろそろ寝そうだと思うときがあるため、そのたびにベッドにおろすのだが、そうした瞬間パチッと目を開けてぐずる。
そうすると、すっかり眠ってしまっているアニーとバビーも目を覚ましそうなそぶりを見せるため、慌てて抱っこすると繰り返し、もう、降ろすのをあきらめて抱っこしながら過ごしていた。
抱っこしている間のシンシアは、最初は寝そうになっていたが、今はなんとなくぐずぐずとむずがゆがって、寝るそぶりもなくなってきた。
「なにが良くないのかしら?」
私はテーブルの上に、みんなから教わった、赤ちゃんのお世話の仕方を書き綴ったノートを広げた。
「おむつ、ミルク、お洋服の皺……全部やったわ……」
シンシアをあやしながら、ノートを最初から見直す。
「いっぱい泣いたから、喉が渇いた? 泣いてお腹に力が入ったからおむつが濡れた? それともお腹が減った?」
考えて時計を見る。
「でも、30分前に飲んだばかりだし……」
(というか、まだ30分しかたってないんだわ、こんなに長く抱っこしてたのに。)
う~んと唸りながら、時折ぐずるシンシアに私はどんどん不安になる。
「もしかしてどこか痛いのかしら? お腹? 頭? もしかして抱っこばかりしてるから服の皺が気持ち悪い?」
そうね、一度服を整えて抱きなおそうかしら、と、一度ベッドに寝かせた。
が。
「……う……ほにゃ! ほんにゃぁ! ほんにゃあぁ!」
「え!? ちょっと待って頂戴、すぐ、すぐ抱っこするから!」
シンシアは大きな声で泣き出たため、私は慌てた。
「待って、待って頂戴、お洋服を綺麗にするだけよ、すぐ抱っこするわ。」
背中の服の皺を取り、首に気を付けながら抱っこするが、火が付いたように泣きだしたシンシアは止まらない。
「ああぁぁぁぁ……。 どうしてかしら? 何が良くないのかしら?」
抱えられない頭を捻り、大泣きするシンシアを抱っこしたまま何度も赤ちゃんのお世話方法のノートを見るが、何度見てもすべて一度やった事ばかり。
泣き止んでくれないシンシアの声は大きくなっていく。
小さなお顔も握っている手も真っ赤になって小さな体をぐずぐずと捩る。
「こんなにお顔が真っ赤になったことあったかしら? 本当にお熱でも出たのかしら? どうしたらいいの?」
シンシアを抱っこしオロオロしていると、別のベッドからふにゃ……と声が聞こえた。
「え?」
ベッドの方を覗き込むと、バビーも顔を歪め始める。
「あ、起きちゃう。 大丈夫よ、バビー、ねんねの時間よ。」
慌ててシンシアを支えながら、バビーの胸を優しくとんとんすると、眠りそうになるバビー。
しかし、シンシアがさらに泣き出した。
「シンシア、大丈夫、大丈夫よ? バビーが起きちゃうわ、ちょっと待って頂戴、大丈夫よ?」
そんな私の声掛けもむなしく、バビーが大声で泣き出した。
「待って、泣かないで。」
ベッドの上で手足をじたばたさせながら泣きだしたバビー。
腕の中で大泣きするシンシア。
そして。
「ふ……え……」
「え? まさか?」
パット隣のベッドに顔を向けると、アニーちゃんの顔も歪みだしたのだ。
「あ、あぁ、待って頂戴、アニー。 大丈夫、大丈夫よ。 バビー、シンシア、ねんねの時間なの……。」
「「「ほんぎゃぁぁぁぁ!」」」
「えええぇぇぇぇ……。」
3人とも泣き出して、私はシンシアを抱っこしながらただベッドで大泣きするアニーとバビーの頭を交互に撫でるしかなくなった。
「大丈夫、大丈夫よ。 ……大丈夫……。」
その時、私の目からぼろっと大きな涙が零れ落ちた。
(大丈夫じゃないわ。)
「……もう、どうしたらいいの?」
弱音と一緒に涙がボロボロ流れ出す。
「もう、どうしていいわからない、わからないわ……」
シンシアの胸の上にバタバタと私の涙が落ちていく中、そっと、肩に触れた温かい手に、私は顔を上げた。
「院長先生……。」
「一人でよく頑張ったわね。 あらあらみんなよく泣いて。」
「あらあら、ミーシャ、大丈夫? よく頑張ったわね。」
「……シスター・サリア……」
わたしから手を放し、アニーとバビーを抱っこした院長先生と、遅れてやってきて私を抱きしめてくれ、そのままシンシアを抱っこしてくれたシスターサリアの顔を見、腕の中が軽くなった瞬間、私の涙腺は決壊してしまった。
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