【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石

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58・決戦前夜に流れた涙。

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 ウルティオ様のエスコートで先ほどまでのサロンに戻った私は、院長先生とマミの姿を見つけると、彼にお礼を言って手をはなし、足早に彼女の元に向かった。

「マミ。 大丈夫……?」

「……ミーシャ? うん……ごめんなさい。」

「いいえ。 マミは悪くないのよ。 大丈夫。 私こそ、一緒に居られなくてごめんなさいね。」

「……ううん。 いいの。」

 そう言って首を振った彼女の顔色はまだ悪く、心がずきんと痛んだ。

 膝の上で硬く握られた冷たい手を上から包むように握った私は、院長先生を見た。

「先生……あの出来れば……。 お話の間、手をつないでいたいのですが……。」

「えぇ、そうね。 そうしてあげて頂戴。」

 私の言葉に頷いた院長先生が、扉の近くにいた侍従に指示を出してくれ、私とマミが使っていたソファを少しずらすと、室内の窓際に置かれていた、2人で腰を掛けても余裕のあるカウチソファを用意してくれた。

 侍従にお礼を言い、二人で並んで腰を掛ける。

「ミーシャ……ごめんなさい、ありがとう。」

「いいえ、わたしこそ、最初からこうすればよかった……ごめんなさい。 それよりもマミ……。」

 本当に大丈夫? と聞こうとした私に、マミはぎゅっと手を握り返してきた。

「うん。 でも、一緒にいてね。」

「えぇ、もちろんよ。」

 その手を握り返してから、静かに私はハズモンゾ女公爵様に頭を下げる。

「申し訳ございません。 このままお話を伺ってもよろしいですか?」

「えぇ、もちろんよ。 それに、こちらも意地が悪すぎたわ。 改めて謝罪します。 ごめんなさいね、マミ嬢。」

「い、いえ、そんな……。 あたしこそ、ごめんなさい。」

 首を振ったマミに、ハズモンゾ女公爵様はすこし眉を下げ、静かに言った。

「貴女が謝る事ではありません。 しかし、その上で。 あなたには本当に申し訳ないのだけれど、この席から貴方も、そして私の息子も外すわけにはいかないの。 ……紹介するわね。 この子は私の息子であり、20余年前、貴女の前に聖女として召喚された『ハツネ』が生んだ子。 ウルティオよ。」

 マミと私の視線の先には、いつの間にか顔を隠すように縁の黒いしっかりとした眼鏡をかけたウルティオ様がいて、静かに頭を下げた。

「聖女……? ハツネ……さん。 ウルティオ……様……。」

 言われた言葉を飲み込むように繰り返したマミは、しまったと顔色を変え、ぱっと私から手をはなすと、その手で自分の口を押さえ、頭を下げた。

「あ、あの! 申し訳ありません、お名前を、勝手に呼んでしまって……っ。」

 怯えるように謝るマミに、彼はゆっくりと首を振り、手を上げた。

「いや、かまわないよ。 逆に、そんなに謝らないでほしい。」

 ウルティオ様は、そして、ややうつむいたまま、首を振った。

「君は母さんと同じで、こちらの人間ではないんだろう? 母さんもこちらに来てかなり苦労したとお母様から聞いたよ。 それより、私達こそ申し訳ない。 君がをされたか。 お母様から聞いていたのに……辛いことを思い出させてしまった。 こちらの配慮不足だ。 勝手な言い分だが、そこまで君が僕の顔に拒否反応を示すとは思っていなかったんだ。 ただ、母上も言っていた通り、これからの話に、僕たちはどうしても立ち会って聞かなければならない。 ……こうして眼鏡をかければ、少しは落ち着くだろうか? それとも衝立を用意させようか?」

「……いえ、眼鏡で。 あの、大丈夫、です。」

 そう言って頷くマミの手は、まだ冷たく震えていて、私がその顔を覗き込むと、大丈夫、と彼女は口を動かした。

「本当に申し訳ない。 もし途中でやはり無理だと思ったら、隣にいるミズリーシャ嬢に伝えてほしい。 ……申し訳ない、私たちには、君の協力が必要なんだ。」

 そう言って頭を下げたウルティオ様に、マミは戸惑いながら首をかしげた。

「協力、ですか?」

「ではその話は、まずは私からしましょう。」

「……院長先生?」

 それから先は、院長先生から、ハズモンゾ女公爵様から、お父様から、そしてウルティオ様から語られた。

 院長先生から語られた、20数年前に行われた聖女ハツネの召喚とその後の悲劇。

 ハズモンゾ女公爵様から語られた、その後の帝国と教会の調査。

 お父様から語られた、王族と教会の間でやり取りされていた聖女召喚の実態。

 3人の母によって育てられたウルティオ様の話。

 そして、これから起きる事。

 語られた過去の話、そしてこれから先、行われる行為を、マミは時折辛そうに顔を顰め、時折わからない言葉が出てきたときには私に確認しながらも、ただ黙って最後まで聞いていた。

 そして、すべての話が終わった時、マミは私の手を強く握って、ただ泣いた。

 私は開いた手でその涙を拭う事しかできなかった。

「訳が分からぬままこちらに来て、辛い目にあい、傷ついている君に対し、こんなお願いするのは大変申し訳なく思う。 その場へ行くことは、君にとってどれだけ辛い事であるかもわかっている。 しかし私は、これ以上、母さんのように。 君の様に。 苦しむ人間を作りたくないんだ。 どうか協力してもらえないだろうか。」

 ウルティオ様がそう言って頭を下げようとした時。

 ぎゅっと、マミはさらに私の手を握った彼女は、真っ赤に晴れた目をそのままに、しっかりと顔を上げた。

「……わたし、やります。 やらせてください。」

 その言葉に、その場にいた私とマミ以外の全員は顔を見合わせると、一堂にソファから立ち上がり、彼女に向かって深く深く、最上礼を行った。

「マミ・イトザワ嬢。 そしてドルディット国に召喚されたすべての聖女へ。 我らは真実を知らなかったとはいえそれに加担し、貴女方を苦しめ続けた。 その非道を謝罪し、断罪すると約束する。 そして、君の勇気と協力に心から感謝し、君と、君の産んだ子供を守る事を約束する。」

「……え?! あ、あのっ……。」

 突然の事に戸惑うマミと私の傍に、カーテシーをやめて近づいてきた院長先生は、マミの前で膝を折ると、その手をとり、頭を下げて、絞り出すような声を上げた。

「辛い思いをさせて、最悪の事態になるまで助けてあげられなくて、本当にごめんなさい……。」









「ミーシャ、終わったよ?」

「あら? もう? お疲れ様。」

 柔らかなマミの声に、読んでいた本から顔を上げた私は、本にしおりを差し込むとテーブルの上に置いてソファから立ち上がり、肩から掛けていたショールを治しながらマミの方へ寄って行った。

「あらあら、お腹いっぱいね、エリ。 よかったわね。」

 マミの腕の中には、お腹がいっぱいになったようで、頬を赤く染めうとうとし始めているエリが、トントン、と、背中を擦られている。

「実はストレスでおっぱい出なくなっちゃうんじゃないかって心配したけど、何だろう、開き直ったらいっぱい出たみたい! 母は強し! だね!」

 そう言って胸を張るマミだが、エリの背を擦る手は少し震えていて、私はマミの背中を擦った。

「そうね、マミは私なんかよりもうんと強くて素敵な女性だわ。」

 私の言葉に、褒められちゃった!と笑いながら、大きくゲップをしたエリを横に抱きなおしたマミは、よしよしとエリをその腕の中であやしながら寝かしつける。

「もう寝ちゃった。」

 母の腕の中は心地よかったのか、あっという間に寝いってしまったエリに、マミと私は顔を合わせて笑った。

「本当、もうぐっすりね。 エリはいい子ね。 よく飲んで、良く寝て。 あんなに小さかったのに、こんなに大きくなって。」

「ほんと。 最初見た時は、2610gで生まれたソウちゃんより小さくて、ふにゃふにゃで、私もびっくりしちゃったのに。」

 エリが生まれた時の事を思い出しながら、私たちは笑う。

 あの日のエリは、あまりに小さくて泣き声も小さくて、本当に心配にもなったものだが、今は手足にも少しお肉が付き、ぷくぷくとして可愛らしい。 ちなみに泣き声は本当に大きくて、つられ泣き発生源の常習だ。

「さぁさ、そろそろエリ様をお預かりいたしましょうか? それとももうしばらく抱っこされますか? マミ様。」

 時計の鐘が鳴り、セービングカートに2人分のハーブティを用意して持ってきてくれた侍女がやってきたことで、傍に控えていた乳母が尋ねてきた。

 マミは満足げに眠っているエリの顔を覗き込み、少し考えてから笑った。

「ありがとうございます、じゃあ、お願いします。」

「はい。 かしこまりました。 明日はお忙しいと伺っていますので、夜更かしなどせず、お二人とも、ゆっくりお休みくださいませね。」

 にこにこと人のよさそうな顔の乳母は、マミの腕の中からエリを受け取ると、そのまま子守唄を歌いながら私の部屋とは反対側の、エリのためにと整えられた部屋に入っていく。

 そんな乳母とエリを見送った私たち。 用意してもらった暖かいハーブティを飲み終えると、これくらいでいい? とマミがベッドの端の方へと動き、空いたスペースに私は足を入れた。

「ごめんね、一緒に寝たいって言って。」

「平気よ。 気にしないで。」

 沢山ある枕を半分こし、肩にかけていたショールを傍の椅子に置いてから、肩まですっぽりと入る。

「さて、お嬢様方。 明かりを落としてよろしゅうございますか?」

「えぇ。 ありがとう。 おやすみなさい。」

「おやすみなさいませ。」

 扉の所でそんな私たちの様子を見ていてくれた侍女が、明かりを落として部屋を出て行く。

 静まり返った室内。

 私たちはベッドサイドの明かりだけがともるだけの部屋の、大きなベッドの中で互いの顔を見た。

「ふふ、お友達とおんなじ布団で寝るなんて、お泊り会とシュウガクリョコウぶり。」

(シュウガクリョコウ、か。 懐かしいわね。)

 そう思いながら、私は首をかしげる。

「シュウガクリョコウ? とは?」

「そっか、ミーシャは知らないよね。 向こうではね、一学年全員で旅行に行くんだよ。 バスとか、シンカンセンとか、ヒコウキに載って、遊びに行くの。 あ、もちろん、シャカイカケンガクが目的だよ?」

「旅行ですか?」

「うん。 あたしはねぇ、小学校の時はニッコウにいって、中学校の時は、オオサカ、ナラ、キョウトで、テーマパークに行ったんだ。 高校はね、ハワイの予定だったんだよ。 ミーシャはそういうの、ある?」

 私は首を振る。

「こちらにはそのような慣習がありませんね。 旅行も、私は公務以外で王都から出ることがあまりありませんでしたので……こうして誰かと一緒に眠る、というのは、幼い頃、嵐の日に乳母が来てくれるまでアイザックと怖がっていた時くらいでしょうか?」

「そうなんだ? じゃあ、ミーシャの初めてのお泊り会だね! 嬉しいな。」

 そう言って笑うマミに、私は問う。

「そのお泊り会、というのは、一体何をするのですか?」

「え? う~んとねぇ。 一緒に音楽聞いて、おやつ食べて、テレビ見て、雑誌読みながら流行の事とか、後、恋バナなんかもして……あっ!」

 ガバッと上体を起こしたマミは横たわる私の顔を覗き込んだ。

「そういえば、ミーシャ、好きな男の子はいたの?」

「……え?」

 問われた意味が一瞬解らず変な声を出してしまった私に、マミは『寒い!』と言いながら布団に戻って、ゴロン、と私の方に体を向ける。

「好きな人。 初恋とか。 いないの?」

 それには、う~ん、と困ってしまう。 なぜならば。

「幼い頃から婚約者がいましたので、誰かに恋愛感情を抱くと言う事は不貞というか……ありえないと考えていました。」

 そっかぁと言ったマミは、ごめんね、と言いながら頭からすっぽりと布団に入り、今度は顔だけ覗かせたまま言う。

「今日いた、ウルティオ……? さんは? 私がいない間、一緒にいたんでしょう? 温室に行ったって。」

 それには、首を振る。

「そうですね、連れて行っていただきました。 とても紳士的な方でしたよ。 ですが、今日初めてお会いした方ですし。 私は貴族ですから、恋愛結婚をする方もいらっしゃいますが、多くは家同士の繋がり、政略結婚を求められるので考えたこともなかったですね。 好きになっても当主がいなと言えば結婚できませんから。 それに、修道女は神様と結婚するのですよ? 生涯独身ですね。」

「あ、そっか。 わたし達、今、修道女見習い、だった。」

 頭まで布団をかぶっているのは暑かったのか、すぽん、と頭を出したマミは、少し紅潮した頬をパタパタと仰ぎながら私を見る。

「でも、恋したい! とは思わないの?」

「……小さい頃は思いましたよ? ほんの少しだけ。 素敵な王子様がいればいいのに、と。しかしそんな暇もなくなってしまいましたので。 ……そう、それよりは……。」

(……あっ。)

 そこまで言って、しゃべるのをやめた私に、マミは不思議そうな顔をした。

「それよりは?」

 その先を言うのは少し気恥ずかしくなった私は、両手で顔を覆い、指の隙間からちらりとマミの顔を見て、一呼吸おいてから、言った。

「お、お友達はずっと欲しいと思っていました……でも、今話していて、それは叶ったなぁと思って……。」

 思いがけず小さな声になってしまったが、それはしっかりマミにも聞こえていたようで、がばっ! っと布団から飛び出したマミは、布団の上から私に飛びついた。

「本当に!? かわいい! ミーシャ可愛い!」

「え? ちょっと、マミ、重いです、重い……。」

「嬉しい、あたし、超嬉しいんだけど! え? 本当に? 本当にお友達!?」

 布団後と私を抱き締めながら、何度もそういうマミに私は重さと苦しさで慌てる。

「待って、マミ、重いわ。 本当、本当です。 今日も、お父様にもちゃんと言ってきたじゃないですかっ。」

 マミの重さで息苦しく、自分で言った言葉への羞恥で顔から火が出そうな思いをしながらそう言うと、何故だかぱっと、布団が軽くなった。

(……あら? 声もしなくなったわ。)

「マミ?」

 静かになったことに不安なってベッドから体を起こすと、布団の上に座り込んだマミは目から大粒の涙をボロボロと流して泣いている。

「え? ちょっと、マミ? どうしたの? どこか痛めてしまった?」

 慌てて顔を覗き込むと、マミは首を振る。

「だって、ミーシャが、お友達って……。 言ってくれたから……嬉しい、嬉しいよぉ……。」

「え? それで? でも、今日何度も言ってましたよね?」

 慌てて傍にあったサイドテーブルから手巾を取り出してマミの涙をぬぐいつつ話をすると、彼女はさらに首を振った。

「だって、あの時は……私を守ってくれるためにとっさについた、嘘だと思ってた、から……。」

「……そんなこと……」

 そんなことない、と言おうとした私は、口をつぐんだ。

 振り返れば、そう思われても仕方のない態度をとっていた。

 私の態度は、言葉は、すでに傷ついているマミを、さらに傷つけていなかっただろうか。

 泣いているマミに、厳しい事を、態度をとり続けた。

 厳しい状況に置かれ、厳しい言葉を突き付けられた

 貴族には序列があるからと、言葉を遮ることも

 あの時、お父様の手を振り切ってでも、マミに付き添うべきだったのではないか。

 マミが辛い思いをしているのに、お父様が頷いたからと散歩に出たけれど、それをせずマミのところへ行けばよかったのではないか。

 罪悪感が、私の中に溢れて言葉を詰まらせる。

 もしかしたら。

 こんな卑怯な私自身が、昔の私を孤独にしたのかもしれない。

 気づきもしないで、周りのせいばかりにして逃げて。

 この体になってからも、環境のせいにして逃げていた。

 それなのに、今、私が『友達』と言った事を、こんなに喜んでくれる人がいて。

(――私も、嬉しい。)

「え? ミーシャ!? なんでミーシャまで泣いてるの??」

 気が付けば、私も泣いていた。 たくさん涙があふれて止まらない。

「ミーシャ? え? 大丈夫? 私変なこと言った? ごめんね??」

「ちが、違うんです。 ……私も、私も嬉しいんです……マミに、お友達って言ってもらえて……。」

「も、もう! お友達だよ! ずっと!」

 がばっと私に勢いよく抱き着いたマミと一緒にベッドに倒れ込んでしまった私は、マミの背中に手を回して、たくさん泣いた。

 冷え込んで欠けた心の隙間から、それを溶かすようにどんどん溢れて来る温かい涙が止まらなくて、それからマミの涙もたくさん肩に感じながら、2人でいっぱい泣いた。

 心の奥底にいた、小さくなっている昔の私まで、たくさん泣いて。

 それからひとしきり泣いた私たちは、急に冷静になって起き上がると、ベッドの上に向かい合って座り、お互いの酷い顔を見た。

「……目、パンパンになったらどうしよう……。」

「……大丈夫です、きっと、侍女が綺麗にメイクしてくれます……。 (多分)」

 そう言った私は、目の前にいるマミの両手を握った。

「……今まで、本当に、貴女を傷つけるようなひどいことを言って、気持ちを思いやってあげることが出来なくて、辛い思いをさせてごめんなさい。」

「え?」

 目をまん丸くして私の方を見たマミは、焦ったように首をかしげる。

「え? ええ? 私、何かされた?? だってミーシャは、私がマナー違反とか? そういうのしてたから注意してただけなんでしょ? 教えてくれたじゃん。 それに、修道院に行ったときも、文句ばっか言ってた私に優しくしてくれたじゃん! あ、わかった、また泣かせる気なんでしょ!? やめてよ、これ以上泣いたらますます……」

「違います。 ……理不尽な連れてこられ方をしたマミの事情を知っていたのに、、マミの立場になって考えてあげることをしなかったと反省しているんです。 こちらの都合ばかり押し付けて、注意して、冷たくしてしまった。 本当にごめんなさい。」

 ぎゅっと、手に力を込める。

「明日、どうしても辛ければ……。」

「それは、だめ!」

「マミ。」

 辞めてもいいのよ? と言おうとした私の手を掴みなおしたマミは、ぎゅっと目に力を入れて私を見返した。

「それじゃダメなの。 私で御終いにするの。 私が決めたの。 辛いけど、怖いけど……でも、エリのために、頑張るって決めたの! 今までの聖女の分まで、全部文句言って、絶対にこんな悲しいこと、終わりにさせるんだから。」

 しっかりと、目を合わせる。

「ミーシャは、私の傍で見守っていて。」

 それに、私は頷いた。

「わかりました、絶対にそばを離れません。 ずっと傍にいます。」

「うん。 お願いね、ミーシャ。」

 ふふっと笑ったマミに、私は頷いてから、言った。

「マミは、強いわ。 わたしなんかよりも、うんと強くて、うんとかっこいいわ。」

「やだ、ミーシャもかっこいいよ? いっぱい物知りで、博学で、勉強家で……あれ? 全部一緒?」

 真剣な顔をして首を傾げたマミに、私はつい噴き出した。

「一緒ね、でも、褒めてもらえて嬉しいわ。」

「わたしも!」

 ぎゅっともう一度手を握った私たちは、笑い合ってから、ベッドの中に入った。







 コルセットを締め上げ、私は漆黒の、マミは純白のドレスを身に纏う。

 手入れしてもらった髪は結い上げられ、私はサファイアで、マミは真珠で美しく飾られていく。

 『なんですか! この目の腫れは!』と、お小言を貰いながら、美しくメイクを施される。

 準備が終わり、お互いの姿を褒め合った私とマミは、手をつないでへ向かった。

 私たちの後ろには、純白のベビードレスを纏ったエリを抱いた乳母と、6人の護衛が立つ。

 そんな私たちの、正確にはマミの隣に、帝国の正装である真紅の礼装を身に纏った、彼が立った。

「マミ嬢、用意はいいかな?」

「はい。」

 私の手から離れたマミは、きゅっと顔を引き締める。

「では、行こうか。」






******
拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
エール、コメント、お気に入り登録、投票も、本当にありがとうございます。
また、承認不要の誤字脱字報告、大感謝です、足を向けて寝れません!

終盤の佳境になって参りましたね……
ミーシャとマミをどうぞ見守ってやってください。
(あまりにもマミが可哀想すぎる、というコメント……
 本当にすみません。ここまで作者も心苦しかったです)
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