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序章 異世界転生するんですってよ!

0)は?このでかい水晶が神様ですか?

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 買い置きしてある美味しいお菓子。

 大きくてもふもふ手触り最高な長毛三毛の愛猫コタロウ。

 それから肌触りの良いお気にいりの毛布

 ロマンスやファンタジー、お気に入りのたくさんの蔵書。

 それだけが私の宝物だった。





 はじめまして、アラフォーぶち抜けてそろそろアラフィフに片足突っ込んじゃった女です。

 結婚してないのか? あ~、はいはい、捨てられました。

 私みたいな陰気な女はうんざりだそうで、結婚早々、女を作って出て行ってしまいました。

 そういえば父親もそんな感じだったな、男運も家族運もないな……。

 独り身寂しいな。

 仕事疲れた。

 すごく悔しい思いした。

 今日は何故だかわからないけど辛かった。

 そんな、人から見たら本当に些細なことで死にたくなるくらいに落ち込んで、私はひとりぼっちだ~って、苦しくて、寂しくて、そんな馬鹿な自分を抱きしめながら、ティッシュひと箱使って、ひとしきり泣いたら頭からざーざーと熱めのシャワーを浴びて、とっておきの甘いお菓子にとっておきの茶葉で温かい紅茶を入れて自分を慰める……そんな日々を送っていたわけですよ。

 ついさっきまで。

 仮眠をとった気がするんだよな。

 で、目が覚めたら私、立ってるの。

 あれ、立って寝てた?

 それとも夢遊病?

 不思議すぎてあたりを見れば、もう全部真っ白。

 足元はふわっふわの毛足の長いカーペットみたいな柔らかな肌触りの感触で、あんまりにも気持ちがよくて、ちょっとここにゴロ寝してもいいかな? って思ったらそれはやめとけって止められた。

 え? 誰に?

じゃよ」

 いや、誰だよ。

「ここにおるじゃろ?」

 おるじゃろって、人はいないよ? でかい透明な石ならありますが?

「それそれ! それじゃ。 神様だぞ、存分に敬ってもよいぞ。」

 わー神様すごーい(棒読み)。

「ぬっ! 感動もへったくれもないのう。 せっかくお前さんに異世界転生ごほうびをやろうと思ったのに。」

 それ、ご褒美ですか?

「ご褒美じゃろ? 随分と現世の生活に疲れとったじゃないか?」

 疲れてました、確かに。

 思い出してげんなりする。

 一応ね、一応、国家資格もってバリバリ仕事はしてましたよ?

 だけど一般社員なんて所詮は消耗品。

 意識高めに仕事を頑張っても全然これっぽっちも報われない。

 こんなに頑張ってるんだから、そろそろご褒美くれたっていいじゃーん! って思いました、すみません。

「だからご褒美に、お前さんの大好きな、剣と魔法のファンタジーなる世界に転生させてやろう。 どこがいい?」

 選ばせてくれるんですか!? 何それ! 神! いや、そうだ神様だ!

 そうとなったら真剣に考える。

 ええとね、剣と魔法の世界には憧れるけど、人生ハードモードは嫌です。

 痛いのも嫌いだし、冒険者とかは見てみたいけどやりたくないです。

 どうせならゆっくりのんびり穏やかに、手に職付けて働いて、それがちゃんと認められて、食べるのも寝るのも困らなくって、何なら毎日美味しいお菓子とご飯がたべられて、たまにうんとお高いディナーとデザートを贅沢に堪能できるって暮らしがしたいです!

 あ、それとよく言う絶世の美男子&美丈夫ルビが見たいです。

 でも見るだけね! 恋愛とかは面倒くさいからノーセンキューです! 男の一挙手一投足に振り回されるのなんか、もう絶対に御免です、こりごりです、ごめんなさい。

 あ! それから出来ればちょこっとでいいからチートスキルください!

 病気しない健康な体と、行く世界の知識を暮らすのに不自由ないように知ることが可能な知識をください。

 後、出来れば転生前は可愛い恰好が似合う女じゃなかったので、めちゃくちゃ可愛い服を着てても笑いものにならないくらいの可愛さをください。

 適度でいいですよ? 世界一の美女・美少女とかはいらないです、結構です!

 異性からの主人公総愛されとかは面倒なので嫌です、修羅場も嫌いだし、傾国願望ありません!

 それから、厚かましいのはわかってますが、置いていくのはあんまりにも心配なので、家族の愛猫コタロウだけは連れていきたいです!

 う~ん、これだけあればいいかなぁ……

 はっ!

 だめだ!

 神様、本当にごめんなさい、我儘をいいます!

 スローライフ万歳だけど、上下水道完備で! お湯とか沸かすのも生活魔法でもいいので、楽したいですし、不衛生で病気とか嫌なので、とりあえず日本並みに公衆衛生管理ができてる世界でお願いします!

 よし! よし完璧です! これ全部お願いします!

「叶えてやるとは言ったが、なかなかに我儘じゃのう。」

 え? やっぱり欲張りすぎました? だめですか?

「ん~、まぁいいけど。」

 いいんかい!

 でも! ため息ついたっぽい神様。 なんかかわいい、ただの石だけど。

「じゃあ水晶の中のぞいてみんさい。」

 はーい。

 私は水晶の中をのぞいた。

 長年にわたり見慣れた、可もなく不可もない疲れ切ったアラフォー女ではない、若くてぴちぴちの上の下くらいの可愛い女の子がそこには映っている。

「髪と目の色はどうする?」

 決めさせてくれるの!? じゃあ憧れのラベンダーアメジストの瞳に、黄金のやわらかウェーブをっ!

「こんなもんか?」

 目の前の水晶の中の女の子が瞼を開けると、大好きなラベンダーアメジスト! 髪は本当に理想のふわふわ金髪に変化した。

 完璧です! 神様!

「服はどうする?」

 これから行く世界で浮くと嫌なんで、一応! 形も色もその国の平均基準でお願いします!

「じゃあこれだな」

 膝より少し下の丈の浅葱色のワンピースに飾りのない真っ白の横で結ぶタイプのエプロンにブーツ!

 うん、最高に可愛い!

 理想です、私の理想! ありがとうございます! 神様!

「とりあえず独り立ちを許される14歳くらいで、職業はくいっぱぐれのないように錬金薬師れんきんくすしにしてやろう。 それから外見に引きずられて余った三十年分の様々な人生経験は、おぬしのステータスに上乗せしたろうな。」

 さらっと人の年をばらさないでください、神様!

 でもありがとうございます!

 水晶に表示されたステータスを見た限り、力と素早さがかなり寂しい感じもしますが、魔力と賢さと運の良さ5段階で5を振り切ってる! うれしい! 神様大好き!

「現金なもんじゃ。 ほれ、水晶に手を当ててごらん。 そうして、新しい人生を楽しんでおいで。」

 そっと水晶に手を当てると、水晶の中の新しい私が笑ってくれた。

 これからよろしくね、新しい私。

 神様も、いろいろありがとうございます!

 でも神様、なんでこんなに私に、ここまで優しくしてくれるんですか??

 水晶に吸い込まれて新しい世界へ生まれる私に、神様が微笑んだのは、絶対に気のせいじゃなかったと思う。
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