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3章 生活の基盤をしっかりたてよう!

1)店舗完成! 整理整頓のすすめ!

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「これで今回改築した設備の説明も全部終わったが、何か質問や修正してほしいところはあるか?」

「ありません! どこもかしこも完っ! 璧っ! です!」

「じゃあ、これで工事は終わりじゃな! みんな、お疲れさん!」

「お疲れさまでした、ありがとうございました~!」

 わー! っと喜んでいる六人くらいのカーペンターな獣人、花樹人それからドワーフの親方に頭を下げると、私は二階から降ろしていた、重くて大きな布袋を二つわたした。

 中身は昨日のうちにマルシェで買ってあったお酒と腸詰め肉で、これは私の一方的な偏見なのかもしれないけど、カーペンター系の仕事の人は絶対お酒好きそうっ! と思ったからだ。

「これ、お礼です。 こんなかわいいお店にしてくれてありがとうございました!」

「なんだ、子供のくせに気を使わんでも良かったのに! まあ用意してくれたものを無碍にするのは大人げない、ありがたくもらおう。」

 快く受けとってくれた親方が花樹人に渡すと、獣人の人が覗き見てガッツポーズで酒盛りだ――! と喜んでらっしゃる……良かった!

 そんな弟子たちに苦笑いをしながら親方は私の頭を撫でてくれる。

 で。

「しかしまぁ今日一日でよく……」

 弟子に苦笑いしていた親方は、今度は私の後ろを見て苦笑いした。

「あれだけ薬草を摘んだもんだな……」

「あはは……自分でもやりすぎたと思ってます。」

 親方の目線の先にあるのは籠5つ分の山盛りの薬草。

 私の背丈に合わせて背負って使える籠や、大きな薬草を干す用の籠、一時保管用の両手を丸めたくらいの少し深めの籠がみっつ、薬草でいっぱいになって裏庭へ続く扉の横に積んである。

 お部屋が青臭い?

 そんなことは気にするな!

「ちょっと調子に乗っちゃって収穫してしまって。 なので擦り傷用の傷薬とか試作品ですけど、できたらギルドに届けておきますね、あの籠と物干し竿のお礼に!」

「あぁ、喜んで使わせてもらうよ!」

 家の改装以外の、生活仕様の籠や、洗濯物や摘み取った薬草を干すための大規模な物干し台を端材で作ってくれた親方に代金は? と聞けば、好きでやったことだからお金は受け取らない、と言われてしまったので私のできる範囲でのお礼の方法を考えた結果だ。

 カーペンターなお仕事は、なにやら擦り傷とかが絶えないと言っていたので、これから試作するお薬をもらって貰えないかと提案したら喜んでもらえた。

 で、すくすく育つ薬草たちを今が採り時! とばかりに収穫していたらあんなことになり……今度は入れるものがなくって慌てていたところ、追加で薬草採取用の籠を編んでくれたというわけで、張り切りすぎて親方たちの余計な仕事を増やしてしまったことをここに心から反省します。

 そんな私の顔に気がついたのか、親方はまた、頭を撫でてくれた。

「薬、楽しみにしとるよ。 じゃあまた仕事があったら呼んでくれ!」

「はい! ありがとうございました!」

「ちゃんと戸締りはしろよぉ~」

 手を振って帰っていった親方たちを見送って、言われた通りお店の戸締りをする。

 腕輪を近づければしっかり鍵はかかるので、一安心。

 セキュリティ完璧、最高!!

 万歳! と手を上げてから振り返って店内を見れば、とってもかわいいお店がそこにある。

 イメージは……う~ん……いばらの森の美女……お菓子のおうちの魔女……少し惜しい! もう一声、えっと……長靴をはいた猫的な……あれ? かけ離れたな……えぇい、なんかもう、とってもかわいいお店! 嬉しい!

「よし、そしたらまず、荷物の仕分けから始めようかな。」

 誰に言うでもなく口に出すと、店舗の奥、簡易的なキッチンやお風呂などの水回りとその横に食料棚を作ってもらった部屋に入り、編んでもらった籠を並べ、一昨日押し付け……もとい、お礼にといただいた大量の紙袋から一つずつものをだして何が入っているのか確認していく。

「これは美味しいクッキー、こっちは……クラッカー? 非常食として保存がきくものはこっちの籠に入れておこう。 おやつはこっちで、果物はこっち……これは瓶詰の……果物?」

『それは岩梨いわなしのシラップ付け。 喉が痛いときに舐めたり、お湯で割って飲んだりするんだよ?』

「わぁ! びっくりした!」

 くるん、と私の目の前で身をよじって回ったのは、摘み取った薬草が乾燥したり鮮度が落ちたりしないように見張っていてくれた木の精霊のエーンート。

「エーンート、よく知ってるね。」

『僕は、お薬つくりによく呼ばれるからね。』

 これは梅雨柿つゆがきの干したのだよ、と、その隣にあるビンも教えてくれる。

「ありがとう、こっちの物はよくわからないから教えてくれて助かるよ~。」

『これくらいなら、いくらでも教えてあげられるから、フィラン、お願いして~。』

「じゃあ、エーンート。 仕分け作業のお手伝いお願いします。」

『はぁい!』

 岩梨のシラップ漬けと梅雨柿の干したのが入った瓶を下の方の棚に並べる。

「えぇと、紅茶の葉と……こっちは昨日もらったお高いほうの紅茶……よし、とっておきのおやつや紅茶はこっちの箱に入れて、普段使いはすぐ手が届くこっちに……。 あ、筆記用具が入ってる、嬉しい! それから塩漬け肉とハーブのお肉? 冷蔵庫ないけど……知識の泉、生物なまものの管理方法を検索。」

 ――各家の地下収納は、水の力を借りて涼しいつくりとなっているので、一般的にはそういうところに保管しています。

「なるほど。 地下収納って……あ、これか。」

 あたりを見回して、自分の下にあった床の仕掛け扉を引けば、前世目線では深さが1メートルくらいの、収納がある。

 手を入れてみれば、かなりひんやりしている感じだ。

「結構冷たい! 冷蔵庫と冷凍庫の間くらいかな? とりあえずは十分だね!」

 よしよし、と小さめの籠を何個か入れて仕切ると、そこに合わせて塩漬け肉や魚の燻製を入れて蓋を閉める。

「袋のクッキーとかは密閉できる瓶に入れて……。 あ! ポーションが3種類も入ってる! 自分で作るときの見本にさせてもらおう。 お、本がいっぱいはいってる! 薬草辞典に、地理の教科書みたいなのと、歴史書? それから神話? よし、これはお店の棚に入れて、店番しながら読も~。 あとはこれで一通り片付いたから、次は作業ブースかな。」

 積み上げた本を傍らにおいて、最後の紙袋を折りたたんだ。

 紙って高いはずなのに、ギルドはこんな立派な本とか筆記用具とか、紙袋普通にくれたなぁ……袋は棟梁のところにお薬持っていくときに使えるように大事にとっておこう。

 前世でもエコバックはやってたけど、紙袋もリサイクルしてたな……

 と、前世の貧乏性が発動して……ふと、思った。

 そういえば紙が高価ってことは、お薬をどうやって売ろう……。 エコ的に手持ちの瓶で量り売りなのかな?

「知識の泉、検索。 薬の売り方」

 ――一概には言えませんが、液状のものは瓶を使用します。 粉を固めた物や、粉状の物は瓶、または布袋やそのほかの容器に入れて売るのが主流です。

「瓶か……」

 いちいちいろんなサイズの瓶を用意するのかなり面倒くさいし、コストかかりそう……。

 大きな瓶に一週間分くらいためて作って、お客さんが持ってきた瓶や袋を使って量り売りして容器代の分は安くするといいのかな……

「いや、でもそれだと衛生と湿気の面の問題もあるよね。 気は進まないけど、熊のお兄さんにこのアイデア聞いてもらって意見をもらうか……よし、そう決まればひとまず薬作らなきゃね!」

 商品がなければなにも始まらないもんね! と、準備を始める。

『錬金薬術の道具、あるの?』

「昨日ね、いただいたものがあるんだ。」

 店舗と水回りの部屋を仕切る扉を上げると、例の籠から取り出した錬金調薬の機材一式を丁寧に取り出して接客カウンターと反対側にある商品陳列棚の一部を変形させて作ってもらった作業台の上で組み立てて、綺麗な布で乾拭きする。

 上と下は落下防止の魔法のかかった商品陳列棚で、椅子に座ってちょうどいい高さに広く作業スペースを作ってもらって正解だった。

 飴色で木目が綺麗に出ている作業台はつやつやで触っていて気持ちがいい。

 掃除ついでにひとしきり満足いくまで机をなでてから、薬効抽出用の機材や、天秤、乳鉢、薬研、蒸留用の機材も順番にセットすると、なんだかお店の中もそれらしくなってきてワクワクしてくる。

「やっぱりここに大きく作ってもらって正解だった! 高さも広さもぴったり、素敵!」

 ついつい机をなでなでしちゃう。

 当初は自分の部屋を仕切ってもらい、調剤部屋を作ってもらおうと思っていた。

 衛生管理やお客さんの出入りで埃や別のものが混入しないようにするためだ。

 しかし花樹人のお兄さんが言うには、薬草には匂いが出るものも多いから自室は勧めないと言われ、店舗エリアの接客カウンターの内側をしっかりとガラスで区切り、精霊魔法による空気の清浄化と循環を行えばいい、ということになった。

 たしかに個人私室を使うより衛生的だし、原料を二階に持って上がって調薬し、出来たものを一階店舗へ持って降りるという手間がないし、店番をしながらの調剤も可能……というか、一人で店を切り盛りするんだから、逆にそうしないと不便だし前世の調剤薬局もそういえばそんな作りだったと思いだして、じゃあこんな風にしてもらえますか? とアイデアとして聞いてもらった。

 そして出来上がってみれば、アドバイス通りにしてよかったと納得できる理想通りの素晴らしい出来栄えだった!

「完っっ璧っ!」

『フィラン、片付け終わった?』

「うん、終わったよ。」

 ふわふわと浮きながら後をついてくるエーンートに返事をすると、じゃあ! と、手招きしてきた。

『じゃあ、アンダインも呼んで収穫した薬草を綺麗に洗って、下処理したり乾燥させたりしよう?』

「あぁ、そうだね! よし、頑張ろう!」

 水の精霊アンダインを呼び出して、私たちは桶に薬草を広げた。

 的確な収穫時期で収穫された薬草たちは、とれたてぴちぴち、抜群の鮮度と状態だ。

 ようやく薬師らしくなってきたっ! 頑張るぞー!
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