指先だけでも触れたかった─タヌキの片恋─〖完結〗

カシューナッツ

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〖第6話〗オレの狐への思いの変化

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 解っては、いるんだ──カナエちゃんは、これ以上オレに踏み込んで欲しくないことはオレが一番解ってるよ。ぬるま湯みたいな付かず離れず、こんな風に『楽しく世間話が出きる』関係が丁度良いって──。
 
 恋する相手を間違えた。そうは思いたくはなかったけれど、結局事実はそうだ。だから、あまりにもオレが憐れで、オレはこの神社には厄介者だけど、ここの神様は、

「恋には勝てんな」

 そう苦笑いして特別に神社に入ることを許してくれたんだと思う。

 未だに稲荷の狐野郎は、ツンツンしている。「目障りだ」とか言って。カナエちゃんと仲良く出来なくて悔しいからだ。

 そう思わなくちゃ、やってられない。

 オレは何処にも必要とされてないんだって思ってしまう。カナエちゃんに恋することも、オレは値しないって。
 オレが生きていることは、何の意味もないのかな。そう思ってしまう。いつからこんなに卑屈になってしまったんだろう。全て『なかったこと』にしたら、花屋の倫子ちゃんは、

「次の恋を見つけて」

 またやさしく笑って、オレの背中を叩いて、花束を作ってくれるだろうな。

 『ばんど』をやってるコンビニに勤めてる冴さんは、

「人生、楽しんだもん勝ちですよ」

 バックヤードで『こーら』を御馳走してくれるかな。冴さんは、オレがしょんぼりしていると、いつも『こーら』をくれる。頭がシュワシュワして、スッキリする魔法の飲み物だ。

**********

「お前は良いよな」 

いつも狐ばっかり敬われて、狸は間抜け扱い。一部の人間しか、タヌキは『た』抜きで『他』を抜く、一番になるという、言い伝えを知らない。まぁ、ちょっと前まで狸本人が知らずにいた。恥ずかしい限りだ。
 
 毎日カナエちゃんに会いに行く。カナエちゃんが休みの日は狐野郎とお喋り。散々悪態はお互いにつくけれど、中々悪い奴ではないことが解ってきた。百聞は一見に如かずだな、と思えてきた。何故か狐野郎は思ったより話しやすくて、色々気を遣ってオレに接してくれる。

 そんな狐に言いたくなる。惨めになるから言わないけれど。

『オレはそんなに惨めか、狐。可哀相か、狐。振り向いて貰えないと解っていて、一生懸命笑うオレはお前には、さぞかし滑稽に映るんだろうな』
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