指先だけでも触れたかった─タヌキの片恋─〖完結〗

カシューナッツ

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〖第15話〗旅立ちの決意

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 ある暖かな日、旅立ちの決意も込めてカナエちゃんに会いに久々に神社に会いに行った。

 この街を去る準備。何処に行こうか。あての無い旅も良い。野垂れ死んだら、そこまで。もう、神社には行かない。こんなに悲しい思いはこりごりなんだ。

「カナエちゃん、オレさ」

「うん、何?」

 カナエちゃんは覚えたての薄い化粧をし、淡い香りの金木犀の練り香水をつけていた。

 今日は暖かなはずだったのに、冷たい雨が降りだした。カナエちゃんは、水滴が落ち、久々の再会の感慨もなく窓に映るオレに目をやった。湿度で社務所が甘い金木犀の匂いがたちこめた。

「ここにはもう来ない。さよなら。楽しかったよ」

「ふうん。あ、そうなんだ。また会えるといいね」

 随分変わってしまうものだなぁ。別人だ。木常に恋して、肌で感じてる。『追いつかなきゃ』って。狐野郎に恋することは、ひどく大人な精神年齢の同級生に恋することに似ている。オレとの想い出なんて、躓いた石みたいなものか。オレはカナエちゃんをみつめて、淡く微笑んだ。

「ううん。もう会えない。カナエちゃんは、全部オレのことを忘れてしまうから。これはオレの世界の約束なんだ。オレがカナエちゃんに生命を助けて貰ったこと。それと、いままでのオレのこと……少し眠って目が覚めたらオレはいないよ。オレがカナエちゃんのことが好きだったっていうことも、何にも残らないよ。今まで贈った花の幻力を借りるね」

「何それ……?解んないよ。それに田貫さん。私のこと好きだったって、嘘でしょ?何で黙ってたの?」
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