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〖第16話〗花がみせる奇跡
しおりを挟む「……話したら何か変わった?気まずくなって此処にもうオレ、来れなくなるよ。それにさ、オレが『好きだ』といっても、カナエちゃんが好きなのは木常だ。オレじゃない。同情で一緒にいて欲しいほどプライドは捨ててないんだ。なんてね」
こんなオレのちっぽけな自尊心。笑ってしまう。でも、ここだけは譲れない。お情けで一緒にいてもらうなんて、あまりにも惨めすぎる。オレは生まれて初めて感情で泣いた。怪我の痛み、傷が炎症を起こしたときの苦しさでチビの頃泣いたことはある。でも、それより今、何かが痛いし、苦しい。
一生懸命笑う。馬鹿だな、オレ。術をかけたらカナエちゃんは覚えてないのに。それでもカナエちゃんの負担になりたくなくて、オレは微笑んだ。
「オレはずっとずっと君が好きだったよ。君に夢中だった。でも、君が好きなのはオレじゃない。君が苦しむ。……カナエちゃん。最後に、君に奇跡をみせてあげるよ」
オレは両手を広げた。半透明の鮮やかな花吹雪。色んな花。今までカナエちゃんにあげた花。一緒に見た境内に植わっていた花。そう言えばお互いについて何か話して笑いあったりすることなんてなかったな。良く考えれば、ほとんど何も知らなかったことだらけ。オレが訊いてばっかりだった。
好きなおにぎりの具、
好きなお弁当のおかず、
好きな花、
好きな色、
沢山の好きなものについて話した。嫌いなものの話はしなかったね。オレはカナエちゃんの、嫌いのカテゴリーに一部でも自分が入るのが怖かった。
カナエちゃんが椅子に座って机に突っ伏して、意識を失ってる。
「さよなら」
ドアを閉めると、地面の半透明の足許の花吹雪が舞った。目の前に木常がいる。
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