指先だけでも触れたかった─タヌキの片恋─〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
16 / 24

〖第16話〗花がみせる奇跡

しおりを挟む

「……話したら何か変わった?気まずくなって此処にもうオレ、来れなくなるよ。それにさ、オレが『好きだ』といっても、カナエちゃんが好きなのは木常だ。オレじゃない。同情で一緒にいて欲しいほどプライドは捨ててないんだ。なんてね」

 こんなオレのちっぽけな自尊心。笑ってしまう。でも、ここだけは譲れない。お情けで一緒にいてもらうなんて、あまりにも惨めすぎる。オレは生まれて初めて感情で泣いた。怪我の痛み、傷が炎症を起こしたときの苦しさでチビの頃泣いたことはある。でも、それより今、何かが痛いし、苦しい。
 
 一生懸命笑う。馬鹿だな、オレ。術をかけたらカナエちゃんは覚えてないのに。それでもカナエちゃんの負担になりたくなくて、オレは微笑んだ。

「オレはずっとずっと君が好きだったよ。君に夢中だった。でも、君が好きなのはオレじゃない。君が苦しむ。……カナエちゃん。最後に、君に奇跡をみせてあげるよ」

 オレは両手を広げた。半透明の鮮やかな花吹雪。色んな花。今までカナエちゃんにあげた花。一緒に見た境内に植わっていた花。そう言えばお互いについて何か話して笑いあったりすることなんてなかったな。良く考えれば、ほとんど何も知らなかったことだらけ。オレが訊いてばっかりだった。

 好きなおにぎりの具、
 好きなお弁当のおかず、
 好きな花、
 好きな色、

 沢山の好きなものについて話した。嫌いなものの話はしなかったね。オレはカナエちゃんの、嫌いのカテゴリーに一部でも自分が入るのが怖かった。

カナエちゃんが椅子に座って机に突っ伏して、意識を失ってる。

「さよなら」

 ドアを閉めると、地面の半透明の足許の花吹雪が舞った。目の前に木常がいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

私と貴方の報われない恋

梨丸
恋愛
田舎の男爵家の少女、アーシャには好きな人がいた。 家族同然の幼馴染を好きになってしまったアーシャの恋は報われない……。 主な登場人物 アーシャ  本作の主人公 フェルナン アーシャの初恋 ※アーシャ編とフェルナン編の二編を投稿します。 ※完結後も番外編を追加するかもしれないです。 11/3 完結いたしました。 11/4HOTランキング入りしました。ありがとうございます。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

処理中です...