指先だけでも触れたかった─タヌキの片恋─〖完結〗

カシューナッツ

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〖第23話〗私の名前を呼んで

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「私は幸せだよ、田貫。ずっと今が続けばいい」

「オレは、嫌だ」

すべてに木常の世話になるのは嫌だった。しかも『気』の分け方がオレには恥ずかしくてたまらない。

「私といるのは、嫌か?田貫」

「嫌じゃない。もう、逃げねぇ。こんなんやり方じゃなくても、ちゃんとあんたの気はもらって『治療』するか──」

遮るように、木常はオレに口づけた。気が低下していたオレに木常は気を分けてくれてた。それを『治療』と呼んでいた。

「──あんたじゃない。鈴蘭だ。名前を、呼んで」

オレはいつの間にかヒトのカタチをとれていた。どれくらいタヌキでいたんだろう。そのくらい長い時間ヒトのカタチをとれていなかった。喜んだけど、冷静になると少し恥ずかしい。にごり湯がありがたかった。

「木常………」

 名前を呼ぶ。

「『鈴蘭』、だよ『太白』」

鈴蘭はオレの名前を呼ぶ。

『治療』をした。本当の、切ない『恋』の『治療』甘い視線で鈴蘭はオレを見た。宵闇にオレ達の声は溶けた。

***************

「失礼致しました。ありがとうございました」

オレがそう言い、カナエちゃんにお守りを手渡した瞬間、カナエちゃんの声がいきなり益荒男の声に変わった。ここの祭神だ。しゃがれた、張りのある声だ。

「……二人も結ばれて良かった。中々くっつかんものだからヤキモキさせられた。太白よ。ずっとうちの稲荷の鈴蘭がな、お前に想いを募らせて『太白さんに会いたい』と、焦がれて泣いて憐れでな。だからお前を特別に神社に入ることを許したんじゃ。幸せになれ………これで完全な『はっぴぃえんど』じゃな。はっはっは………」

 ………神の気が抜け、表情が、カナエちゃんに戻る。『神降り』したせいか、かなり疲れた顔をしていた。グラリとバランスを崩したカナエちゃんに、オレは窓から手をのばした。







◇◆つづく◆◇
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