11 / 25
〖第11話〗親友に会いに
しおりを挟む嬉しそうに、照れ臭そうに笑うおじいさんの視線は小柄なおしゃれをしたおばあさんに注がれていた。
咲也はどんなお金持ちよりも、その二人が羨ましいと思った。おばあさんの薄紫色で、クリーム色の花のコサージュのついた帽子が、薄暗いホームの唯一の色彩だった。
喫煙室のドアが開く。
「あなた、あと五分で来るみたいですよ」
可愛い声のおばあさんだった。
「今行くよ。じゃあ、お兄さん、良い旅を」
そう言い老夫婦は指定席の方へ向かった。咲也は、そっと煙草を消し、独り自由席の列に並んだ。
──────────
久々に会う結城は、やはり美形だった。ちなみに結城もゲイだ。童顔でどう見ても二十代に見える。美青年が好きな紳士がタイプなので需要と供給は合致していると思う。
普段口は悪いが咲也にはやさしい。高校時代、お互いの性癖は二人だけの秘密だった。ちなみに好みのタイプは被ったことは一度もない。
大学に入り、学部が違ったので距離はできたが、やはり友人としての特別は結城だけだ。
「咲也!ごめん、遅れた!」
「気にしてないよ」
咲也は喫煙可の貴重な小さな喫茶店でエスプレッソを飲みながら一服していた。駆け寄る結城の姿はきちんとした格好で清潔感だけではなく洒落っ気がある。
手を抜いていないな、と思う。きっと足の先から、髪の先まで綺麗なのだろう。もっと言えば玄関から、クローゼットまで。そんな奴だ。
結城の注文したミルクティーが運ばれ、落ち着いてからエスプレッソを飲みながら、さっき考えていたことを何気なく言うと、結城は、
「咲也に憧れていたから」
と恥ずかしそうに笑った。咲也は昔から、物静かな性格で、あまり目立たなかったが、いつもきちんと身ぎれいにしていたと、結城は言う。
「何だよ、それ。ちょっと恥ずかしいな」
「誕生日にもらった香水、覚えてるよ。急に大人になれた気がした。嬉しかったな」
咲也は照れ臭そうに下を向き、二本目の煙草に火をつけた。原稿を渡し、仕事の話をした。
予約していた店で美味しいイタリアンとお酒を楽しみながら、軽くワインを飲んだ。それから、あまり気取りのないバーへ行った。
結城はすっかり酔いが回っている。顔がほんのりと赤く、気持ち良さそうだ。
「結城は本当に年取らないな。二十代って簡単に嘘つけるよ。まぁ、『若いから良い』なんて奴は論外だけどね。それでもさ、若さは武器だけどね。学生時代、懐かしいな」
「咲也は、美青年だったよ。硬質な感じの。髪がトレードマークだったよね」
「髪?」
「高校の時も、大学の時も、咲也が通ると、すごくいい匂いがしたんだよ。女子にも何気に人気あったみたい。今のサラサラの長めの髪、似合ってるよ。まあ、咲也のことだから無精だろうけど。ちゃんとヘアサロン行かなきゃだめだよ?」
「そうだなあ。ここずっと行ってない」
それから仲が良かったクラスメイトの近況、それと、今付き合っている男性の話をした。カクテルも進む。咲也は、巌の話をした。お互いに、指輪の制約がある男性は『対象外』と昔から話してきたので、あまり言いたくはなかったのだけれど、話した。まず、
「咲也でも、そんなことあるんだね」
咲也が相当なヘマをしたように結城は感慨深げに言った。しばらくしてキールを口に運びながら、結城は言った。
「話聞いてて思うんだけど、巌さんは咲也のこと好きなんじゃないの?」
「まさか!それはないよ。大家さんとただのアパートの住人。巌さん、俺の前で一回も指輪外したこと、ない。奥さんの話も、したことないけど」
「ふうん。でも、咲也を大切には思ってると思うよ。でも指輪はしてるのに『待っているひとなんて居ない』って、何か意味深だね。どんな意味なんだろう。ごめんね、咲也。だめだ、全然頭回らない。飲み過ぎたかな。折角相談してくれたのに本当ごめん、役にたたなくて。でも、咲也が既婚者に片想い中とはね。どんなひと?写真ある?」
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ
MITARASI_
BL
I
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
Ⅱ
高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。
別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。
未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。
恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。
そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。
過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。
不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。
それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。
高校編のその先を描く大学生活編。
選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。
続編執筆中
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる