抱きしめたいあなたは、指をのばせば届く距離なのに〖完結〗

カシューナッツ

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〖第11話〗親友に会いに

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 嬉しそうに、照れ臭そうに笑うおじいさんの視線は小柄なおしゃれをしたおばあさんに注がれていた。

 咲也はどんなお金持ちよりも、その二人が羨ましいと思った。おばあさんの薄紫色で、クリーム色の花のコサージュのついた帽子が、薄暗いホームの唯一の色彩だった。

 喫煙室のドアが開く。

「あなた、あと五分で来るみたいですよ」

    可愛い声のおばあさんだった。

「今行くよ。じゃあ、お兄さん、良い旅を」

    そう言い老夫婦は指定席の方へ向かった。咲也は、そっと煙草を消し、独り自由席の列に並んだ。

──────────    

    久々に会う結城は、やはり美形だった。ちなみに結城もゲイだ。童顔でどう見ても二十代に見える。美青年が好きな紳士がタイプなので需要と供給は合致していると思う。

 普段口は悪いが咲也にはやさしい。高校時代、お互いの性癖は二人だけの秘密だった。ちなみに好みのタイプは被ったことは一度もない。

 大学に入り、学部が違ったので距離はできたが、やはり友人としての特別は結城だけだ。

「咲也!ごめん、遅れた!」

「気にしてないよ」

    咲也は喫煙可の貴重な小さな喫茶店でエスプレッソを飲みながら一服していた。駆け寄る結城の姿はきちんとした格好で清潔感だけではなく洒落っ気がある。

 手を抜いていないな、と思う。きっと足の先から、髪の先まで綺麗なのだろう。もっと言えば玄関から、クローゼットまで。そんな奴だ。

 結城の注文したミルクティーが運ばれ、落ち着いてからエスプレッソを飲みながら、さっき考えていたことを何気なく言うと、結城は、

「咲也に憧れていたから」

    と恥ずかしそうに笑った。咲也は昔から、物静かな性格で、あまり目立たなかったが、いつもきちんと身ぎれいにしていたと、結城は言う。

「何だよ、それ。ちょっと恥ずかしいな」

「誕生日にもらった香水、覚えてるよ。急に大人になれた気がした。嬉しかったな」

    咲也は照れ臭そうに下を向き、二本目の煙草に火をつけた。原稿を渡し、仕事の話をした。
  

    予約していた店で美味しいイタリアンとお酒を楽しみながら、軽くワインを飲んだ。それから、あまり気取りのないバーへ行った。

    結城はすっかり酔いが回っている。顔がほんのりと赤く、気持ち良さそうだ。

「結城は本当に年取らないな。二十代って簡単に嘘つけるよ。まぁ、『若いから良い』なんて奴は論外だけどね。それでもさ、若さは武器だけどね。学生時代、懐かしいな」

「咲也は、美青年だったよ。硬質な感じの。髪がトレードマークだったよね」

「髪?」

「高校の時も、大学の時も、咲也が通ると、すごくいい匂いがしたんだよ。女子にも何気に人気あったみたい。今のサラサラの長めの髪、似合ってるよ。まあ、咲也のことだから無精だろうけど。ちゃんとヘアサロン行かなきゃだめだよ?」

「そうだなあ。ここずっと行ってない」

    それから仲が良かったクラスメイトの近況、それと、今付き合っている男性の話をした。カクテルも進む。咲也は、巌の話をした。お互いに、指輪の制約がある男性は『対象外』と昔から話してきたので、あまり言いたくはなかったのだけれど、話した。まず、

「咲也でも、そんなことあるんだね」

    咲也が相当なヘマをしたように結城は感慨深げに言った。しばらくしてキールを口に運びながら、結城は言った。

「話聞いてて思うんだけど、巌さんは咲也のこと好きなんじゃないの?」

「まさか!それはないよ。大家さんとただのアパートの住人。巌さん、俺の前で一回も指輪外したこと、ない。奥さんの話も、したことないけど」

「ふうん。でも、咲也を大切には思ってると思うよ。でも指輪はしてるのに『待っているひとなんて居ない』って、何か意味深だね。どんな意味なんだろう。ごめんね、咲也。だめだ、全然頭回らない。飲み過ぎたかな。折角相談してくれたのに本当ごめん、役にたたなくて。でも、咲也が既婚者に片想い中とはね。どんなひと?写真ある?」
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