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〖第15話〗優しくしてくれるのは、どうして?
しおりを挟む「ポカリ、飲める?ストロー持ってくるね。夕ご飯の薬は飲んだ?吐き気がないなら、少し用意するけど」
「吐き気はないよ。お腹、空いた。忙しくて朝からほとんど食べてなくって」
「急いでご飯作るから、休んでて」
巌はすぐに、うとうとと、微睡む。少し浅い寝息がすぐに聞こえはじめた。
誰かに必要とされることは、幸せなことだ。気づくと巌は咲也の上着の裾を軽く握ったまま眉間に辛そうに皺を寄せうたた寝をしている。
まるで『行かないで欲しい』とでも言っているようだった。何故か『淋しいのかな』と、咲也は巌を見てそう思った。そっと起こさないように巌の指をやさしくほどき、咲也は夕ご飯を作り始めた。
お粥は食べづらいかと思い、温かい、くたくたに煮た、煮そうめんを作った。それと、この前、巌が持ってきてくれた林檎をすりおろした。
「巌さん、ご飯が出来たよ。食べられそう?」
咲也が声をかけると、巌は、はっとした様子で身体を起こした。
「ごめん、寝てた」
巌は軽い咳をしながら、申し訳なさそうにソファーに腰かけ、目を擦った。
「寝てていいんだよ。病気の時は、休むのが一番だから。ご飯、出来たけど、食べられる?もう少ししてからにする?」
「少し、してからでいいかな」
だるそうにする巌に咲也は、コップにストローをつけたポカリを差し出す。
「一気に飲んじゃだめだよ。冷たいの、胃が驚くから。ダイニングまで歩ける?」
巌は頷き、ダイニングの椅子に座り直し、ゆっくりポカリを飲んだあと、暫くして美味しそうに煮そうめんを食べた。
『そうめんで温かいのを初めて食べたよ』
そう言い美味しそうに食べてくれた。とても好評だった。林檎も美味しいと食べてくれた。全てきれいに完食し、食後、巌は夕飯の薬を飲んだ。
「ソファーで楽にしてて。身体、だるいでしょ」
手早く洗い物を片付ける。そろそろ、いつもなら帰り支度をする時間だ。名残惜しく、咲也は壁にかかっている時計を二度ちらりと見た。
そんな自分を隠そうと、自分用に熱いコーヒーを淹れた。巌にはまた、冷たいストローつきのポカリ。
「話したいことがあるんだ」
隣に、来てくれる?巌に促され、ソファーの隣に座る。クッションが背中に楽だ。
「俺、前々から思ってたけど」
巌は指を組みながら、横の咲也を見つめる。
「どうして……そんなに、咲也くんはやさしいの?」
「巌さんが親切だから」
コーヒーを一口啜る。静かに咲也は言った。実際、そうだった。いつも巌はやさしくて親切だ。
つい甘えてしまうほど。つらいとき、寄りかかりたくなるほど。自分に向けられる、そのやさしさや親切を『特別』なのではないかと勘違いしたくなるほど。
けれどそれは、彼の左手が許さない。巌にしてみれば、自分なんて、たまたま親しくなったゲイのパートナーを亡くした、情緒不安定な厄介なアパートの住人。それぐらいだ。今になって再確認する。虚しさに笑いたくなる。
「でも、俺はひどいことを言った」
──────────
巌と知り合って最初の頃、巌と同じ質問をしたことがあった。
『巌さんはどうしてそんなにやさしいんですか?』
その時、彼は、
『物件的に、その……』
と言葉を濁したことがあった。チクリと胸に棘のようなものが刺さった。しかし咲也は深く気に留めなかった。
確かにアパートの大家としてはそうだろうと割り切っていたし、その頃、巌に対し、今のような想いもなかった。
『親切』にされるには『何かしらの理由がある』と思う程度だった。週に何回か、咲也のアパートを訪れる親切なやさしい監督者。ただ、それだけ。
お茶を飲み、ポツポツ話をする程度の関係だった。
──────────
今は違う。巌を見つめる視線に熱量が加わった。咲也は言った。
「今でも、前と同じ理由なの?」
そう咲也が言うと、巌は、はっきり、
「違うよ」
と言った。咲也は自分が一番言われたくない言葉を敢えて言う。声が震えた。泣きたいのか、笑いたいのか解らない。
「俺、今も、そんなに可哀想に、見える?」
「違うよ!」
巌は一言、さっきより強くそう言った。その様子に、咲也は、ソファーの前のローテーブルにコーヒーカップを置いた。巌のコップもそっと受け取りテーブルにのせる。
「……ごめんね、熱があるのに。無理させて。帰る時間だよね。タクシー呼ぶ?」
「まだ俺は、咲也くんに何も言ってない」
真っ直ぐ咲也を見つめて話そうとする巌に視線を合わせた。
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